ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

海外派兵を煽る朝日社説

谷川昌幸(C)

朝日新聞の憲法記念日特集「社説21」を読むと,座標軸なき朝日が時流に流され,とうとう海外派兵推進派になってしまったことがよく分かる。朝日自身にその自覚はないだろうが,「時代に乗り遅れるな」の体質は,国民総動員が時流になった頃と少しも変わっていないようだ。

アントニオ・ネグリがいうように,グローバル帝国の成立により,戦争の目的は国家の「防衛」からグローバル秩序の「安全(セキュリティ)」に変わった。政治は「別の手段を持ってする戦争」となり,軍隊がその政治=戦争のために動員される。軍人は,あるときは建設業者,あるときは役人,あるときは警官となって世界のセキュリティのために働き,そしてイザとなれば本職の軍人に戻って武器を取る。

この軍人の全活動がグローバル化時代の戦争であり,換言すれば,戦争は日常化,常態化され,そこに軍人が文民とともに参加することになった。たとえば,「貧困との戦い」であれば,これを「戦争」と見るなら,そこに軍人が参加するのは当然であり,また戦争だから,必要なときには人権も民主主義も停止され,イザとなれば,軍人は本領を発揮し武力行使をする。軍隊の目的が「防衛」(攻撃撃退)から「安全」(秩序建設維持)に変わったのだ。

従来の戦争は,国家間戦争であり,基本的には非日常的,例外的なものであり,国際法上,攻撃に対する「防衛」としてのみ認められていた。本質的に消極的(negative)な暴力行使だ。そして,この防衛戦争は,例外状態だから,それを前提条件に,人権や民主主義の停止も一時的なものとして認められていた。攻撃から憲法を守るために一時的に憲法を停止するという「例外状態」(ドイツ法)の法理だ。

ところが,「安全」のための戦争は,そうではない。「貧困との戦い(貧困からの安全)」「病気との戦い(病気からの安全)」「テロとの戦い(テロからの安全)」を見よ。それらの戦いは不断に戦われ,永続し,そこでは積極的な先制攻撃も許され(求められ),そして必要な場合には人権も民主主義も停止される(米対テロ戦争など)。軍事と非軍事の区別もなくなり,軍民一体,軍民共同活動として,この戦争は戦われる。戦争の日常化,常態化だ。

この「安全」のための国際貢献(平和貢献)が,2006年末の自衛隊法改定により,自衛隊の本来任務(本職)となった。自衛隊は,外国の侵略から日本を防衛するための「自衛」隊から,世界の「安全」保障のために積極的に介入し戦う軍隊に変質したのだ。

これは,日本政府が推進する「人間の安全保障」の基本方針でもある。「人間の安全保障」は,元来,軍民一体型安全保障であり,政府はこれをテコに自衛隊を世界展開させ,大軍拡をしようと目論んできた。

「人間の安全保障」には二面性がある。一方で,それは,人間の生活の安全を総合的に保障するという正当な目的をもっている。ODAや民間援助により生活の向上を図り,世界中の人々に健康で文化的な最低限度の生活を保障する。これは崇高な目標であり,反対する人はいない。そして,現に政府や民間の多くの人々や機関が,日夜,そのために努力している。

しかし他方で,「人間の安全保障」は軍隊関与を認めている。だが,非軍事的開発援助に軍隊が関与することには根本的な問題がある。軍隊関与は,軍民分離の原則を否定し,開発援助を軍事化することになってしまう。

軍民分離の原則がなくなれば,危険になるのは軍隊よりもむしろ非軍事的援助機関である。開発援助は,本来,非軍事的であるべきものだ。「人間の安全保障」を名目とした軍隊の開発援助介入は,断じて許されない。

さて,この観点から,朝日新聞の「社説21」を読むとどうなるか。「世界のための『世話役』になる」「地球貢献国家」。大見出しはよい。誰もこれに反対はしない。

ところが,各論にはいると,とたんに変になる。「日米同盟を使いこなす。しなやかな発想」。少し前まで,軍事同盟を意味する「日米同盟」は禁句だったはず。それなのに左翼の朝日が巨大活字で臆面もなくアピールしている。これは「しなやか」ではなく,無原則。大政翼賛会的発想だ。そして,いよいよ核心に入る。


15 自衛隊の海外派遣
●自衛隊が参加できる国連PKO任務の幅を広げる
●平和構築のための国際的部隊にも限定的に参加する
●多国籍軍については,安保理決議があっても戦闘中は不参加が原則
 ・・・・01年に同法(PKO協力法)は改正され,凍結されていた本体業務への参加が解除された。停戦や武装解除の監視,緩衝地帯での駐留,巡回などが本体業務にあたる。まだこの分野での参加例はないが,今後は協力していくのが適切だろう。・・・・
 ・・・・将来的には現在のPKO法では認めていない,国連や公的施設の警護などにも範囲を広げる道も探る。・・・・
 ・・・・(戦闘中の多国籍軍への参加は)①誰の目にも明らかな国際法違反(領土の侵略など)があり,②明確な国連安保理決議に基づいて,国際社会が一致する形で集団安全保障(軍事的制裁)が実行され,③事案の性格上,日本の国益のためにも最低限の責任を果たす必要がある,といった要件をすべて満たす,極めてまれな場合でしかない。

16 人間の安全保障
●国連・平和構築委員会の中軸国となる
●「法の支配」定着への支援をお家芸にする
●ODAを大幅に増やす

 ・・・・自衛隊の海外派遣についての社説15で記したように,平和構築は世界の弱点をなくしていくために不可欠な政策である。
 ・・・・日本が平和構築委のまとめ役で力を発揮していけば,安保理に一定の発言権を確保することも可能だ。ここで実績を積むことで,日本は「常任理事国」でなくても,いつも安保理に必要とされ,頼られる国になれるだろう。そこを足場に,将来の安保理改革を唱えればいい。

(以上,5月3日付朝日新聞より引用)


以上の引用から明白なように,朝日新聞は,結局,自衛隊の海外派遣を煽り,しかも戦闘中の多国籍軍にも参加せよ,といっている。文面では「不参加が原則」と限定しているが,「原則」とはお役所言葉であり,これは実際には「参加してもよい」ということを意味する。そんなことは,用語集まで出している朝日新聞の社内では常識だろう。

また,「人間の安全保障」への軍事的・非軍事的貢献が,安保理常任理事国になるための手段であることも,朝日はあからさまに認めている。自衛隊の平和貢献,要するに国民の金と自衛隊員の生命により安保理のイスを買う。途上国援助は,日本国益のためのダシにすぎない。途上国の人々が読んだら侮辱されたと感じるに違いないような国益第一主義を,朝日もとっている。

いささか厳しすぎるかもしれないが,しかし朝日「社説21」は明らかに時流迎合である。朝日が率先して自衛隊の海外派兵を煽り立てれば,自衛隊はますます肥大化し,モンスターとなり,制御できなくなる。アメリカの命令や財界の要請で世界中の紛争に関与し,泥沼に入り,戦死者を出し,そして,結局はそれに対する批判の弾圧に向かう。日本の21世紀型軍国化だ。

軍隊に増殖の名目を与えてはならない。それが,どんなに美しかろうと。

Written by Tanigawa

2007/05/04 @ 13:06