タライ解放戦線: 独立かインドへの統合か
谷川昌幸(C)
プラチャンダ議長が警察署再開に同意し,カトマンズ本流(mainstream)入りを鮮明にした。本流に入れば,周縁部は排除され,弾圧される。
1.タライ解放戦線
このマオイスト体制内化に激しく抵抗し始めたのが,タライ(マデシ)の民主タライ解放戦線(JTMM)だ。武器を取り,山地(パハデ)と戦い,タライ独立ないしはインド連邦加入を目指している。
平原(マデシ)派vs山地(パハデ)派。フランス革命のような,そうでないような。マオイストがネパール版山岳派なら,プラチャンダはネパールのロベスピエールといったところか。面白いが,ちょっと無理か。
それはともあれ,マオイストが体制内化すれば,タライから新人民戦争が始まりそうな気配だ。そして,もし始まれば,インドという大応援団がいて,これは一大事。ややこしいことになる。
2.ネパール州の可能性
タライ独立は,マデシにとってたいしたメリットはないが,カトマンズのパハデ国家から離脱し,インドの準州になるか,あるいは全土を巻き込んでネパール州として加盟することになれば,これは文句なしに彼らの利益になる。
反逆罪ものだが,どうせ国王がつくった国家だから,無くて困るものでもない。ビブティ・ネパールによると,インド連邦加盟には次の10の理由がある。
(1)インドルピーの方が高いので儲かる。
(2)市場統合による経済発展が可能。
(3)インド統合によりインドとなるからインドに侵略されない。これはすごい論理! 真面目にいうと,すでにネパール人はインド憲法上指定民族であり,ネパール語も公用語になっている。統合に無理はない。
(4)インドは,ヒンズー教徒にとって本家,非ヒンズー教徒にとっては世俗国家。
(5)インドの州は大幅な自治権を享受する。ネパール州も外交以外の権利はほぼ現状通り行使できる。
(6)インド政府がネパールの開発や災害対策に責任を持ってくれる。
(7)信用不足で着手できない大型開発が可能になる。大規模電源開発と電力輸出による発展。
(8)グルカ兵はインドが祖国となり,傭兵ではなく,祖国防衛の誇りが持てる。
(9)ネパールは現在も事実上インド軍が防衛している。
(10)小国ネパールは資源的に独立は無理。インド連邦の援助を得た方がよい。
以上が,インド連邦への加盟を正当化する理由だそうだ。冗談のようなものもあるが,全体としてはなかなか面白い。EUをみても,むしろこうした議論の方が時代を先取りしているし,近代国家の呪縛をとれば,地域住民にとっては実利ははるかに大きい。
憲法制定は,こうした国家解体ないしは消滅の可能性も含めて議論すべき事柄だ。そんな議論もできないようなら,世俗共和国などはじめから考えない方がよいだろう。
* Sheetal Kumar,"Draw the line, It’s not just pahadis that need to change their mindset," Madhesi – United We Stand, Jan.7, 2007.
* Bibhuti Nepal,“TEN REASONS WHY NEPAL SHOULD JOIN INDIA!,” Madhesi – United We Stand, Jan.7, 2007 ( Originally appeard in The Nepal Digest – Thu, 30 Jul 1998 )