ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

政治化する大統領

谷川昌幸(C)
ヤダブ大統領が急速に非儀式化=政治化している。生物学的血縁で正統化される国王ではなく,人為的に選出される国家元首だから政治化は当然である。
 
1.首相メーカーとしての大統領
ヤダブ大統領は,就任直後から精力的に各党指導者たちと会見し,首相指名のチャンスをうかがっている。
 
コイララ首相:首相から政党の意見聴取と首相指名方法について助言を受ける。ヤダブ大統領に対し,コイララ首相は,すべての政党の意見を聞き,マオイストに新政府を組織するよう説得すべきだ,と助言。
マオイスト:プラチャンダ議長,バブラムUPF議長,KP・マハラ情報大臣らと会見。直ちに全党合意政府を組織するよう要請。
UML:JN・カナル書記長らと会見。
MJF:ウペンドラ・ヤダブ議長らと会見。
 
このように,ヤダブ大統領は急速に政治化した。もはや,セレモニアルなどと,誰もいわないだろう。大統領のこの政治権力は,国王のそれと同じく,諸政党の対立抗争関係に依存している。諸政党の足並みが揃わなければ,ヤダブ大統領は国王以上の首相メーカーとなりうる。むろん,コイララ首相の再任指名も大いにありうる。
 
2.祭祀主宰者としての大統領
ヤダブ大統領は,選任直後,主要寺院を参拝し,神々の祝福を受けた。そして,7月26日にはパタンの「ボート祭」に副大統領,首相,最高裁長官,諸大臣らを率いて参列,ネパール共和国軍の礼装警護を受けた。
 
ボート祭の主賓は,国王→コイララ首相→ヤダブ大統領,と国家元首の交代とともに変化した。変化しないのは,祭政一致。あれだけ大騒ぎして世俗国家になったのだ。だったら,世俗権力者は,宗教儀式を遠慮するくらいの意地は見せるべきだろう。もしマオイストが,その理念通り祭政分離を貫くなら,その一点だけでもマオイスト政権は十二分に評価できる。
 
3.国王化する大統領
ヤダブ大統領は,頑張れば,祭祀主宰者,首相指名者となることができる。人民主権の90年憲法下で国王もそうしてきた。ヤダブ大統領に,それほどのカリスマ性と政治力があるかどうか,それはまだわからないが。
 

Written by Tanigawa

2008/07/27 @ 10:02

カテゴリー: 憲法

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