ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ビシュヌの死

谷川昌幸(C)

『アウトルック・インディア』(6/5)に刺激的な見出しの記事が出ている。マノジュ・ダハール「ビシュヌの死:ネパールはいまやヒンズーではなく世俗の国。RSSのいうようにキリスト教の陰謀か?」。内容は,際物ではなく,なかなか面白い。(宗教関係用語は難しい。誤りがあればご指摘ください。)

1.ビシュヌの死
7党議会は,一撃の下に,ビシュヌ化身=国王を普通の死すべき人に変え,国王を人定法の上に置く半年前の最高裁宣言を否定して,すべての神権を国王から奪ってしまった。ビシュヌの死だ。

2.キリスト教=アメリカの陰謀
この世俗国家化は,インドRSS(民族奉仕団)=ネパールHSS(Hindu Swayamsevak Sangha,ヒンズー奉仕団)を怒らせ,反議会活動に走らせるのではないか,と危惧されている。著名なヒンズー学者ゴビンダ・トンドンは,Hindutva(ヒンズー主義者)ではないが,それでも,こう述べている:

「キリスト教会はカネを使ってネパール政治に大きな影響を与えてきた。ネパール世俗国家化は,(それと)切り離しては考えられない。・・・・国家がすべての宗教を平等に扱うべきことはいうまでもない。ネパールは(ヒンズー教国家ではあったが),国家として,決して極端な宗教政策を採ってこなかった。ムスリムは国費でハッジ(巡礼)に送られた。もしネパールが不寛容なヒンズー教国家であったなら,そのようなことが果たして可能であっただろうか。」

アメリカの陰謀かどうかは別にして,たしかに世俗国家への要求は強い。

・「この国は宗教的自由を認め,国民に自ら選択した宗教を持つ権利を保障すべきだ。」Dr. K.B.Rokaya, National Council of Churches
・「なぜ(ヒンズー国家)なのか? ネパールは,仏陀生誕地だから,仏教国であってもよいではないか。」Modanath Pasrit, SPA
・「ダリット以下の扱いを受ける人々がいるような国は,世俗化されるべきだと思う。」Swami Ananda Arun, Osho Mission
・「(世俗国家化されたので)いまやすべての民族集団,すべての個人が国民(nation)への帰属感をもつであろう。」Amik Serchan

3.改宗禁止規定の廃止
こうした考え方が広まると,現在の改宗禁止規定は廃止されることになるだろう。そうなると,著者によれば,宗教が政治化され,宗教対立が激化する。

・「世俗国家ネパールでは,宗教活動が激化し,この国の多様な諸集団間の伝統的調和が危なくなるだろう。」Chintamani Yogi, principal of Hindu Bidhyapith
・「世俗主義の考え方は支持するが,それが(世俗主義の)熱狂を呼び起こし,寺院破壊や牛屠殺に走らせる恐れもある。」Sanjeev Uprety, TU

4.RSSと王室
こうした世俗化の動きは,当然,ヒンズー主義者を刺激する。

実は,ネパールのヒンズー国家宣言は,44年前のマヘンドラ国王クーデタのときであり,このとき首相になったのが,RSSのツルシ・ギリ博士であった。以後,RSSと王室の関係は深まり,政党側はこれを警戒するようになった。

1990年革命が成功し,革命派がいまと同じく世俗国家憲法を要求したのに対し,RSSはビレンドラ国王に圧力をかけ,政党側憲法案を拒否させた。

2002年,政党側が世俗主義に傾き始めると,これに対抗しVHM(Vishwa Hindu Mahasanga)が,ギャネンドラ国王に「世界ヒンズー皇帝」の称号を授けた。

2005年2月クーデタ後,ギャネンドラ国王は,真っ先にVHP(世界ヒンズー協会)指導者のアショク・シンガルを招待し,これに応えてシンガルは世界のヒンズー教徒に国王支持を訴えた。

このRSS=王室関係は,4月民主化運動の高揚に対抗するため一層強化され,国王政府はバラート・ケサリ・シムハ率いるVHMに490万ルピーを供与した。

VHMビルガンジ大会には,VHPのサドゥが何人か招待されていた。国王も大会に出席しており,これによりヒンズー主義者(ヒンズートバ)の世俗国家化反対の立場が鮮明になった。

5.反世俗国家化暴動
こうした状況の中で,世俗国家宣言が出されると,印ネ国境付近を中心に,ヒンズー主義者の暴動が起こった。

ウッタルプラデッシュ州のマハラジ・ガンジ=ゴラクプル地方では,BJPのマハント・アディチャナト議員が,ネパール世俗国家化反対デモを行った。数日後,ビハール州の近くのビルガンジでは暴動が発生し,群衆は「わが国民アイデンティティに対する陰謀だ」と叫んでいた。

6.触らぬ神にたたりなし
神は気むずかしいものであり,安易に触らぬ方がよい。どうしても触らねばならないときは,出来るだけそっと触るのが,大人の知恵だ。著者のマノジュ・ダハール氏が,結論で,世俗国家化は慎重にやれ,と忠告しているとおりだ。

* Manoj Dahal, "The Death of Vishnu: Nepal is a secular–not Hindu–state now. Christian conspiracy, as the Rss alleges?," Outlook India, Jun5

Written by Tanigawa

2006/05/30 @ 19:43

カテゴリー: 宗教

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。