ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

仏教の政治的利用:ガルトゥング批判

谷川昌幸(C)

このところネパールでは,仏教の政治的利用が目に余る。私も仏教徒であり,仏教は偉大な宗教の一つだと思うが,だからといってそれを政治目的で利用することは許されない。たとえば,このHPを見よ。

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これは,平和復興省(Ministry of Peace and Reconstruction)のホームページの一部だ。れっきとした国家機関が,仏陀をあちこちに掲げ,平和を訴えている。ヒンドゥー教もイスラム教も道教も出てこない。 「仏陀の国に平和を,流血なき国を」「ネパールとネパール人の皆の誓い,平和」 

これまでヒンドゥー教王政により仏教が差別され,冷遇されてきたことは事実だ。仏教徒の村で,ヒンドゥー教徒優遇への激しい怒りをよく聞いたことがある。しかし,だからといって,仕返しに,仏教を政治目的で利用してよいということにはならない。

この愚行にお墨付きを与えている――そう誤解されるような議論をしている――のは,平和学の権威ガルトゥング氏だ。手元にある著作をぱらぱら見ても,こんな記述が至るところにある。

    米国   アフガニスタン

D(2分法) キリスト教原理主義 イスラム原理主義

M(価値2元論) キリスト教以外は悪 アラーの教え以外は悪

A(最終戦争) タリバン,アルカイダの壊滅 米国への徹底的なテロ攻撃
                       (『平和を創る発想術』p.23)

「仏教は,個人の心や『集団的無意識』についてばかりでなく,あらゆる生命について説き明かしている深遠な心理学です。そこでは,どんな『超越者』の意思にも従う必要がありません。こうした『超越者』というものは,ユダヤ教,キリスト教,イスラム教の場合に明らかなように,それらを生み出した側の人間の特性をどうしても帯びているものです。/仏教は,その非暴力への強い主張,自然界を利己的に利用してはならないとする態度,巧妙な詭弁など全く含まない慈悲の精神など,世界的なエートスを生み出すための豊富な素材を備えており,しかもこれらはすべて,深い混迷にある今日の世界が切実に必要としているものです。」(池田大作/ヨハン・ガルトゥング『平和への選択』pp.229-230)

もちろんガルトゥング氏は,池田大作氏との対談においてですら(対談の政治的意味は別として),宗教の政治的利用を厳に戒めている。

「政治権力者が仏教を私物化して,宗教上の事柄に支配力を発揮し始め,それに仏教が従うとき,仏教はあまりにもたやすく六つの短所に陥ってしまいます。・・・・国教としての仏教,といった考え方そのものがすでに“名辞矛盾”に陥っています。」(同上,pp.198-199)

ガルトゥング氏自身は用心深く仏教の政治的利用を戒めているものの,氏のユダヤ教,キリスト教,イスラム教批判は強烈であり,読者の多くは,平和のためには仏教思想が必要だと受け取り,仏陀を掲げて政治活動をすることになる。

ネパールを見よ。いまや政府機関,NGOなど,いたるところで仏教が政治的に利用されている。平和復興省がその典型だ。ヒンドゥー教は平和の宗教ではなかったのか? キリストは絶対平和を訴えたのではなかったのか? イスラム教は他民族への寛容の宗教ではなかったのか? このような仏教の政治的利用が,平和に貢献するはずがない。

追加(2008.11.12)

ネットを見ていたら,不思議な抗議声明が出ていた。これはいったいどう解釈してよいのか? ガルトゥング氏自身が,池田大作氏との対談者として,批判するなり抗議声明を出すなりすべきではないだろうか?

-----以下転載-----

ガルトゥング発言の曲解引用への謝罪および名誉回復の請求
(2004/02/16)

神崎武法 公明党代表

浜四津敏子 公明党代表代行

 2004年1月23日、貴党の浜四津敏子代表代行は参議院において党を代表し、小泉首相 の 施政方針演説についての質問を行いました。その代表質問において、浜四津氏はガル トゥング博士の言葉を文脈を無視した形で引用を行ったと私たちは確信します。した がって 浜四津氏、および公明党に引用部分を撤回し、ガルトゥング博士に公式に謝罪を行う ことを求めます。

 浜四津氏の代表質問においては以下の発言が含まれています。

 このたびの自衛隊派遣の目的は、平和憲法に合致した人道復興支援であり、戦争や戦 闘を目的とするものでないことは論を待ちません。

 行動する平和学者として世界的に著名なガルトゥング博士は次のように言っていま す。「頭は徹して現実主義であれ、胸には理想主義の炎を燃やし続けよ」と。わが党 は、これからも「行動する平和の党」として、胸には平和・人道・人権の時代をつく る理想を燃やしつつ、すべての課題に徹して現場に立ち、現場の目線から現実の解決 策に挑戦してまいる決意です。

 ここで二点、注意を促さなければならない点があります。まず、第一にガルトゥング 博士は一貫してアメリカのイラク侵略および日本のイラクへの自衛隊派遣に反対で あったということです。したがって、アメリカ政府および日本政府の現在行っている 戦争行為を正当化する目的のための演説に用いるのはまったく妥当性を欠きます。第 二に、浜四津氏が引用した部分に続きガルトゥング博士は「現実に目を閉ざしても、 何の役にも立ちません。同様に、現実主義を超えて、理想主義を人間的に展開してい くことができない人達は、人類の進歩には貢献しないものです。」と前の発言を敷衍 しています。ガルトゥング氏の発言の全体を引用してみると、アメリカの対イラク政策をその初期の段階より支持してきた公明党は「現実主義を超える」ことに失敗し、 「人類の発展に 貢献する」ことに失敗したことは明白です。また、現在の公明党の アメリカ追随の外交政策が立党精神からかけ離れてしまっていることを深く憂慮しま す。

 この代表質問は国会という公の場での発言であるため、浜四津氏の発言は歴史に残る ことになります。ガルトゥング博士が現在および将来にわたって誤解を受ける可能性 を排除するため、私たちは上記のガルトゥング博士の引用部分を議事録より公式に削 除するとともに、貴党および浜四津氏が公式にガルトゥング博士に対し謝罪文を送 り、それを機関紙に掲載することを要求します。また、ガルトゥング氏に現在のイラ ク紛争に関する同博士の立場を公式に表明する場を機関紙上に提供する事を要求しま す。

敬具

                         行動する平和憲法のネットワーク
                           World Citizens Renouncing War

http://wcrw.org/html/galtung-quote.html

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Written by Tanigawa

2008/11/06 @ 11:22