ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

国王の政治的発言,日本財団会長同行メディア会見

谷川昌幸(C)

国王が2月4日,日本財団・笹川陽平会長,日本メディアと会見し,違憲の政治的発言をした。笹川会長は2月1-5日,ハンセン病状況視察のため訪ネし,これを記者団が同行取材していた。読売(2/5)や産経(2/8)の国王会見記事も,おそらくその同行取材の一環であろう。(もしそうでない場合は,以下の記事は撤回します。)

笹川会長の国王謁見の席に他のジャーナリストや仲介者,あるいは日本政府関係者がいたのか,それはいまのところ分からない。しかし,これが極めて政治的な会見であることはいうまでもない。むろん違憲だ。国王はそんな発言をすべきではない。

そして,もし読売や産経の記者が笹川会長の国王謁見に同行し,そこで取材したのなら,はっきりそうと明記すべきだ。記事そのものが,政治スローガンであるなら,そう明記しないと,両紙の記事はみなそのようなものだと受け取られる。

それでも産経は「記者(喜多)は日本財団の笹川陽平会長に同行した」と末尾に付記しているが,読売にはそのような取材状況の説明は一切ない。したがって,読売記事を大々的に紹介し始めたネパール・メディアにも,この発言がどのような状況でなされたかの説明はない。単なる日本メディアの取材に対する発言,とされている。

King Gyanendra has expressed displeasure over the recent decision of the interim parliament on abolishment of the monarchy, saying that it did not reflect the majority view of the people and that the it was not a democratic move, according to Thursday’s edition of the news portal of the Daily Yomiuri, a leading Japanese newspaper. (eKantipur, Feb 7)

According to the Japanese media, in an interview given to some Japanese reporters at the royal place on Monday, ….  leading Japanese daily Yomiuri Shimbun quoted the king as saying while speaking to several Japanese reporters at the royal palace recently.(Himalayan News Service, February 7)

Speaking to a select group of Japanese correspondents at the Narayanhiti royal palace on February 4, King Gyanendra said, …..The interview was published in Japan’s leading newspaper Daily Yomiuri.(nepalnews.com ag Feb 07 08)

これはマズイ。ネパールと日本の読者に誤解を与えかねない。ジャーナリズムにとって,誰が,どのような状況で発言したかを明記することは,基本中の基本ではないだろうか。

以下,参考までに,JN-ネット掲載記事と,王制に関するブログ過去記事を掲載する。

-----------------------

日本財団のネパール進出【 国王の政治的発言,日本メディアに 】への返信

2月4日の国王会見がどのような経緯で実現したのか分からないが,産経新聞によると,記者(記者団?)は日本財団会長・笹川陽平氏と一緒だったそうだ。同氏HPに記事と会見ビデオ(8分余)がある。一見の価値あり。
●ギャネンドラ国王 謁見http://jp.youtube.com/watch?v=-wehQvlSisU

興味深いのは,国王が少数民族,地方を引き合いに出してカトマンズを批判していること。6党とマオイストがカトマンズ中央権力を握りつつあるのに対し,国王が地方と少数民族を利用し対抗しようとしている。

実は,これはネパール近代王政の常套手段だった。国王は,政党勢力と対抗するため,少数民族を引き立て,重用してきた。だから,1990年民主化により,高位カースト支配はむしろ強化されたのだ。

地方や少数民族を,国王とマオイストが奪い合う。どちらが勝つか? 歴史的には,日独の過去が物語るように,民族は左よりも右のもの。ドイツなど,革命前夜と思われていたのに,民族社会主義ドイツ労働者党に完敗した。

日本財団のことも笹川陽平氏のことも,知識はゼロ。まったく知らない。が,「日本メディア」の国王会見,笹川氏の国王会見ビデオ(ユーチューブ)は,どこか変な気がする。どうしてかなぁ?

