ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

チベット難民を取り締まれ-「人民評論」

谷川昌幸(C)
 
チベットは,古来,ネパールにとっては取扱注意の難問であった。今回のチベット叛乱についても,ネパールの政府や諸政党は対応に苦慮しているようだ。その事情は,たとえばもし日本で台湾独立運動が拡大した場合,日本がどのような態度を取るかを考えると,すぐ分かる。ネパールにとって,チベット問題は,それとは比較にならないほど身近で深刻な問題なのだ。
 
国外の反政府運動については,ネパール自身も,インド政府に対しマオイストの領土利用を止めさせよと幾度も要求してきたし,マオイスト+7(6)党政府もマデシのインド領土利用に抗議してきた。
 
このように,どの国家にとっても,外国反体制派の国内活動への対応は難しいが,とくにネパールのように国家権力が弱体な国にとっては,それは深刻な政治問題となる。チベット弾圧抗議活動を容認すれば,中国から圧力をかけられ,内政干渉を招くが,そうなると対抗上,インドも介入する。泥沼だ。
 
ネパール政府が中国から繰り返し圧力をかけられていることは,BBC(20 Mar)などが伝えるとおりだ。次の「人民評論(People’s Review)」の記事「チベット難民はネパール領土を反中国に利用している」をみると,そのすさまじさがよく分かる。「外交通信員」名の記事は,こう述べている。
 
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ネパール暫定憲法は国土を反友好国活動に利用させないと定めている。ところが,チベット難民はそれを無視し,いま大ぴらに反中国活動をしている。
 
ネパールにおける中国の存在は巨大だ。ところが,親インド指導者たちはこれを考慮せず,チベット難民の政治活動を許している。
 
周知のように,近年,ネパールはチベット難民の政治活動の中心になっている。政権にある先見性のない政治家たちは,インドべったりとなり中国を怒らせている。
 
チベット人を扇動しているのは,中国オリンピックの失敗を画策している西側だ。かつて西側メディアは中国にはオリンピック開催は無理だといっていたが,思惑に反しオリンピックが実現しそうにになってきたので,今度は北京の公害を非難したが,これにも中国はうまく対応した。
 
そこで,西側メディアが目を向けたのが人権と民主主義だが,これについても何の問題も無かったので,結局,チベット難民の扇動を始めたのだ。
 
ネパールは,チベットと台湾が中国固有の領土であることを固く信じている。
 
チベット難民は,人道を根拠に,西側とインドの支援を受けネパールに居住しているが,もし政治活動をしたいのなら,直ちに国外退去すべきだ。ネパール領土を友好国攻撃に利用させないというのが,ネパ-ル政府の外交原則だからだ。
 
「民主」政府は,チベット難民を厳しく取り締まるべきだ。もし,この状態が続けば,これまで慎重に対応してきた中国も,国家統合を守るためネパールに介入せざるをえないだろう。(People’s Review, 20 Mar. 2008)
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以上は,「人民評論」の記事であるが,これは中国筋の脅迫と疑われかねないような代物だ。チベット難民の反中国活動を弾圧しなければ,ネパールに介入するぞ,というメディアを介した脅し。真偽はどうであれ,こんな脅迫があれば,ネパール政府がそれに抵抗できるはずがない。もしこの脅迫に対抗しようと思えば,南の核大国インドの本格介入を求めざるをえないだろう。そんなことになれば,ネパールはメチャクチャだ。
 
国家の立場からすると,アメリカや日本ですら出来ないことを,弱小国ネパールに要求するな,ということ,つまりネパールのチベット難民取り締まりを非難するなら,自国政府に対し,断交なりオリンピック・ボイコットを要求せよ,ということだろう。それほど,ネパールにとって,チベット難民問題は難しい。
 
しかし,これは国家や政府の立場。私たちは,一方では,世界社会の人権や民主主義の立場から,この問題について発言できるし,またすべきだ。国家の立場がどうであれ,チベット人ほどの大民族が独立かそれに近い自治をえられないのは,不当だ。
 
チベットの出来事は,何よりもまず自由に報道され,世界の人々の目にさらされるべきだ。もし公開に耐えられないようなものであれば,国家・政府の立場がどうであれ,それは世界世論(世論法廷)により裁かれ,維持できなくなるはずだ。チベットについては,まず見せよ! と要求すべきだろう。
 
それと,ネパールの6党やマオイストに対しては,これまで民族自治,地域自治を錦の御旗にしてきたのだから,まさにその原理そのものが問われているチベット叛乱についても,逃げることなく明確な態度表明をせよと要求してしかるべきだろう。
 

Written by Tanigawa

2008/03/23 @ 12:35

カテゴリー: 外交

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