CIAと日本外務省-王族殺害事件をめぐって
谷川昌幸
CIAのネパール情報(World Factbook)をみると,冒頭で,2001年6月1日の王族殺害事件について,次のように説明している。
In 2001, the crown prince massacred ten members of the royal family, including the king and queen, and then took his own life.
あとの方のページの目立たないところに,
King BIRENDRA Bir Bikram Shah Dev died in a bloody shooting at the royal palace on 1 June 2001 that also claimed the lives of most of the royal family; King BIRENDRA’s son, Crown Price DIPENDRA, is believed to have been responsible for the shootings before fatally wounding himself; immediately following the shootings and while still clinging to life, DIPENDRA was crowned king; he died three days later and was succeeded by his uncle.
と述べ,用心深く「~と信じられている」と限定しているが,これは万が一の時の責任逃れにすぎない。
CIAは,皇太子=王族虐殺犯を歴史的事実(fact)として早急に確定しようとしている。これは,CIAの陰謀だろう。その裏に何があるか?怪しい。
CIA説は大いに怪しいが,アメリカの良心的なジャーナリズム,NGO,知識人も,この説を丸飲みにし,議論する場合が少なくない。CIA作戦は大成功である。
この流れを批判し,事実究明に目を向けさせるのは,歴史家の仕事だが,陰謀めいた王宮内事件であり,当面は本格的調査は難しい。われわれとしては,「CIA説の根拠は不十分」と警鐘を鳴らし続けるべきだろう。
その点,日本外務省は,えらい。外務省HPは,こう説明している。
「2001年6月1日に起きた王宮内での銃乱射事件により、ビレンドラ国王王妃両陛下をはじめとする王族が殺害され,故ビレンドラ国王陛下の弟君であるギャネンドラ殿下が第12代国王として即位した。」
外務省は,公式には,「犯人不明説」をとっている。これは,ネパール政府ともCIAとも明確に異なる,誠実な態度だ。
外務省は,立派だ。これはやはり,アメリカとは異なり,CIAのような怪しい機関を本格的にネパールに展開しておらず,ネパール国内の歴史的事件に対し,相対的に自由な立場をとれるからであろうし,また日本国内にはうるさいネパールマニアがたくさんいて,怪しい説に政治的に加担すると袋だたきに合うからであろう。
では,もう一つのネパール関係機関「日本ネパール協会」はどうか? 最近,新しいホームページをつくっているらしいが,ネパール史紹介ページで,王族殺害事件をどう説明するか?
1 CIA説に組みする
2 日本外務省説に組みする
3 言及しない
2 日本外務省説に組みする
3 言及しない
これは「踏み絵」だ。よく見ていよう。