ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

天皇の憲法遵守発言の「政治的」意味

 谷川昌幸(C)
朝日新聞(2009/4/10)が,天皇結婚50年特集で天皇の記者会見の様子を詳細に伝えている。その中で,天皇は明治・大正・昭和(敗戦以前)の歴代天皇を否定し,戦後天皇を正当化し擁護した。
 
天皇: 「なお大日本帝国憲法下の天皇のあり方と,日本国憲法下の天皇のあり方を比べれば,日本国憲法下の天皇のあり方の方が,天皇の長い歴史で見た揚合,伝統的な天皇のあり方に沿うものと思います。」
 
天皇も人間であり,言葉を発し,それは多かれ少なかれ「政治的」意味を持つ。そもそも「国政に関する権能を有しない」天皇にそうした「政治的」発言が許されるかどうか微妙なところだが,憲法は天皇に「憲法を尊重し擁護する義務」(第99条)を課しているから,天皇が大日本帝国憲法を批判し現行憲法を擁護するのは合憲であり義務であるともいえる。
 
おそらくそうした考えからであろうが,現天皇は憲法遵守を事あるごとに明確かつ大胆に宣言している。現天皇の憲法遵守発言は条件反射的であり,身体化されているとさえいってよいだろう。政府の憲法軽視・憲法無視とは対照的だ。
 
あるいはまた,天皇は日本国憲法遵守以外に天皇家の安泰はない,と確信しているようにも思える。アジアの有力王家の一つであり天皇家とも親密だったネパール・シャハ王家の国王は,象徴に甘んじることができず,政治的権力を行使したがため,議会の多数決により王制そのものまで廃止され,いまでは普通の市民の一人となってしまった。そしてタイでもまた,国王が,象徴になりきれないがため,深刻な危機に陥りかねないような状況になっている。天皇は,おそらくこうした王制の行方を見ながら,憲法遵守発言を繰り返しているのだろう。
 
しかしながら,こうした天皇の憲法遵守発言が「政治的」と感じられ始めたのは,やはり異常といってよい。もし世論や政治家たちの意見が圧倒的に憲法遵守であれば,天皇の憲法遵守発言も至極当然のことであり,「政治的」と感じられるはずがない。それがそうでないのは,世間で憲法攻撃が強まり,憲法が動揺し始めたからであろう。
 
この状況下で,護憲派は天皇の護憲(憲法遵守)発言にどう対応すべきか? それを利用しようと思えばいくらでもできるし,また相当大きな効果を持つこともまず間違いない。
 
しかし,これは禁じ手である。天皇の憲法遵守発言をいったん政治的に利用したら,天皇は政治化され,護憲派は底なしの泥沼に引き込まれる。いくら苦しくても,人民主権の日本国憲法の下では,人民は人民自身で憲法擁護の努力をすべきだろう。
 
では,ひるがえって,天皇は憲法遵守発言をすべきか否か? 天皇が「象徴」に徹すべきなら,昭和天皇のような意味不明の発言を繰り返すか,無言を通すしかない。が,天皇も人間であり,そうも行かない。そこが難しいところである。

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【写真追加2013/4/30】

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  ■天皇・皇后/天皇誕生日一般参賀(2012年12月23日,宮内庁HP)

Written by Tanigawa

2009/04/10 @ 19:12