ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ガンジーつまみ食い:鳩山首相演説

谷川昌幸(C)
鳩山首相が施政方針演説(1/29)でガンジーを引用した,とテレビで報道された。ヤレヤレと思って新聞で演説を読んでみると,やはりそうだ,ガンジーの言葉の表面的つまみ食いにしかすぎない。
 
鳩山首相は,「労働なき富」や「道徳なき商業」を「社会的大罪」と断罪したガンジーの言葉を引用し,日本はガンジーに習い「商業の道徳」を育み,「労働をともなう富」を大切にし,「人間のための経済」へと転換しなければならない,と訴えた。
 
しかし,この施政方針演説からは,「糸車」に象徴されるガンジーの資本主義批判の厳しさも重さも,まったく感じ取れない。ガンジーの言葉を表面的につまみ食いしただけの軽~い演説だ。
 
 糸を紡ぐガンジー
 
これは,ガンジー利用の二番煎じだ。最初は,オバマ大統領のノーベル平和賞受賞演説。これについて私は「正戦」を掲げるオバマ大統領が非暴力不服従のガンジーを引き合いに出す矛盾を指摘し,「ガンジーを虚仮にしたオバマ大統領」と批判した。
 
しかし,オバマ大統領の場合は,自分の正戦論がガンジー非暴力主義と原理的に相容れないことを重々承知の上で,ガンジーを引用した。いや,引用せざるをえなかった。そこにオバマ大統領の人間としての誠実さがあり,そしてそれ故にこそ生じる政治家としての本物の苦悩があった。オバマ演説は,大学の政治学テキストとしてじっくり読むに十分値する。
 
ところが,鳩山首相の演説は,そうではない。鳩山首相には,「労働なき富」「道徳なき商業」というガンジーの言葉の重さが,まるで分かっていない。オバマ大統領のガンジーへの心底からの共感――しかし米大統領としては非暴力主義をとれないという深い苦悩――のようなものは,鳩山首相にはまったくない。訪印し,たまたまガンジーの言葉を見たので,演説にレトリックとして拝借したにすぎない。ディズニー帰りの子供が,ミッキーマウス・グッズを見せびらかすようなものだ。
 
しかし,それ以上に問題のなのは,鳩山首相のガンジー利用がオバマ演説の「鳩マネ」ではないか,という疑念を払拭しきれないことである。オバマ大統領がガンジーを引用し世界に深い印象を与えた。それでは私も・・・・というわけだ。しかも,鳩山首相には負い目もある。鳩山首相はオバマ大統領に"Trust me"と約束したものの,その約束は守れそうにない。これではまずい,「ガンジーつながり」で身内であることをアピールし,オバマ大統領の歓心を買おうとした,ということではないか? これは対米へつらい演説でもあるのではないか?
 
そういうわけだから,鳩山首相のいう「人間のための経済」は信用ならないし,危険でもある。それは,具体的には「国際競争を生き抜きつつも,社会的存在として地域社会に貢献する日本型企業モデル」を育成するということらしい。要するに「日本株式会社」への回帰だ。そして,その「日本型企業モデル」を支えるのが「新しい公共」である。これも,分かりやすい日本語に翻訳すれば,「滅私奉公」ということに他ならない。
 
鳩山首相施政方針演説は,政治学テキストとしてはまったく使い物にならない。政府推奨道徳教育の副読本としては使用できるかもしれないが。
 
(参照)

Written by Tanigawa

2010/02/01 @ 19:22

カテゴリー: 政治

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