ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ガンジーと高畠通敏の平和論

谷川昌幸

市民派政治学者・高畠通敏の平和論が出版された。立教大学での講義を起こしたもので,読みやすく,示唆に富む好著だ。
 
高畠は行動的な政治学者であった。インドのガンジー塾に1カ月参加し,裸足で歩き,断食し,アウトカーストの家に泊まって蚊責めに遭い(蚊も不殺生),こうして非暴力抵抗の運動を身をもって体得した。

 ベトナム戦争が始まると,反戦平和運動を立ち上げ,これを「ベ平連(ベトナムに平和を市民連合)」と名付けた。イデオロギーや組織主導ではない,市民の反戦平和運動である。

 高畠は「運動の政治学」において,運動とは「身体を運び動かすことによって相手の心を動かすこと」と定義した。これは厳しいパシフィズムである。権力者,指導者らは,「自分の身体は少しも動かさず,高いところに座って口先だけで人の身体を左右する」。これに身体をもって抵抗するのが,平和運動だという。事実,ガンジーは,自分の身体をもって,イギリスの心を動かした--

 「私(総督)はガンジーを何回も投獄した。しかしガンジーは私の心を征服した。ガンジーが(獄中で)つくったサンダルは私の一家,子々孫々に伝える記念品である。」

 高畠の参加したガンジー塾では,学生たちに全員が一斉に戦車の前に飛び出し寝ころぶ訓練をしていたという。バラバラだとひき殺されるが,集団で一斉に寝ころべば,それは出来ない。非暴力抵抗は,観念論のように聞こえるが,殺すよりも殺される方がましだという信念を抵抗運動にまとめることが出来さえすれば,それはガンジーやML・キングが実証したように,巨大な暴力にも打ち勝ちうる大いなる現実主義となる。

 しかし,いまの日本では,こうしたパシフィズムは嘲笑の種にしかすぎない。テレビ討論番組は,平和のためには暴力が必要との似非リアリストに占領され,開戦前夜のように威勢がよい。国会は共産党,社民党など,ごく一部を除けば,与野党とも軍隊容認派,軍事的平和貢献論者ばかりになった。9条改悪,本格的海外派兵,参戦は,目前だ。

 安全のための軍隊! 平和のための戦争! これは正気か狂気か? 派兵,戦勝でちょうちん行列が始まる前に,今一度,頭を冷やして,よく考えてみるべきだろう。

 ●高畠通敏『平和研究講義』岩波書店,2005年,¥2,100

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Written by Tanigawa

2005/10/12 @ 10:03

カテゴリー: 平和

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