ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

穀潰しの選挙民主主義

谷川昌幸(C)

また選挙批判と叱られそうだが,これは繰り返しいっておかねばならない。選挙は,成立条件が整ったところでは有益だが,そうでないところでは,よくて無駄金浪費,悪くすると過去の遺産の食いつぶし,穀潰し,最悪の場合は紛争の引き金となる(バングラディッシュ選挙を見よ)。

7+1党の選挙原理主義は,典型的な過去の遺産の食いつぶし,穀潰しだ。しかも,これはアメリカが国家戦略として展開している選挙民主主義に乗せられているだけなのに,そのことにちっとも気づいていない。選挙民主主義→伝統的社会諸制度の解体→市場社会への移行→アメリカ企業進出。

近代化は合理化であり,合理化は分析。すべてをとことん分析,分解すること。自由選挙は,本質的に,既存諸社会を徹底的に個人に分解し,1人1票で社会を再構成すること。これは大変なことだ。そんなことが出来る社会はごく限定されている。

民主化論のなかではこれは常識であり,現在,アジア,アフリカについては,むしろ伝統的な合意形成システムを再生し民主化のなかに組み込むべきだという考え方が有力になりつつある。伝統的諸制度には到底容認できないものがある反面,選挙民主主義をしのぐ合意形成システムも少なくない。たとえば,わが村にかつてあった水利や入会地利用制度,村道維持管理制度,相互扶助制度などはよくできており,選挙民主主義よりはるかに効率的で公平であった。

ネパールの村には行ったことがないので実態は知らないが,たとえば伝統的な村落パンチャヤット制などは,改善していけば,民主社会の堅固な土台になるのではないか。アメリカ民主主義が機能してきたのは,貴族のトクヴィルが見抜いたように,タウンミーティング(要するに村人集会,アメリカ版パンチャヤト)があったからだ。1人1票の選挙だけでアメリカ社会の統合をやってきたわけではない。

冷静に考えて欲しい。比例代表や連邦制にして,いったい何が解決されるのか? 議会や行政府が階層や地域ごとに分割され,権益の分捕り合戦となり,国家社会は解体する。

民主主義の元祖アテナイは,同質社会ポリスが当然の前提となっていた。民主主義の本家イギリスには,議員は利益代表,地域代表ではなく「国民代表」だという見事なウソを信じた振りをする政治的成熟があった。いまのネパールには,ポリス的同質性もイギリス的国民代表文化もない。全くない! そうしたところで選挙して,どうなるのだ。

アメリカは,国連を洗脳し,選挙民主主義を世界中に強制し,世界を自由競争選挙社会=自由競争市場社会にしようとしている。こんな企みにやすやすと乗せられてはならない。

大きなウソほど,人は騙されやすい。

Written by Tanigawa

2007/02/07 @ 11:49

カテゴリー: 民主主義