ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

八百長メール暴露の隠された意図

警察庁=警視庁による八百長メール暴露の真のねらいは,ズバリ,憲法の保障する「通信の秘密」を「公共の利益」により否定し捜査をやりやすくすること,おそらくそういうことであろう。

1.相撲興行の粋
大相撲に限らず,プロスポーツは興業ないしショー(見せ物)であり,巧拙はあれ,八百長はつきものだ。大相撲も,石原都知事が言うように,もともと「そういうもの」であり,そのようなものとして楽しめばよいだけの話し。下手な,見え見えの八百長をする力士はファンから見放され自ずと淘汰されるし,また協会幹部が呼び出し興業だからもっと真剣にやれ,と厳重注意・指導すればよい。

そもそも,ウソ(八百長)と分かりつつも,迫真の演技に拍手喝采するのが,粋(いき)。それなのに,八百長に騙されたとか,スポーツの精神を汚したといって怒るのは,虚構と現実の区別がつかないはな垂れ小僧,無粋の極みといってよい。お上に八百長メールを暴露されるまで,「真剣勝負と信じていた」自分の目の節穴,無知不明をこそ,恥じ入るべきだ。

そもそも八百長は犯罪ではない。人を騙すことそれ自体が犯罪なら,プロレスもフィクション小説もみな犯罪になってしまう。相撲にしても,上手に騙して観客を楽しませる「興業」に他ならない。ただし,上手に騙すには,おのずと真剣勝負に接近せざるをえないが。

2.八百長メール暴露の隠された意図
その犯罪でもない行為についてのメールを,警察庁がなぜばらしてしまったのか? このところ,警察の捜査は地域社会の崩壊,交通・通信手段の発達などにより情報がとりにくく,ますます困難になっている。特にテロや公安事件では,そうであろう。

その警察にとって,通信の傍受・利用は,すでに「通信傍受法(盗聴法)」はあるものの,その制約を外し,もっと自由に最大限利用したい捜査手法であるに違いない。しかし,「通信の秘密」は,憲法が保障するもっとも強固な人権であり,これにさらに手をつけることは,少々のことでは困難である。

そこに八百長メールの神風が吹いた。粋に騙されることのできない未熟な国民性をうまく利用し,国民に非難攻撃の大合唱をさせ,国民に国民自身の最も大切な権利の一つ,「通信の秘密」を放棄させようとしているのだ。

憲法第21条2 検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

3.天声人語のヒステリックな煽動
今回の八百長メールは,野球賭博事件捜査のために押収した携帯電話の記録を警視庁が復元し,警察庁が「公共性」「公益性」の観点から文科省に伝えたものだ。それが無際限にマスコミにばらされ,ヒステリックな非難攻撃の大合唱となった。たとえば,「天声人語」は,ここぞとばかりに,人の声を代弁し,こう絶叫している。

「本職をサボる八百長は,賭博や酒のトラブル以上に罪深い。・・・・『勝つ』以外の意思が土俵に紛れ込んだ時,プロスポーツとしての大相撲は死ぬ。大多数の力士が,おびえではなく怒りに震えていると思いたい。」(朝日2/3)

このような後先も見ず,ことの軽重を考えないヒステリックな大衆煽動が何をもたらすか? ご丁寧にも,朝日は社説でも同趣旨のことを書いているが,ここにも「通信の秘密」への言及は全くない。憲法21条の「検閲」の禁止,「通信の秘密」の保障は,マスコミの存立基盤そのものなのに,まったくもって脳天気,自分で自分の足場を掘り崩そうと躍起になっているのだ。

4.メール・ネットサイトに秘密なし
もともとメールに秘密がないことは,少し知識のある人には周知の事実だ。メールがどこかで傍受されていること,パソコンや携帯電話の記録は削除しても復元可能なこと――これは常識だ。

しかし,公権力が直接の犯罪容疑もないのにそれをやり始めると,たいへんなことになる。粋な八百長相撲が楽しめなくなるくらいではすまない。公権力監視の警察国家になってしまう。憲法21条の検閲禁止,通信の秘密は,人権保障に不可欠であり,これは死守されなければならない。

それと同時に,私たちはメールはすべて傍受されている,メールに秘密はない,ということを前提にメールを使うべきだ。また,インターネット・サイトへの個人情報の記載も,すべて保存され,検閲されていると考えるべきだろう。自分のマル秘情報,恥ずかしい写真などが,いつ世界中にばらまかれるか分からない。5年後,10年後かもしれない。故意か「事故」か,わからない。これまでに,そのようなことが幾度もあった。

とにかく,ネットサイトやメールに個人情報はできるだけ流さないことだ。流す以上,秘密は放棄した,と覚悟すべきだろう。

■通信傍受法[盗聴法](平成11年8月18日)
第1章 総則 (目的)第1条  この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ、これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法 に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう、その要件、手続その他必要な事項を定めることを目的とする。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/02/06 @ 13:05