ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

タライの豊かさと貧しさ

谷川昌幸(C)
 9月11-14日,トヨタ4駆でタライへ出掛け,ナラヤンガート,ブトワール,バイラワ,ルンビニ付近を走り回った。これまでタライは,チトワンへ3日ほどマオイスト宿営地(cantonment)見学に行ったことがあるだけで,実質的な状況調査は今回が初めてだ。
 不可解,不合理! 「なぜこんな豊かなところが,こんなに貧しいのか?」
 
1.タライの豊かさ
 東西ハイウエーを100km/h前後でブッとばす。道路の両側は,鬱蒼たるジャングルか,緑一面の水田。これが延々と続く。なんて広く,美しく,そして豊かなのか! 
 (1)商工業
 その気になれば,産業立地として最適だ。広い平地,豊富な水,安価な労働力,そしてすぐ南には間もなく世界最大人口を持つことになる巨大なインド市場。ここに投資し,うまく経営すれば,莫大な利益が得られるはずだ。
 事実,ハイウェー沿い,あるいは枝分かれした幹線道路沿いには,かなり大規模な工場がいくつか建設され,操業していた。目立つのは,コンクリート工場や,製糖などの食品工場。
 しかし,これだけ立地条件に恵まれているわりには,まだまだ工場は少ない。労働集約型産業であれば,十分成り立つのではないか。
 (2)農業
 農業も,技術向上で生産性は飛躍的に向上するだろう。水田を見ると,いまは稲の出穂直前,なかには収穫を始めたところもあった。大半が伝統的品種らしく,実りはあまり豊かとはいえない。穂が垂直に立っているものが多い。
 改良品種による農業革命は,アメリカ独占資本の陰謀の側面がたしかにある。多収穫米は,肥料と農薬を多用し,種子は毎年種苗会社から買わねばならない。不用意に導入すると,インドと同様,農民は巨大国際農業企業に隷属するようになり,かえって貧しくなる危険性もある。
 そうならない形での農業技術改良は出来ないものだろうか。
 
2.タライの貧しさ
 幹線から外れ,細い村道も走り回った。所々で駐車して見るくらいで,これも印象にすぎないが,農民の住居は貧弱なものが多く,資本主義の基準では貧しいといわざるをえない。
 鬱病,自殺などの文明病と比べどちらがより深刻かと問われると困るが,それでも生活は極端に貧しいと見ざるをえない。
 多くの家の前で,女性たちが頭のシラミ取りをしていた。殺虫剤で害虫も益虫も駆除してしまった日本人の一人としては,この光景はショックだ。生活になれば慣れるという人もあろうが,蚊一匹でも寝られない私にはたぶん無理だろう。
 
3.仏の目に涙
 タライの自然は,お釈迦様の誕生が,さもありなんと納得できるほど,豊かで優しく美しい。神の創造の完全さが,そのまま残されている。
 その一方,人間が自然を破壊して造った道路沿いには低俗下劣な人造物が見るも無惨に散乱し始めている。自然の偉大,人為の卑俗を見るには,ヒマラヤに登るよりタライに降った方がよい。
 さらに,タライでは,金持ちの大邸宅と貧農の竪穴式住居との落差にも驚かされる。どぎつい原色俗悪趣味丸出しの御殿のような大邸宅と,雨露さえしのげそうもない掘っ建て小屋を見比べれば,タライのいびつさに愕然とせざるを得ない。
 自然に対する人間の罪,人間に対する人間の罪。お釈迦様は,救いようのない人間のこの大罪に涙され,悟りを開かれたにちがいない。
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東西ハイウェーからナラヤニ河を望む。遠景はジャングル、手前は水田。あまりの暑さにデジカメの色相が狂い(?)空が赤くなった。
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ルンビニの近代的工場。豊かな水田地帯に建設されている。

Written by Tanigawa

2008/09/15 @ 19:20

カテゴリー: 経済, 文化, 旅行

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