————-

国王の政治的発言,日本メディアに

2月4日,国王が日本メディアと会見し,7党を非難し,王制の是非は「国民自身が選択すべきだ」と発言した(読売2/6)。

こりゃダメだ。なぜ,国王はこの時期にこんな余計な政治的発言をするのか? 暫定憲法第159条は,「国王は統治に関する権力・権威(authority)を有しない」と明記している。いかなる場合にも憲法に従う。それだけが,21世紀の王制存続を可能とする。

私は,制度としての立憲君主制は残した方がよいと考えているが,現国王は立憲君主の重責には堪えられそうにない。残念ながら。

以下,参考までに,昨年の王制論再掲。

●世俗断念が王制の条件(2006/08/07)
ネパール王制は,いま存亡の瀬戸際にある。シャハ家はもともと地方領主権力の一つにすぎず,国家王家としてはせいぜい2百年ほどの歴史しかない。いわば武家の総代といったところ。日本国の神武天皇にまで遡るらしい万世一系の天皇家とは,そもそも有難味が違う。ビシュヌの化身といったところで,仏陀の化身もいるし,さして神秘性が増すわけでもない。また,アラブのようにアブラがあるわけでもない。そうした単なる武家の総代が国王の地位を維持するには,アラブ王族や日本国天皇の何百倍,何千倍もの努力がいる。

残念なことに,ギャネンドラ国王は,兄王とは対照的に,そのような努力を何もしてこなかった。それだけでなく,王族殺害事件の前後も含め,何事についても現国王はおそらく自分で決断して行動したことはなかったのだろう。(独裁者に見え,私もひょっとしてそうかなと思った時もあったが,そうではなかったようだ。)

不思議でならないのは,この春,反政府デモが拡大し,首都が燃え上がっているというのに,年中行事か占いかでポカラにとどまり,何ら手を打たなかったこと。このとき,あぁ,この国王は権力者ではなく,単なる操り人形だな,という印象を強く持った。

もし私が国王なら,善悪は別にして,おそらく何らかの手を打っていただろう。たとえば,天安門の鄧小平氏に習い,軍を総動員し,中国製特車などで群衆を踏みつぶし蹴散らし,一気に鎮圧してしまう。国家理性に従えないような国王は,マキャベリもいうように,権力者失格だ。そんなことも出来ない国王は,化石化した封建領主にすぎない。

そのような権威もなく権力もなく,おまけに化石燃料もない,化石化した封建領主が,21世紀国家の国王たるには何が必要か?

以前から繰り返し強調しているように,国の象徴に徹する努力をすること。これ以外にない。

ところが,8月4日,土地改革省から議会に提出された報告書によると,王家は3万4千ロパニもの土地を所有しているらしい。いかにも封建領主らしい。他にもホテル,タバコ会社,金地金,現金など膨大な財産をもっている。

これは,国の象徴にはふさわしくない。全部国家に寄進してしまう。早くやらないと,没収となり,悪評だけが残る。

政治権力も,強奪される前に自ら放棄しておれば,今頃は名君とあがめられていたはずだ。王族の範囲も,自ら制限しておれば,7月31日政府決定により国王,王妃,皇太子,皇太子妃,皇太后に限定されるといった屈辱をなめずに済んだ。政府決定の女王容認も同じこと。

国家理性に従い断固権力を行使する勇気もなければ,世俗の権力と富を放棄し国の象徴となる潔い志もない。こりゃ,ダメだ。

コイララ首相が8月6日,王制護持をまた力説した。国王というより,王制に象徴される既得権益を守るために他ならない。この形で王制が残っても,国王は有産特権階級に利用されるだけだ。

そうかといって,一発逆転,クーデターをやっても,国軍と組むにせよ人民解放軍と組むにせよ,国王が利用されることは目に見えている。

国王にとって最も賢明なのは,繰り返すが,一切の世俗権限,世俗財産を自ら放棄し,ネパール国とネパール人民の象徴になる,と宣言することだ。戦争放棄が日本国にとって,人間宣言が天皇にとって,最も現実的であったのと同じように,世俗断念宣言が,世俗国家ネパールで国王が生き残る最も現実的な方法である

「世俗断念が王制の条件」(2006/08/07)
http://nepalreview.spaces.live.com/blog/cns!3E4D69F91C3579D6!414.entry?_c11_blogpart_blogpart=blogview&_c=blogpart#permalink

Written by Tanigawa

2008/02/08 @ 13:03

カテゴリー: 国王

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。