ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ギャンブル経済とネパール的生活

谷川昌幸:

人間の記憶は,本当に当てにならない。日本では,ほんの十数年前のバブル熱狂,破裂をもう忘れ,またギャンブル経済に向かい始めた。とにかく,すさまじいことが起きている。

▼株が2倍に!
つい1年余り前,株主優待券(50%引き)目当てに,ANA,JAL株を買って,「わが社の飛行機」に乗る優越感と盆正月でも半額の特権を楽しんでいたら,何とその株がいまや2倍に。

もっとすさまじいのが,日頃お世話になっている都銀下位行株。たった5万円程度だったものが,1年余りで10倍。競馬・競輪なみにスリリングだ。

そして,つい先日(2005年12月中旬),誤発注・システム欠陥のスキを合法的について,一瞬にして20億円も儲けたネット株投機青年(27歳無職)が話題になった。こうなれば,もはや宝くじ以上だ。

▼バーチャル株バブル
今回のバブルは,前回のバブルよりも何倍も悪質で危険だ。前回バブルは,参加者もまだ限られており,庶民はせいぜい小規模不動産投機に手を出したくらいだった。バブルがはじけても,不動産は残った。

ところが今回は,ネット取引移行で,万人参加のバーチャル経済ギャンブルとなってきた。見るもおぞましい光景だが,小中学生が株取引講座に参加したり,親から資金を与えられ,パソコンやケータイで株取引を始めた。それはそうだ,インターネットは,お父さんよりも子供の方がうまい。

▼ギャンブルを煽る高級新聞
そして,朝日など格調高いクオリティ新聞までも,ほんの少し前のバブル煽動の前科を忘れ,またもや投機ギャンブルを煽り始めた。これでは,戦争加担の重罪をケロリと忘れ,進軍ラッパを吹き始めるのも時間の問題だ(全国2紙はすでに開始している)。

▼全員参加型バブルの演出者
今回バブルの恐ろしさは,全員参加型バーチャル・バブルだということ。株投機は,麻薬中毒と同じで,増量しつつ続け,やめられなくなる。ケータイ株中毒となり,バブル破裂・破産まで止められない。しかも,今回は,欲ボケ企業や金満強欲家の火遊びではない。小学生や主婦,無職青年から年金生活者まで,文字通り全員参加型だ。もしバブルがはじけたら,多くの庶民が一瞬にして地獄に落ちる。バーチャル幻想に投機しているのだから,夢が覚めたら,借金以外には何も残らない。

こんな危険な悪巧みを演出しているのは誰か? 阿片中毒は,しらふの阿片商人がつくりだし,ぼろ儲けする。ケータイ株バブルは,冷徹な元締め資本家が演出制作し,株中毒患者を発生・増殖させ,いいように食い物にし,廃人にして,自分はさっさとゲームから降りる。そんな冷酷阿片商人のようなワルは誰か? 

そのようなワルが跋扈し,その甘い誘いに,ほんの十数年前の苦い経験をケロリと忘れ,手もなく乗ってしまう多くの欲ボケ国民。日本はもうダメだ。

▼ネパールの堅実性
「これに比べ,ネパールは・・・・」というと,またネパールの誉め殺しだな,と警戒されるかもしれないが,決してそうではない(多少の誇張はある)。つまり,ケータイ株バブル日本の不健全,不安定に比べれば,農閑期に陶器製造を手伝い,壺やレンガをもらって帰ってくる,あの物々交換経済の方が,はるかに健全だ。カネ(いまは電子マネー!)がカネを生むのは,古来哲人たちが警告してきたように,倫理にもとる。

これに反し,物々交換やその補助に限定された貨幣使用であった頃のネパールは,リアルな使用価値を基準にする倫理的な経済だった。いまのネパールがどの程度そうした前資本主義的経済活動を残しているかは,専門外の私にはよく分からないが,少なくとも日本のバーチャル投機経済とは対極的な堅実な体制であることはまず間違いない。

▼ネパール的生活の再評価
こうした議論については,「貧困」をどうするのだ,と非難されるが,「豊かさ」を資本主義の尺度で測るのは,もうそろそろやめにした方がよい。時間,環境,安全などを含む生活の総合的な質で「豊かさ」を再評価する。そうすると,ネパールと日本(先進国)の関係も,大きく変わってくるだろう。

▼ネパールの投機バブルは?
しかし現実には,日本など先進国は,ネパールを不健全な資本主義世界に引き込もうと躍起になっている。資本主義ゲームに参加させなければ,儲けられないからだ。インチキ賭博の胴元のようなものだ。

私はカトマンズしか知らないし,最近数年間はそこにすら行っていないので,現状は正確には分からないが,ネット情報などを見ると,かなり投機資本主義に毒されてきたようだ。

前回バブルの終わり頃,カトマンズでも不動産バブルが発生,日本バブルを見ていたので,ネパール・バブルもいずれ破裂するよ,と友人にいっていたら,やはりそのとおりになった。幸い,これはごく少数の金持ち参加の不動産バブルだったので,傷は限定されていた。その頃,株式市場はまだできたばかりで,ままごとのような規模だったので,株投機バブルは起きていなかった。

▼グローバル投機バブル
さて,そのネパールだが,今回のグローバル投機バブルには,どう対応するのだろうか? アメリカでは,この十数年でダウが5倍くらいになり,最近は不動産投機が過熱している。中国も印度も投機熱で浮かれている。世界全体が熱病状態だ。日本というより世界同時バブルといってよい。

先述のように,これは麻薬中毒と同じだから,いずれ必ずはじける。その時,いよいよマルクス主義の再登場となるかどうか,それは分からないが,少なくともこのグローバル・バブルに乗らなかった人民は破裂の打撃をあまり受けないで済むことは確かだ。

▼ネパール的生活の「豊かさ」を世界に
ネパールは,資本主義化に出遅れ,結果的にまだ投機経済になっていない。大きい目で見ると,日本よりはるかに安全だ。ネパールが,阿片商人のような狡賢い先進国にたぶらかされ,ギャンブル資本主義に引き込まれないことを願っている。

もちろん,生活は豊かにしていかなければならない。たとえば,和平を実現させるだけでも,庶民の生活は格段によくなる。「平和」価値は他の何物にも勝る。不必要な消費財(アブクのように消え去るもの)がなくても,人は平和で豊に暮らせることを世界に示す――これがネパールの歴史的使命ではないか。

そして日本は,そうしたネパールからこそ謙虚に学び,自らの悪習を改め,生活を真に平和で「豊かな」ものにしていくべきであろう。

Written by Tanigawa

2006/01/11 @ 19:07

カテゴリー: 経済

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