中国のネパール進出とアメリカ国益
Greg Bruno, "Letter From Kathmandu: Nepal’s Two Boulders," Foreign Affairs, 26 May 2010.
この雑誌を出しているのはCFR(The Council on Foreign Affairs)であり、その基本方針は次の通り。
"The Council on Foreign Affairs has promoted understanding of foreign policy and America’s role in the world since its founding in 1921. –Richard Haass(President)"
記事の著者グレッグ・ブルーノ氏はこのCFRのメンバーであり、ダウジョーンズ系新聞の軍事問題担当記者、ニューヨークタイムズ記者をへて2007年CFRスタッフとなった。著名なジャーナリストで、多くの賞を受賞している。
記事によれば、いまドラカ郡都チャリコットからラマバガル村に向け道路建設が進んでいる。この村の北の峡谷には456メガワットの発電能力を持つUTHPダム(上部タマコシ水力発電事業、2014年完成予定)が建設中で、道路はこのダム建設のためのものだが、いずれさらに北に延伸されチベットと結ばれることになる。 Lamabagar (KOL, 10 May)
著者が言うように、このラマバガルは小さな村だが、地政学的にみて重要な位置にあることはまちがいない。ここには古いチベット僧院があり、国境を越えチベットまで徒歩で2日ほど。この1,2月にも、チベットから逃れてきた数十人の人々がこの村でネパール警察に拘束され、そこに中国が大使館駐在武官を派遣し、一気に緊張が高まった。中国はネパール政府に圧力をかけ、武装警察隊(APF)を国境付近に配備させ、チベット人の動向を監視させている。
一方、いまのネパールには中国人があふれている。タメルでは中国人たちが中国人経営のレストラン、書店、病院などに押しかけている。(中国系病院まであるとは知らなかった。)中国文化センターもタライを中心に国中に展開しつつある。中国の戦略は中央というよりはむしろ地方への経済援助であり、学校建設も戦略的に重要な地域で進められている。
これに対し、インドはもちろん警戒心を強めている。とくにマオイストのインド敵視・中国接近は、International Crisis Groupによれば、「インドの警戒線を超えてしまった」という。
この状況にアメリカも強い関心を持ち、ネパールの平和的な民主主義への移行を支援している。マオイストについても、アメリカ国務省は、テロリスト・リストに載せつつも、彼らを権力に参加させようとしている。しかし、アメリカの影響力は限られており、中印両国への働きかけが欠かせない。
「アメリカはネパールを対立するアジアの二大国の間の安定した民主的緩衝国としたいと考えているが、その成否はネパールの隣国の手に握られているといってよいだろう。」
以上のようなブルーノ氏の分析は、アメリカ政府の対ネ政策の代弁といってもよい。アメリカのネパール民主化支援は、インドの暴走を牽制しつつ、中国の進出を押さえ込むことを目的としている。それがこの地域におけるアメリカ国益なのである。
「世界最高峰のエベレストを有するヒマラヤ山域の無電化村落で、中国製の太陽電池パネルやLED(発光ダイオード)電球などが急速に普及している。中国チベット自治区の商人がヒマラヤの国境を越えて運んでくるもので、インド、ネパール製品より低価格と好評なためだ。中国とインドに挟まれたネパール北端では“エコ”な製品を中心に、中国の経済的影響が増し始めている。」(http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/worldecon/398000/)