ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意

谷川昌幸(C)
朝日新聞はいったいどうなってしまったのだろうか? 25日付社説「スーダンPKO・目立たぬからやめるとは」は,陸自ヘリ部隊のスーダン派遣断念を非難し,積極派兵政策への転換を要求している。
 
スーダンには,2008年から中央即応集団の陸自隊員2名が派兵されている。そこにヘリコプター部隊も派遣することが,検討されていた。熱心にヘリ部隊派遣を唱えたのが,今回も外務省。砲艦外交で,外交力を増強しようという魂胆なのだ。
 
これに対し消極的だったのが,やはり防衛省・自衛隊。ヘリ部隊を派遣すると,低速・低高度のヘリは,格好の攻撃目標となり撃墜される危険性が高い。そんな危ないことはできないというのだ。この自衛隊の判断は極めて合理的であり,非難の余地は全くない。
 
ところが,朝日社説はこの防衛省・自衛隊の姿勢を「残念だ」と非難する。その理由は,まず第一に,国連や米国――本音は米国――を失望させるから。米国はケニヤ系のオバマ大統領が隣国スーダンの平和構築支援に熱心であり,外務省としては,ヘリ隊員を人身御供としても米政府のご機嫌を取りたいのだろう。
 
第二の理由は,変節朝日の自己正当化のためであろう。朝日は,数年前,自衛隊海外派兵論へと社説を180度転換した。それまでの「後ろ向き」「内向き」の社説(良心的兵役拒否国家)を,「前向き」「外向き」(地球貢献国家)に切り替えたのだ。それ以来,朝日は社をあげて自衛隊海外派兵イケイケドンドン,25日社説でもヘリ部隊スーダン派遣を「前向き」に検討してきた民主党政権を誉めたたえ,それに抵抗してきた防衛省・自衛隊を「内向き」と非難しているのである。
 
第三の理由は,社説では直接言及されてはいないが,資源確保である。周知のように,スーダンは石油など地下資源が豊富であり,中国などがPKO部隊(約300人)を送り込み,争奪戦を繰り広げている。朝日もそんなことは十分わかっているが,それには口をつぐみ,平和構築の美称で臭いものにふたをして,ヘリ部隊派遣を強行させようとしている。中国に後れをとるな,日本も派兵して資源の確保を図れ,というわけである。
 
やや深読みかもしれないが,これが朝日社説の真意だとすると,朝日は過去から何も学んでいないことになる。そもそも朝日は自己の戦争協力を検証し,それに基づき戦争責任を認めたはずである。これは「新聞と戦争」という特集記事として掲載され,あとで単行本『新聞と戦争』(朝日新聞社,2008)として公刊された。
 
 
この本については,井上ひさしが「過去の自己の活動を,驚くほど厳しく自己点検している」と高く評価している。また,赤澤史朗教授(立命大)も,朝日の戦争協力の事実を確認しした上で,この朝日の検証記事を高く評価している。
 
 「朝日新聞社が満州事変を契機に戦争支持へ社論を転換させ、戦意昂揚を煽る紙面作りをしたことは、従来から指摘されていた。その際、緒方竹虎など朝日新聞の首脳部の意図は、軍との協調関係を築きながら、他方で軍への批判や抵抗の芽も残しておこうとするものだったのかも知れない。しかし彼らには、どの地点で踏みとどまるべきか、どうしたら反撃に転じられるかということへの、見通しも勇気も欠けていたように見える。
 新聞社の戦争協力は、ずるずると多方面に広がっていった。戦争のニュース映画の製作と各地での上映、女性の組織化と国策協力への動員、文学者とタイアップした前線報道や帰国講演会など、そのいずれもが新聞の購読者の拡大につながるものだった。
 さらに進んで朝日新聞では、満蒙開拓青少年義勇軍の募集を後援し、戦争末期には少年兵の志願を勧める少国民総決起大会も開催している。そして新聞社が植民地や満州で、さらには南方占領地などで、新聞を発行し経営の手を広げるのにも、軍との良好な関係は大いに役立ったのである。」
 「日本の15年戦争は、マスメディアの協力なしには遂行できなかった。しかしこれまでその戦争責任を追及した研究は、外部の学者や元記者によるものであった。その点で朝日新聞が、自社の戦争協力を検証した「新聞と戦争」シリーズは、画期的な仕事といえるように思う。高齢の新聞社OBを探し出して取材する手法は、新聞社ならではのものであった。07年4月から1年間夕刊に連載されたそれは、日本ジャーナリスト会議の大賞を受賞し、連載をまとめた本書は570ページを超える大著となった。」 (http://book.asahi.com/review/TKY200807290119.html
 
