図書館ソフト貸出の文化破壊
谷川昌幸(C)
このところ絶不調。何もする気がしない。仕方なく,近くの図書館からDVDを借りてきて観ている。
躁状態のときは,図書館がDVDやCDまで貸し出すのはケシカラン,映画は映画館で,音楽はホールで楽しむべきもので,それができないなら,せめてDVDやCDくらいは自分で買うべきだ,と息巻いていた。
これは正論だと思う。かつてレコードは貴重品で,慎重に選んで買い,傷つけないように大切に扱ったものだ。だから,滅多に行けないコンサートはむろんのこと,レコードであっても,いわば非日常であり,それだけに聴くことの喜びも大きかった。
ところが,技術進歩で,音楽も映画もいつでも容易に入手でき,いつまでも劣化しない電子データになってしまった。かつての得難いものを得,壊れやすいものを愛玩する愉悦,ハレの場で映画を観,音楽を聴く非日常的な感動はもはや失われてしまった。
ましてや図書館からDVDやCDを借り出すのは,お手軽そのもの,借り物の音楽や映画は単なる時間つぶし,気晴らしのタネにすぎない。対価なしに得られるものに,ろくなものはない。それは,麓から一歩一歩汗だくになり,ときには生命の危険さえ冒しながら登るべき高山の山頂に,ケーブルカーで登ってしまうようなものだ。
図書館貸出DVDやCDは文化冒涜,文化破壊だ。
と,自戒・自嘲しつつ,今回はDVD「会議は踊る」(1931年作品)を借りてきて,観ていた。ナポレオン失脚後,メッテルニッヒが開催したウィーン会議。そこに招かれたロシア皇帝と手袋屋の娘のロマンス。古い映画で,映像も音もよくないが,DVDをタダでお手軽に借りてきた後ろめたさと,画面に漂うウィーンの退廃的雰囲気が相乗効果をもたらし,しばし不健康でデカダンな気分に浸ることができた。
図書館のDVD・CD貸出は文化破壊であり止めるべきだが,ウツでウツウツしているときは,そんな健全な議論よりも,文化破壊加担への不健全で投げやりな気分に陥りがちだ。やはり,ウツはいかん。