ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 3月 2011

マオイストの憲法案(10)

4(3)自由権(6)

[6]個人に対する著しい不正,暴行および搾取に対する最後の手段としての反逆の自由(23条(2)g)

これは,個人の抵抗権の規定。「但し書き」による制限はない。このような抵抗権の保障は,1962年憲法にはむろんのこと,1990年憲法にも2007年暫定憲法にもない。マオイスト憲法案の目玉の一つといってよい。

1)抵抗権の実定法化としての憲法
近代国家は,もともと旧体制に対する革命ないし抵抗の結果,生み出されたものである。たとえば,「アメリカ独立宣言」や「フランス人権宣言(1789)」にそのような宣言がある。

アメリカ独立宣言(1776)
「われわれは,自明の真理として,すべての人は平等に造られ,造物主によって,一定の奪いがたい天賦の権利を付与され,そのなかに生命,自由および幸福の含まれることを信ずる。また,これらの権利を確保するために人類のあいだに政府が組織されたこと,そしてその正当な権力は被治者の同意に由来するものであることを信ずる。そしていかなる政治の形態といえども,もしこれらの目的を毀損するものとなった場合には,人民はそれを改廃し,彼らの安全と幸福とをもたらすべしとみとめられる主義を基礎とし,また権限の機構をもつ,新たな政府を組織する権利を有することを信ずる。・・・・

連続せる暴虐と簒奪の事実が明らかに一貫した目的のもとに,人民を絶対的暴政のもとに圧倒せんとする企図を表示するにいたるとき,そのような政府を廃棄し,自らの将来の保安のために,新たなる保障の組織を創設することは,彼らの権利であり,また義務である。」(斉藤真訳,岩波文庫,114-115頁)

フランス人権宣言(人および市民の権利の宣言)(1789)
「あらゆる政治社会形成の目的は,人の自然的で時効消滅することのない権利の保全である。その権利とは,自由,所有権,安全,圧政への抵抗である。」(高橋和之訳,岩波文庫,316頁)

近代国家の憲法の規定する自由や権利は,こうした革命や抵抗の成果を憲法条文に実定法化したものだといえる。換言するなら,近代憲法の保障するどの自由や権利にも,憲法をつくり出した人民の革命権や抵抗権が堅固な基盤として埋め込まれているといってよいだろう。

しかし,その一方,革命ないし抵抗が成功し,その成果が憲法の中に書き込まれてしまうと,自由や権利は憲法が保障する実定法上の自由や権利となり,憲法の定める方法で主張され守られるべきものとなってしまう。

2)法実証主義による抵抗権の否定
この考え方を徹底させたのが法実証主義(legal positivism)である。この立場に立つと,実定法に優位する自然法のようなものの法的効力は認められない。悪法も法である。したがって,現に有効(valid)な実定法への抵抗を権利として認める抵抗権は,憲法においても規定することはできない。悪政や悪法への抵抗はあり得ても,それは事実としての抵抗であり,実定法としての憲法の規定する権利ではありえない,という考え方だ。

この実定法の考え方は明快ではあるが,その反面,形式的に合憲的な権力による自由や権利の実質的な侵害に対し,憲法を根拠として抵抗することが困難になるという問題がある。悪法も法であり,改正されるまでは,国民には遵守義務がある。たとえ悪法と思われても,法を破る抵抗行為を法的権利として主張する余地はない。

これは、自由や権利にとっては危険な考え方であり、事実、たとえばナチスはこれを巧妙に利用し、残虐非道な全体主義支配を行うことに成功した。

3)抵抗権の憲法規定
こうした行き過ぎた法実証主義への反省から、自然法や抵抗権が再評価され、憲法の中にも抵抗権が書き込まれるようになった。代表的なものとしては、ドイツ基本法がある。

■ドイツ基本法第20条
「すべてドイツ人は、この秩序(合憲的秩序)を排除することを企図する何人に対しても、その他の救済手段を用いることが不可能な場合には、抵抗する権利を有する。」(『世界憲法集』岩波文庫)

