ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

サミール・アミンのネパール革命礼賛

谷川昌幸(C)
1.アミン氏のネパール革命礼賛
従属理論で知られるサミール・アミン氏がかなり長いネパール論を書いている。Samir Amin, "Nepal, a Promising Revolutionary Advance," Monthly Review, Jan.2009. 手放しのマオイスト革命礼賛といってよい。冒頭の小見出しは「本物の革命的前進」であり,次のように書き始められている。
 
「想像もして見よ。農民一斉蜂起を支援する解放軍が首都の入り口に達すると,これに呼応して首都では人民が立ち上がり,国王政府を権力から追放し,彼らの解放者たるネパール共産党毛沢東主義派(CPN-M)を歓迎,党は革命戦略の有効性をもはやこれ以上実証してみせる必要はなくなった。これはわれらの時代の最も急進的な革命的前進の勝利であり,したがって最も期待できるものなのである。」
 
2.革命と反革命
マオイスト革命は,私のような保守懐疑論者には,たしかに16時間停電や地域騒乱の革命的状況は生みだしているものの,それは人民民主主義よりもむしろ軍事クーデターをもたらす可能性の方が大きいように見えて仕方ない。
 
革命と反革命は,ベクトルが逆なだけで,多くの共通点を有する。革命のチャンスは反革命のチャンスでもある。アミン氏は,そこをどう考えるのだろうか?
 
3.戦略的妥協
アミン氏は,貧困諸階級と中産階級との共闘,マオイストと議会派諸政党との国連仲介による妥協(和平協定)を,革命戦略の一環として高く評価する。これにより,マオイストは議会多数派となり,権力を掌握し,プラチャンダ党首を首相とすることができた。
 
しかし,これはあくまでも戦略的妥協であり,革命勢力は次の段階へと革命を前進させなければならない。アミン氏によれば,取り組むべきは次の5つの課題である。
 
4.マオイストの課題
(1)革命的土地改革
マオイストの勝利の最大の理由は,革命的な土地改革の訴えであることは明白。しかし,既成諸勢力との「妥協」の結果,それはまだ実現できていない。
 
(2)マオイストによる軍統合
 
(3)人民民主主義の実現
先進国やその手先は「財産」を神聖視するが,マオイストはこれを否定し,社会的諸権利(social rights)を優先させる。
 
人権NGOはたいてい外国援助を受け,ブルジョア民主主義の擁護に回り,マオイストを「頑迷共産主義者」「スターリン主義者」「全体主義者」「中国専制模倣者」などと非難している。
 
マオイストは,私有財産をすべて敵視しはしないが,必要な場合の財産国有化は否定しない。「人民民主主義」は,人民諸組織と国家権力の双方の介入により,漸進的に実現されていく。
 
ネパール・マオイストは,バンドン会議(1955)のあいまいな「社会主義」から大きく前進した。彼らの「急進土地改革・人民軍・人民民主主義」は,社会主義への道を切り開くものである。
 
(4)連邦制
マオイストの連邦制提案は,人民の要求に応えるものである。諸民族人民は,分離独立は求めていない。
 
(5)経済的独立
小規模生産,半手工芸・半工業型産業の育成により,困難であっても,外国への経済的依存から脱却できる。
 
6.甘くはないか?
アミン氏のマオイスト礼賛は感動的だが,評価が少々甘すぎではないか? 5つの課題への取り組み提案を見ても,現実的とはとても思えない。
 
アミン氏は「漸進的」と限定することにより,用心深く予防線を張っている。漸進的だから,長時間停電が長引こうが,マオイスト幹部が外国物見遊山に出かけようが,親マオイスト・ブルジョアが高級マンションや建て売り住宅を建て柵で囲い込もうが,許されてしまうのだ。
 
人民の不満は,内外に「人民の敵」をつくることにより,そらすことができる。たとえば,印米帝国主義とその手先。
 
アミン氏によると,インドはBJP型のヒンドゥー教政党をネパールに作るため資金援助をしている。そして,米英など西側諸国がこれを支援している。外国の人権NGOや民主主義NGOも,この目的のために利用されている。妥協状態が長引けば,ヒンドゥー教勢力の結集がなり,革命は挫折するだろう。
 
このような反革命の危険に対し,アミン氏は,マオイストが人民直接行動により対抗することを期待する。制憲議会がどうなろうと,人民を動員し,革命を達成するのだ。
 
「CPN-Mは,投票依存の選挙のワナには陥らなかった。彼らは,社会基盤と選挙基盤を用心深く区別する。社会基盤(「社会的有権者」)は,多数者(貧農,都市人民労働者諸階級,学生と青年,女性,中産階級のうちの愛国的民主的な人々)からなる。選挙基盤(「選挙有権者」)は,すべてを投票者とするので,変わりやすく不安定である。この前者の社会基盤を支配的な組織的社会ブロックとし,権力から追放された封建・買弁ブロックに取って代えることが,CPN-Mの長い戦いの目標となる。」
 
アミン氏やCPN-Mが,選挙を信用していないことは,明白だ。
 
選挙はウソだが,ウソの効用を考え,ウソに賭けるのが近現代民主主義者。恥ずかしながら頑迷保守の私も,選挙のウソに騙された振りをして,投票に行く。
 
これに対し,選挙はウソだから,利用はしても,都合が悪くなれば,いつでも人民の実力行動に訴えてもよい,というのがアミン氏とマオイスト。
 
議会制民主主義を信用していないマオイストの議会政治支配に対し,ネパールの人々はどのような態度を取るべきか? あるいは,選挙を信用しないマオイストに対し,選挙原理主義の国連やアメリカは,どう対処すべきか? よく考えてみるべきだろう。

Written by Tanigawa

2009/02/09 @ 12:04

カテゴリー: マオイスト

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