ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

D.セッデンの連邦制否定論

谷川昌幸(C)
David Seddenは、「危機のネパール」(1980)、「ネパール人民戦争」(共編著)等の著作で知られるネパール学の権威。南ロンドン・カレッジ学長。マルクス主義者であり、マオイスト・シンパ。そのセッデン氏が、カトマンズ・ポスト(3/16)に長大なインタビュー記事を寄せ、連邦制を全面的に否定した。
 
マオイストは、民族やカーストの不満を権力闘争に利用してきたが、これはアイデンティティ政治を招くものであり、きわめて危険である。マオイストはトラを野に放ちそれに乗って権力を取ったが,本当にそれを御すことができるのか? 以下,セッデン氏の連邦制批判の核心部分をそのまま紹介する。
 
・・・・・・・・(以下,引用)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私自身は,連邦制は極めて危険だと考える。連邦制はネパールにとって大きな誤りだ。連邦制は,女性であれダリットであれジャナジャーティであれ,多数派の利益を守るためにも少数派の利益を守るためにも,実際には不要である。彼らの利益は別の方法で守られるはずだ。民族やカーストごとの自治区からなる連邦をつくるという考えは,はなはだ問題であると私は思う。
 
 また連邦制は,人々が思っているのとは逆に,基本的には反民主主義的である。なぜなら,連邦制は政治を一つの方法――すなわちカーストと民族――によってのみ行うからだ。選択の余地はない。また連邦制は,分裂を引き起こす。いま目にしているとおりだ。マデシは分離し自治州となりうるという主張は,たちまちそれに反対する運動を惹起した。タライに住むが「マデシ」には入れられたくないタルーの人々が,一週間にわたって反対運動をしたのだ。民族による政治は,いつまでも続き終わることのない問題を引き起こすだろう。私は断固主張する――連邦制は不要である。連邦制は望ましくないし,反民主主義的であり,深刻な分裂を引き起こすものである。
・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用)・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
以上のセッデン氏の議論に,私は全面的に賛成だ。が,しかし,ネパール学の権威ともあろうセッデン氏が,なぜ今頃になって,こんなことを言うのか? トラが野に放たれてしまう前に,トラは猛獣だから檻に入れておかないと危険だぞ,となぜ警告しなかったのか?
 
 少々手前ミソだが,この程度のことは,当初から私は主張してきた。そして,その要点はネパール紙上でも公表した。
このインタビューのおかげで,私は反動王制派のレッテルを貼られたが,最近は少し風向きが変わってきた。単一国家論にせよ儀式王制論にせよ,耳を傾けてみようという人々が出てきたのである。
 
 ネパールの政治家や知識人は,欧米の流行理論の無反省な後追いはやめるべきだ。そんなことをしていると,ネパールは怪しげな欧米試作理論の格好の実験場にされてしまうだろう。

Written by Tanigawa

2009/03/17 @ 20:02

カテゴリー: 憲法

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。