アジアでは、タイ王国憲法(1997)に抵抗権の規定がある。

■タイ王国憲法65条
「何人も、本憲法が規定していない方法により、国家統治権の収奪につながる行為に、平和的に抵抗する権利を有する。」(『アジア憲法集』明石書店)

4)日本国憲法の抵抗権
日本国憲法には「抵抗権」の文言はないが、内容的に抵抗権と考えられる規定はある。

■日本国憲法第12条
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」

ここには「抵抗」の文言はないが、自由と権利の保持義務が定められており、そこからは当然、それらの侵害に対する抵抗の義務、つまり抵抗権が導き出される。

しかし、この自由や権利の保持努力は、先述のように、憲法秩序のあるところでは、合法的手段によるものに限定されるという見方もある。実定法としての憲法は、有効な実定法に違反する行為を法的権利として正当化することはできないという論理である。

もちろん、自由や権利が侵害され、実定法による救済が全く期待できないような場合はあり得る。そうしたときの抵抗は、自然法を認める立場に立てば、自然法上の権利(自然権)となり、自然法を認めない立場に立てば、事実としての抵抗となる。しかし、いずれにせよ、それは実定法としての憲法上の権利ではない、という考え方である。

この問題、すなわち抵抗権は憲法上の権利か否かは、難しい問題であるが、結局、それは憲法の究極的解釈権が誰にあるかによって決まると考えられる。憲法は、制定後は、もっぱら憲法の定める手続きによって立法・行政・司法を通して解釈・適用されると考えるなら、その国家統治に反する抵抗行為を法的権利として正当化することは、憲法それ自体にはできない。

しかし、憲法が、立法・行政・司法による、あるいは国家の実定法による救済が不可能と国民が判断する場合は、自由や権利を保持するためそれらに抵抗する権利がある、と規定しているのであれば、抵抗権は憲法上の権利と言うことになるであろう。

たしかに、憲法設置の立法・行政・司法が形式的には合憲でも実質的には憲法実序を著しく侵害し、しかも合法的手段ではそれを阻止できない場合は、ありうる。そうした場合、憲法自体が抵抗権を認めておれば、違憲的統治への抵抗は憲法上の権利ないし義務となり、抵抗は合憲化・正当化され抵抗が容易となる。

しかし、具体的に、誰が、いつ、どのような形で抵抗権を行使できるかとなると、これは難しい。抵抗権行使の条件を緩くすると、憲法の定める合法的手続きが空洞化し、統治が不安定化する。悪法は法ではないから服従義務はないということになれば、恣意的解釈による法律無視が横行し、アナーキーになりかねない。逆に、要件を厳しくすると、結局、抵抗権を発動できなくなり、憲法に規定する意味が無くなってしまう。これは、近代的抵抗権理論の始祖ジョン・ロック以来、つねに問われ続けてきた難問である。

抵抗権発動の要件は難問であるが、それでもやはり憲法あるいは自由や権利が根底から破壊されそうなとき、人民には抵抗権がある、と憲法に規定することの意義は大きい。それは、そのような規定がない場合と比較してみれば、自明である。

5)市民的抵抗
それともう一つ、悪政や悪法に対する抵抗には、HD・ソローやガンディー、ML・キングらが唱え実践した市民的抵抗(civil disobedience)がある。これは、悪政や悪法への服従を拒否して抵抗するが、服従拒否に対する処罰は甘受するというところに特徴がある。

悪法を破り、有罪判決を受けたら、その判決に従い投獄される。その服従拒否・裁判・投獄の過程を通して、悪政や悪法の実態を暴き、これを世間に広く知らしめ、統治者に反省を迫り、悪政を改めさせる、という考え方である。

非力なユートピア思想のように見えるが、強い信念と適切な戦略・戦術があれば、これもきわめて有効な抵抗方法である。ガンディーのインド独立運動やキング牧師の黒人公民権闘争がそれを如実に実証している。

