ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

カトマンズ性浄化: Amoral or Immoral

谷川昌幸:

カトマンズ警察の「性浄化」作戦を人権監視(HRW)が厳しく批判している。

▼Meti, Hijra
1月3日午前10時頃,3人のMeti(女性アイデンティティをもつ男性)がタメルを歩いていたら,4人の警官に侮辱され,殴られ,ピストルで脅された。「おまえらHijra(トランスジェンダー)が社会を汚染しているのだ,浄化してしまえ」。

12月31日には,やはりタメルでMetiが捕まり,殴られた。12月28日には,タメルで捕まったMetiが警察署で裸にされ,なぶられ,脅された。こうした事例は,昨年2月の国王クーデター以後,急増しているという。

▼人権侵害の性浄化作戦
この性浄化作戦は,どのような法律に基づいて実施されているのか? 売買春禁止は当然だが,私的性嗜好まで権力が取り締まるのは,明らかに人権侵害である。

▼スケープゴートとしてのMeti
こうした性浄化や民族浄化は,専制支配者が共通して好む政策だ。理由はいくつかある。一つは,社会的少数者をスケープゴートにして,民衆の不満を逸らすため。常套手段だが,極めて効果的であり,ナチス,大日本帝国,旧ユーゴなど,いたるところで使用され,猛威をふるった。

▼専制支配者の性倒錯
もう一つは,これは右翼専制支配者の異常性欲の陰画だということ。歴史を繙けば,純血,貞操,健全な家庭を唱え,不純異性(同性)交友を熱心に取り締まるのは,たいてい右翼権力者だ。ブッシュ大統領は,正しい性道徳,健全な家庭が大好きだ。

わが小泉政権も,右傾化に比例して,国民の強権的道徳化に傾斜し,ありがたい徳目を憲法や教育基本法に書き込み,国民を道徳化(精神浄化)しようとしている。

▼性取り締まり
つまり,性浄化,精神浄化は,権力中枢の性堕落,精神汚染の裏返しなのだ。性妄想にとりつかれた権力者たちは,権力と富だけでなく,性をも独占したいがため,下々の性的自由を抑圧し,搾取しようとする。性は生の根源であり,性の自由はあらゆる自由の根源にある。性を規制できなければ,専制支配は危うくなる。性は本質的に革命的なのだ。

証拠はいくらでもある。たとえば,中世カトリック教会が,独身主義や貞操(聖母マリアの貞操!)を説きながら,権力中枢では性的にいかに堕落していたか。極限は,例の魔女裁判。これは,聖職者たちの異常な性妄想をさらにかき立て,満足させるために,行われたといってもよい。(ちなみに,アメリカでは魔女裁判被害者の名誉回復がつい数年前に行われた。)

▼私的領域への不介入
権力による道徳取り締まりは,権力の道徳的堕落のバロメーターである。まともな政治権力は,私的道徳については,amoralの立場をとる。つまり,私的道徳の領域には,権力は介入しないということである。

▼amoral or immoral
ところで,少々気になるのは,HRWのScott Long氏が次のように述べている点だ。

"Nepali human rights groups are calling this crackdown ‘sexual cleansing.’ This amoral campaign has to stop."

amoralとは,非道徳,つまり道徳とは無関係で,不道徳的でも道徳的でもないという意味である。不道徳を意味するimmoralとは原理的に別の考え方だ。amoralは,上述のように,権力の私的内面領域不介入を意味する。

単なるケアレスミスならよいが,もしそうでないのなら,これは致命的な誤解なので,早めに訂正された方がよいと思う。

* Meti, Hijraのニュアンスが,よく分からない。どなたかお教えいただけないだろうか。

* Human Rights Watch, "Nepal: Police on ‘Sexual Cleansing’ Drive," 12 Jan. 2006

Written by Tanigawa

2006/01/13 @ 20:16

カテゴリー: 人権