ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ロイ: カシミールの不都合な真実

ネパールでは,インド知識人はまったく人気がない。わが崇拝する偉大なガンジーでさえ,その名を出すと,いやな顔をされる。そりゃ糞味噌だよ,ガンジーは偉いだろう,といくらいっても相手にされない。困ったものだ。

ところが,最近,ガンジーの次の次くらいに尊敬するわがロイさんについては,注目するネパール人が出はじめた。ネパール・メディアにも彼女の記事がちょくちょく掲載されている。

このSultan M. Hali「アルンダティ・ロイ:カシミールの不都合な真実」(People’s Review, Oct.10)もその一つだ。筆者のハリ氏は,パキスタンのコラムニストらしいが,それ以上のことは今は分からない。

この記事によれば,アルンダティ・ロイは,「カシミールはインド固有の領土ではない」と発言した。これにインド,とくにBJPが激怒し,ロイを国家反逆罪で告訴しようとしている。(注:結局,告訴しないことになった。あるいは,あまりにも偉すぎて,告訴できなかった。)

ロイによると,インドは独立後すぐ,「植民地主義権力」になってしまった。カシミールはその証拠だ。だから,カシミールのAzadi(自由,解放)は当然だという。そして,このロイの発言を国家反逆罪で処罰しようとするインドは,哀れな,情けない国家である。

「哀れな国家――思いを率直に語ろうとする著作家たちを黙らせなければならないとは。哀れな国家――村人殺害者,大量虐殺者,悪徳企業,不正利得者,強姦犯,貧者の中の貧者を食い物にする者,そういった連中にはふんだんに自由を与えながら,正義を求める人々を投獄しなければならないとは。」

ハリ氏によると,カシミール谷では,支配者はヒンドゥーでも住民の98%はムスリムだという。もしそうだとすると,現在の世界規準では,カシミール谷の帰属はその住民が決めるべきであり,「カシミールのAzadi」を語ったロイは決して的外れのことをいったわけではない。

しかし,ことは領土にかかわること,尖閣や「北方領土」,あるいはチベットをみても,その難しさ,それに触ることの危険性はすぐ分かる。

インドでも,「カシミールのAzadi」などというと,反逆罪,国賊なのだろう。それなのに,ロイは,カシミールに住む人々の側に立ち,カシミールのことはそこに住む人々が決めるべきだと,ズバッといってしまったのだ。これはたいへん。

ただ,ここでネパールとの関係で注目すべきは,そのようなロイ発言をパキスタン・コラムニストのハリ氏が紹介し,さらにそれをネパールの「人民評論」が掲載している,という点だ。「人民評論」は王党派であり,そこがパキスタン・コラムニストのロイ記事を掲載する。これは奇妙だ。

ネ印パの三角関係とネパール国内の権力関係,そこにわれらがロイも引き込まれていくのだろうか? 南アジアには,日本では想像もできないほど複雑怪奇な権力闘争が渦巻き闘われているようだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/07 @ 22:30