ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

カナル首相選出,UML=マオイスト連立政権へ

ネパール制憲(立法)議会は2月4日,統一共産党(CPN-UML)のカナル議長を首相に選出した。

■投票結果
カナル(UML)  368[マオイスト237,UML106,他25]
ポウデル(NC)  122[NC114,RPP8](RJP2追加?)
ガチャダル(MJF) 67[MJF28,TMDP11,他28]

カナル首相は,ネパール共産党マオイストの支持を得て選出されており,新政権がUML=マオイスト連立になることは確実。共産主義2大政党連立政権の誕生だ。

この新政権が安定するか否かは,何ともいえない。マオイストは最大勢力であり,首相ポストはUMLに譲っても,新政権の主要ポストを要求し,党政策の実現を図るだろう。特に,人民解放軍(PLA)の統合では,最大限要求を通そうとし,それを拒む国軍との対立が激化するだろう。UMLカナル首相が,それをどう調整し,PLA統合と新憲法制定を進めていくか? 成否は予断を許さない。

それにしても,多くの人が言うほどネパール政治家たちの政治能力は低くはない。むしろ,なかなかしたたかであり,たいしたものだと感心するところが少なくない。辺境の貧しい島国イギリスを世界帝国にしたイギリスの政治家たちに一脈相通ずるところがある。

たとえば,首相選挙を17回もやった忍耐力。バカバカしいといえばいえなくもないが,民主主義とは本来,そうしたものであり,17回も頑張ったポウデル氏も偉い。彼が頑張ったから,PLA指揮権の国家委譲がなり,新政権成立となったのだ。

国連=UNMINへの対処も見事だった。さんざん貢がせておいて,無能だからさっさと出て行けと追い出し,しかし最後の土壇場ではPLA指揮権の国家委譲式典で顔をたて,これにより国連に対するネパールの自立性と今後の援助継続を最大限確保する。 アッパレと感嘆するしかない。

マダブクマール・ネパール前首相も,さんざん悪口を言われてきたが,実際には,したたかな政治能力を持った人物だ。とにもかくにも2009年5月からこの2月まで,1年8ヶ月余も首相職を維持したのだから,立派。そして,結局は,自分の党のカナル議長に政権を継承させることに成功した。

もっと偉いのが,なんといってもマオイストのプラチャンダ(ダハール)議長。マキャベリは,恐れられつつも愛される政治家をもって理想としたが,いまのネパールでその理想の政治家に一番近いのがプラチャンダ議長だ。他を圧するカリスマ性がある。

今回のPLA指揮権国家委譲も,プラチャンダ議長なくしては不可能であっただろう。ここぞ,というときに大胆に決断しうる政治家――それが本物の政治家であり,プラチャンダ議長なのだ。

といっても,新政権の前途は多難である。PLA統合については,国軍をどこまで譲歩させるか? マオイスト議員たちの体制内化を,農民・労働者・学生たちがどこまで受け入れるか? 国家世俗化で既得権益を奪われていくヒンドゥー諸集団が,どこまでそれを許容しうるか?

カナル新首相が,マダブクマール・ネパール前首相のノラリクラリ高等戦術をうまく継承すれば,漸進的にネパール政治は安定していくであろう。

しかし,先進諸国が後先も考えず押しつけてきた自由市場社会化やアイデンティティ政治の害悪は深甚であり,ノラリクラリ政治は許されないかもしれない。そうなれば,新マオイスト紛争勃発や,コミュナル紛争激化となり,ネパールは再び大混乱となるだろう。今後ネパールはどちらに向かうか? 注目していたい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/02/04 @ 11:48