ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

大臣のヒンディー語宣誓

谷川昌幸(C)

1.大臣のヒンディー語宣誓
9月2日,サドバーバナ党のラクシマン・ラル・カルナ氏が,無任所大臣への就任宣誓をヒンディー語で行った。大統領と首相の前での正式な宣誓だから,このヒンディー語宣誓は公認されたと考えてよい。

さて,そうなると,すぐ問題になるのが,ジャー副大統領のヒンディー語宣誓。以前にも指摘したように,議員や大臣には母語宣誓を認めるが,大統領・副大統領・首相には認めない,という説明には,どう考えても無理がある。憲法が「ネパール語宣誓」と明記しておれば別だが,そうではないのだから,大臣や議員には認めても副大統領には認めないというのは不合理であり,これでは到底奇才ジャー副大統領は論破できない。(報道によれば,ジャー副大統領はまたまた最高裁に再審を提訴したそうだ。)

2.最高裁長官・大統領・法務長官の責任

ジャー副大統領のヒンディー語宣誓問題について冷静な分析をしているのが,カタク・マッラ博士。

  Dr. Katak Malla, Language of the Republic, nepalnews.com, 4 Sep 2009

マッラ博士によれば,2008年7月24日,K.P.ギリ最高裁長官がヤダブ大統領の就任宣誓を執行し,次に,ヤダブ大統領がジャー副大統領の就任宣誓を執行した。それなのに,一年もたった2009年8月23日,最高裁がヒンディー語宣誓を違法と宣言した(宣誓文書はネパール語)。この判決に対し,マッラ博士は,政治的および法的観点から,次のように鋭く批判している。

(1)1年後の判決
国家第二位の公職について,1年もたってから,最高裁が違法と宣言することの意味はどこにあるのか? この1年は何だったのか?

(2)大統領と最高裁長官の責任
もしヒンディー語宣誓が違法なら,宣誓を執行した大統領と,そのような宣誓を容認した最高裁長官にも責任があるのではないか?

(3)法務長官の責任
また,大統領の法律補佐としての法務長官や他の法律担当補佐官の責任もあるのではないか?

(4)最高裁の責任
結局,判決に1年もかかった最高裁に,この問題の責任があるのではないか?

(5)制憲議会の責任
最高裁も当事者となったこの問題については,国権の最高機関たる制憲議会が決定せざるをえないのではないか?

「宣誓において,最高裁長官は国家の司法を代表している。彼は,大統領の宣誓を執行するばかりか,大統領により執行される副大統領の宣誓をも監督する。この三人は,副大統領の就任宣誓で使用する言語を知っていたはずだ。もしどの言語かはっきりしていなかったのであれば,宣誓の前に,あるいは宣誓直後に,話合い,誤りがあれば訂正すべきだった。」



3.言語問題の悩ましさ

言語は民族の魂である。言語を異にする民族もあるが,一般には,民族は言語を中心に結集する。ネパール共和国は,民族自治,民族自決を国家原理として採択した。これは,言語自治,言語自決と言ってよい。

この原則に立つ限り,マデシのヒンディー語宣誓は拒否できず,また他の諸言語がそれぞれの言語で宣誓をはじめたら,それも拒否できない。

ネパール語を母語としない人々にネパール語で宣誓をさせることができるのは,国家の権力ではなく,権威である。その権威を,どう再建するか? これは難問である。

Written by Tanigawa

2009/09/04 @ 16:00

カテゴリー: 民族

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