ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

憲法情報センター報告書に見る理念と現実

ネパールでは憲法制定に向け様々な準備が進められている。たとえば,制憲議会は「制憲議会法2008」により「市民関係委員会」と「世論集約調査委員会」を設置し,憲法知識の普及と一般市民からの意見の聴取・集約のための各種事業を行っている。

しかし,これらだけでは不十分なため,「ネパール法協会(Nepal Law Society)」,「民主主義・選挙支援国際機構(International Institute for Democracy and Electoral Assistance=IDEA)」,「国連開発計画-参加型ネパール憲法制定支援プログラム(Support to Participatory Constitution Building in Nepal-UNDP)」が,上記 2委員会と協力し,特に地方住民のために「憲法情報センター(Constitution Information Center=CIC)を設置することになり,2010年8月から設置に着手,12月現在,すでに全国8地区に設置している。ビラトナガル,バラトプル,ポカラ,ネパールガンジ,ダンガディ,イラム,ジャナクプル,ジュムラである。

その報告書(要約版)が出された。
Nepal Law Society / International IDEA / SPCBN, Summary Report of the Constitution Information Centers, 2010/2011

この報告書によると,2010年9-11月に76のプログラムが各地で実施され,約5千人が参加した。なかなか頑張っており,その熱意には感心する。“セミナー産業”の傾きがなきにしもあらずとはいえ,地方でのこうした啓蒙活動がまったく無意味というわけでもあるまい。時間を見つけ,明治初期の日本各地の憲法制定運動との比較をやって見たいと思っている。

しかし,ここで気になるのは,やはり憲法制定作業の実際の進捗状況である。制憲議会は,課題別に次の11委員会を設置し,議論を進めている。

(1)Committee on Protection of National Interest
(2)Committee on Protection of Fundamental Rights of Minorities and Marginalized Communities
(3)Committee on Determination of Forms of Constitutional Bodies
(4)Committee on Determination of Forms of Legislative Organs
(5)Committee on Determination of Bases of Culural and Social Solidality
(6)Committee on Judicial System
(7)Constitutional Committee
(8)Committee on Fundamental Rights and Directive Principles
(9)Committee on Natural Resources, Economic Rights and Distribution of Revenue
(10)Committee on Restructuring of State and Distribution of State Powers
(11)Committee on Determination of Forms of Governance

これは,まさしくゼロからの国家再構築である。その崇高な理念,壮大な意気込みは涼としたいが,一方,本当にこんなことができるのか,やってよいのか,と心配にもなる。

こんな大風呂敷の憲法論は,大学法学部の講義でも4年間やそこらでは到底展開できないであろう。それを,識字さえ心許ないネパールで,国民総参加・総動員で討論し熟議により決めていくのだそうだ。理念としては美しい。が,こんなことは西洋先進国でも難しいのではないかな? 本当に大丈夫かなぁ? 画餅ではないのか?

「報告書」は,最後に結論として,こう述べている。
 ・サウン月20日の第102回会議以降,制憲議会は開かれていない。
 ・制憲議会延長後6ヶ月経過したが,期待したほどの進展はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/11 @ 10:09

カテゴリー: 憲法, 民主主義

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