ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

2ちゃんねるとネパールと著作権

谷川昌幸(C)

朝日新聞(8/10)の「ネット掲示板の文章は誰のモノ」が面白い。

1.「2ちゃんねる」,著作権無償譲渡を義務化
記事によると,2ちゃんねるが,著作権を運営者(西村氏)に無償譲渡することを投稿条件としたという。以下,2チャンネルの「投稿確認」全文(2006.8.10)。

投稿確認
・投稿者は、投稿に関して発生する責任が全て投稿者に帰すことを承諾します。
・投稿者は、話題と無関係な広告の投稿に関して、相応の費用を支払うことを承諾します
・投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権、(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利も含む)その他の権利につき(第三者に対して再許諾する権利を含みます。)、掲示板運営者に対し、無償で譲渡することを承諾します。ただし、投稿が別に定める削除ガイドラインに該当する場合、投稿に関する知的財産権その他の権利、義務は一定期間投稿者に留保されます。
・掲示板運営者は、投稿者に対して日本国内外において無償で非独占的に複製、公衆送信、頒布及び翻訳する権利を投稿者に許諾します。また、投稿者は掲示板運営者が指定する第三者に対して、一切の権利(第三者に対して再許諾する権利を含みます)を許諾しないことを承諾します。
・投稿者は、掲示板運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を一切行使しないことを承諾します。
                       (「2ちゃんねる」よりコピー)

まことにもってすさまじい。こんな恐ろしい規定は信じがたい。カネのこともさることながら,人格にかかわること,つまり「著作者人格権を一切行使しないこと」とは,要するに,自己の人格が否定されても文句を言わないということだ。

とんでもない規定だが,分からないでもない。

2.近代主体性原理への屈服
匿名自由投稿で始まった2ちゃんねるも,だれのものか判然としない文章・作品は,結局は,無責任になる,ということを認めざるを得なくなった。近代主体性原理への屈服だ。

近代主体性原理は,世俗世界でいえば財産原理であり,その核心が著作権である。事実,資本主義のチャンピオン,アメリカは石油よりもむしろ著作権に命をかけている。その著作権原理主義に,2チャンネルも屈服した。しかも,節度を忘れて!

3.有名化へ
著作権は,著作者の義務を当然予想しており,これからは,2チャンネル記事の全部について,西村氏が責任を負う。そんな神様みたいなことが出来るのか?

出来はしない。とすれば,結局,責任を追求しきれない匿名は禁止ということになり,身元の分かる――名前を明示した――投稿しか受け付けないという方向に向かわざるを得ない。Post-web2.0だ。

2ちゃんねるは,悪口を書かれたとき数回見ただけなので,朝日記事により書いているこの文章にもし誤解や的外れな部分があれば,ご指摘ください。

3.ネパールと著作権
でも,これはネパールとは無関係では? そんなことはない。著作権の観念がなかった古き良き時代(前近代)のネパール文化を破壊したのは,インドを資本主義化したアメリカだ。インドに続き,ネパールに「著作権」を教え,MSNソフトの無断コピーを禁止し,WTOに加盟させた。

著作権を認めなければ,ワードだろうが英米現代小説だろうが,いやi-podや医薬品でさえ,コピーのし放題。ネパールはもっともっと豊かに暮らせる。1人当たりGDPが1/100以下の国が,なぜ著作権料を先進国に支払わねばならないのか? 知は万人のものではないか? それとも,知は金儲けのためのものか? あさましい。

4.マオイストも屈服
しかし,もはや手遅れ。ネパールはすでに世界資本主義に組み込まれ,著作権なしでは生きられなくなってしまっている。マオイスト革命に期待したが,これも「改革・解放」の社会主義的資本主義になり,著作権への抵抗はほぼ放棄してしまった。

近代主体性原理は,かくも強力であり,これといかに折り合いをつけるかが,本物のポストモダンの課題であろう。

Written by Tanigawa

2006/08/10 @ 11:38

カテゴリー: 人権