ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

自衛艦をソマリア沖に派遣せよ,朝日社説

谷川昌幸(C)
 
麻生内閣が,死に体からの起死回生をねらって,日本海軍(海上自衛隊)のソマリア沖派遣の検討に入った。内政に行き詰まったとき外に危機をつくるのは,無能政治家の常套手段だ。だまされてはならない。
 
ところが,朝日社説「海賊対策・事前に明確なルールを」(12/27)は,これを批判するどころか,政府の尻馬に乗って,軍艦(自衛艦)を出せ,と要求している。
 
むろん,露骨にそういっているわけではない。ソマリア国際支援や海上保安庁の協力にも言及はしている。が,それらは所詮,刺身のツマであり,本音は軍艦派遣である。
 
しかし,朝日がいくら軍艦を出せとラッパを吹いても,肝心の日本軍(自衛隊)がうんと言わない。防衛省は,武器使用基準も集団的自衛権もはっきりしないのに,日本軍を派遣するわけにはいかない,と頑固に抵抗している。
 
朝日は,この防衛省・自衛隊の軟弱が気にくわない。すでに朝日は,2007年5月3日付「社説21」により護憲平和から海外派兵推進に転向している。いまや,見方によれば,読売よりも朝日の方が好戦的だ。
 
12月27日の朝日社説も,海外派兵促進の社論に則り書かれてる。派兵できないのは,条件が未整備だからだ――
 
「まず、武器使用基準。海上警備行動の場合、威嚇射撃は可能だが、相手を攻撃できるのは正当防衛か緊急避難に限られている。海賊はロケット砲などの重火器を備え、護衛艦を攻撃してくる可能性もある。隊員の安全をどう確保するか、具体的に定めておかないといけない。
 また、守る対象はあくまで日本関係の船舶に限るのか。例えば、日本船が他国の船と船団を組み、それを護衛艦が守るケースも考えられる。現場の事情を踏まえて、現実的な方法を視野に入れる必要もあろう。」(朝日社説12/27)
 
まだ奥歯に物が挟まったような歯がゆい表現だが,本音は,要するに――
 
「大事なのは,事前にルールを詰めておくことだ。」(同上)
 
ということにつきる。軍隊として,ちゃんと武器が使えるように法整備をせよ,そうすれば防衛省・自衛隊に派遣を拒否する理由がなくなる,というわけだ。
 
「事前に明確なルールを」は,軍艦派遣が当然の前提になっており,「ルールを作れば派遣してもよい」という主張に他ならない。いつの時代でも,勇ましいのは,命がけで戦う軍人よりも,むしろ銃後の方だ。進軍ラッパは,世に先駆け,朝日が吹き鳴らす。たしかに進歩的だ。
 
そして,本当に恐ろしく警戒すべきは,田母神元航空幕僚長のような単純な軍国講談ではなく,この朝日社説のような,もっともらしい議論である。いまどき田母神軍国講談に引っかかるような純情な人はあまりいないであろうが,日本の良心たる大朝日の「進歩的」議論ともなると,よほど用心深い人でも,つい引き込まれてしまう。
 
どんなルールを作ろうが,軍隊を出せば,威嚇にとどまらず戦闘になる可能性があり,戦闘になれば,どんなルールがあろうが,結局は「ジャングルの掟」が勝利する。
 
アメリカを見よ。日本よりはるかに強固な法治の伝統を持つ民主主義の本家でさえ,いったん軍を動員すれば,ルール無視が常態となる。あのおぞましい「アブグレイブ」こそが,軍の本質なのだ。生きるか死ぬかの戦場で法治だの,文民統制だの,のんきなことを言っていられるはずがない。朝日は,かつて日本軍を統制した実績があるのか? 今後,統制する自信があるのか?
 
朝日社説は,こう読み解くべきだ。
 ・「事前にルールを」
 →「ルールを作れば,派兵してもよい」
 →「派兵すれば,戦闘の可能性がある」
 →「戦闘になれば,ルールは守られないかもしれない」
 
(参考)

Written by Tanigawa

2008/12/28 @ 11:26

カテゴリー: 平和