民主政の難しさ
谷川昌幸(C)
民主政は君主政よりも難しい。人民にとって,君主は他人だが,首相や議会は彼ら自身(人民代表)だからだ。自分で自分を統治する。これは難しい。イギリスや日本ですら,まだ女王や天皇に依存している有様だ。
その難しい民主政を,ネパールは今年からいよいよ本格的に始めることになる。大丈夫か?
1.タライ独立運動
最大の難問は何と言ってもナショナリズム。タライでは,マオイスト分派のタライ人民解放戦線がタライ独立を唱え始めた。
JTMM(Goit)は,タライ・バンダ(1/12-14)を宣言。要求は――
・非タライ統治者の退去
・タライへの移住禁止
・制憲議会選挙阻止
・タライ憲法の制定
・タライ人民による軍,警察,行政
JTMM自体は小勢力だが,タライにとっては,カトマンズよりも隣国の方が地理的,経済的,文化的にはるかに近く,その気になればカトマンズ政府と十分対抗できる。
タライ独立は,民族自決,つまり民主主義だ。これを政党政府が,どのような論理で阻止(弾圧)するか? 君主であれば,自分の領土保全のための権力行使であり矛盾はない。ところが,人民政府だと,人民が人民を弾圧することになる。
2.市民社会活動家弾圧
お膝元のシンハ・ダーバー,ブルワタルでは,新年早々,人民政府が平和的デモ参加の市民社会活動家63人を逮捕した。これも同じ理屈。説明がつかない。
ましてや政党政府は「完全民主主義」を唱えている。イギリスや日本のような不完全民主主義なら,女王が悪い,いや天皇制のせいだ,といいわけが出来るが,ネパールは「完全」と言っている。平和的デモを棍棒で殴りつけ,逮捕する民主主義的根拠は何か。
3.人民軍が人民の子供を徴兵
そして,民主主義と人権の旗手,マオイストは,相変わらず生徒を大量拉致し,宿営地に送り込んでいる。たとえば,スルケットの中学生(17歳)は,月給5000ルピーで教室から徴兵された。結構な高給だ。
スルケットでは,400人の生徒がダスラトプル宿営地に収容され,猛訓練を受けているという。
「武器・兵員管理監視協定」でマオイスト政府は,人民解放軍「戦闘員」を「2006年5月25日以前入隊」「1988年5月25日までに誕生」の2要件を満たす者とすることに同意した。それが「マオイスト政府の意志」だ。ところが,その意志に自ら背いている。
自分の意志に従えない。だから,赤の他人の国連の命令に従う。どこが人民主権,人民自治なのか。
4.人民による人民弾圧
このままでは2007年は人民による人民弾圧元年となりそうないやな予感がする。一般に,理想主義は現実主義よりも極端な悪政を結果しがちだ。「完全民主主義」ネパールが,逆ユートピアとならないことを願っている。
* Nepalnews.com, Jan.4; Nepali Times, #329, Dec.29-Jan.7; NHRN, Jan.2 & 3.