朝日は自己の戦争協力・戦争責任を明確に認めた。では,それならどうして25日社説のような記事が書けるのか? 『新聞と戦争』と25日社説とは,どのような関係にあるのか? 朝日には,ハトとタカが同居しているのではないか? 朝日は,遺憾ながらジキル博士とハイド氏,危険な二重人格新聞ではないか?
 
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スーダンPKO―目立たぬからやめるとは(朝日新聞社説 20107.25)
 南北統一の維持か、南部の独立か。アフリカ大陸のスーダンは、来年1月に実施する住民投票で岐路を迎える。20年以上にわたった悲惨な内戦が終結した後の和平プロセスの節目である。
 その支援のために、日本は国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊ヘリコプター部隊の派遣を打診されていた。投票箱を運んだり、選挙監視要員を動かしたりといった活動に、国連や米国は期待を寄せた。
 しかし、菅政権は派遣を見送った。アフリカ内陸部にヘリ機材を送る困難さや安全性を主な理由に挙げている。
 破綻(はたん)国家再建の試みとして、世界の注目を集める国連平和維持活動(PKO)だけに、残念だ。
 スーダン南部では、2005年の内戦終結に伴い、70カ国近くのPKO要員約1万人が停戦監視や難民支援などにあたる。日本も08年から自衛官2人をUNMIS司令部に派遣してきた。
 「PKOへの積極参加」を掲げる民主党政権は、政権交代後、自衛隊によるインド洋での洋上補給活動を中止する代わりに、スーダンPKOへの部隊派遣を前向きに検討してきた。
 ところが最終的に、北沢俊美防衛相が100億円にのぼる経費や準備期間の長さなどをあげ、積極的だった岡田克也外相を押し切る形となった。
 気になるのは、防衛省が「自衛隊の評価につながらず、士気も上がらない」と、アピール度の低さを理由に難色を示した点だ。
 あまりに内向きな発想だ。まず考えるべきは、スーダンが日本の役に立つかどうかではない。日本がスーダンの役に立てるかどうかだろう。
 平和構築の大切さをわかっているのか。そんな疑いさえ抱いてしまう。平和構築は、民族紛争や内戦などで疲れ切った人々に救援の手をさしのべるためだけではない。
 国家が破綻していくのを放置すれば、国際社会へのとばっちりは計り知れない。テロや犯罪組織の温床となり、世界の安定を脅かす。平和構築は、それを阻む国際的な安全保障の意味合いが大きい。各国が協力する取り組みにできる範囲で加わる。それが回り回って日本の安全にもつながる。
 平和構築は「日本の存在感を世界に示せるかどうか」といった計算ずくで判断するべきことではない。
 今年のハイチ派遣でPKOの参加規模は増したものの、国際社会の期待はなお大きい。連立政権の複雑さや普天間移設問題の混迷があったとはいえ、鳩山由紀夫前首相、菅直人首相はもっと指導力を発揮できなかったものか。
 スーダン和平は住民投票を無事終えたとしても、さらに幾多の障害が予想される。まだまだ外からの支えが必要だ。菅政権は、次なる支援策の検討に大きな判断を示してもらいたい。
 

Written by Tanigawa

2010/07/25 @ 15:43