痩身広告:西洋式洗脳術
谷川昌幸(C)
ネパリタイムズ(2009.12.09)に派手な痩身広告が掲載されている。
広告は資本主義の先兵であり,人民洗脳・マインドコントロールの最強の手段であるが,先進資本主義国ではすでに一般化しており,その本質がかえって見えにくくなっている。
ところがまだ伝統的なところを多く残すネパールを対象としたこの種の広告を見せられると,なるほど西洋先進国は「後進国」をこのように侵略し,人びとを洗脳して伝統文化を放棄させ,自ら進んで西洋文化に跪拝するようにし向けるのだな,ということがよく分かる。
周知のように,他の途上国の多くと同様,ネパールでも「豊満」が称賛されてきた。私自身のこれまでの経験からも,「痩身」女性よりも「豊満」女性の方が男性にモテていた。「豊満」は,病的な肥満でなければ,女性の本性=自然(nature)に叶っており,したがって女性の魅力となっていた。自然においては,女性の「豊満」は美である。
ところが,資本主義は人間を自然の状態に置いておいては,利潤が出ない。そこで,資本主義は,女性の自然=本質を否定し,自然な「豊満」を醜,人為的・人工的な「痩身」を美と宣伝し,これにより人びとを洗脳していくのである。
この価値観の逆転は,当初は,不自然と感じられるかもしれないが,洗脳が進み,マインドコントロールが利いてくると,人びとは「痩身=美」という西洋的価値基準を内面化し,自ら進んで人為的・人工的に痩せようと努力し始める。
このネパリタイムズの広告は,魔法の“calorie/carb rotation plan”で痩せるのだそうだが,痩身方法は何であれ,いったん「痩身=美」の価値観が刷り込まれてしまうと,女性たちは「痩せなければ」という焦燥感に駆られ,不自然な食事制限やヤセ薬,過酷な運動などに走ることになる。
こうなればしめたもの,食品会社や薬品会社は女性たちにダイエット食品やヤセ薬を売りつけ,そのため病気になれば,今度は治療薬を売りつけ,儲けることができる。資本主義とはそういうものだ。
真・善・美は文化の核心だ。巧妙な宣伝広告で「美」の砦が突破されてしまったら,次は「善」であり「真」であろう。こうして,ネパールは伝統文化を放棄し,西洋資本主義文化に従属することになってしまうのである。