この市民的抵抗も、抵抗権の一種といってよい。市民的抵抗は憲法に抵抗権の規定がなければ、一種の自然権として行使される。もし抵抗権の規定が憲法にあれば、それは憲法上の抵抗権行使の一つとして正当に行使されるであろう。たとえば、ドイツ基本法は抵抗方法を限定していないので、実力による抵抗も可能であろう。これに対し、タイ王国憲法は「平和的に抵抗する権利」と限定しているので、これは市民的抵抗の規定といってよいであろう。

6)マオイスト憲法案の「反逆の自由」
では、マオイスト憲法案の「反逆の自由(freedom to revolt)」については、どのように考えたらよいのか? 

マオイスト憲法案の「反逆の自由」は、抵抗権ではあるが、他の憲法のそれとはかなり異なる。ドイツ基本法は、憲法秩序の破壊に対して抵抗する権利をすべてのドイツ人に認めている。抵抗方法の限定がないので、必要なあらゆる手段で抵抗する権利と見てよいであろう。

タイ王国憲法は、違憲な方法による国家統治権奪取(簒奪)に対し平和的に抵抗する権利を、すべての人に認めている。先述のように、「平和的」と限定しているので、非暴力的な抵抗に限定される。市民的抵抗のような抵抗権行使である。

日本国憲法は「国民の不断の努力」と規定するだけなので、自由や権利を守るため、どのような抵抗方法をとることができるか、ここからだけでは明確ではない。しかし、日本国憲法の根本原理の一つは平和主義であり、非戦非武装を前文と9条で規定しているので、自由や権利を守るためのギリギリの抵抗も非暴力的抵抗と考えなければならない。市民的抵抗である。

これに対し、マオイスト憲法案は、「個人に対する著しい不正、暴行および搾取」に対する「最後の手段としての反逆の自由」を規定している。抵抗権発動の目的が、ドイツ基本法とタイ王国憲法では憲法秩序の破壊から憲法を守ることであるのに対し、マオイスト憲法案では実質的には個人の権利を守ることであり、これは日本国憲法第12条とほぼ同じである。しかし、抵抗の手段の限定がないので、ドイツ基本法と同じく、必要なあらゆる手段を執りうると見てよいであろう。

しかも、注目すべきことに、この「反逆の自由」には「但し書き」による限定がない。したがって、他に手段がないと判断したら、誰でも「最後の手段」としてこの「反逆の自由」を行使できるのだ。これは、アナーキーの容認といってよいほどの驚くべき規定である。マオイストは、どうしてこのような「革命的」な規定を憲法案に入れたのであろうか?

ここでもやはり、マオイストは憲法を攻撃の道具として使うことばかり考え、自分たちが権力に就いたときのことには考えが及んでいないと断じざるをえない。コングレス党や統一共産党(UML)が権力にあるとき、この「反逆の自由」は強力無比の政府攻撃の武器となる。しかし、もしマオイスト政権となれば、今度は、マオイストがこの「反逆の自由」により攻撃されることになる。そこのところに、マオイストの考えは及んでいないらしい。制憲議会で大勝利し、議会第1党になっているにもかかわらず。

マオイスト憲法案の「反逆の自由」は、ドイツ、タイ、日本の抵抗権規定に比べ、はるかにずさんといわざるをえない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/27 at 17:25

ネパール政府の対日経済・食料援助

ネパール政府は,震災・津波被害者に,毛布5000枚を1両日中に届ける。また,経済援助と食料援助も検討されている。

毛布5000枚といえば,かなりの量だ。経済援助や食料援助も,ネパール人民にとっては大きな負担になるにちがいない。

それでも,ネパール政府はいち早く遠方の日本人民に援助の手をさしのべようとしている。多謝。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/25 at 14:28

カテゴリー: 社会, 経済

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マオイストの憲法論案(9)

4(3)自由権(5)

[5]移動および居住の自由(23条(2)e)
この自由は,以下の場合,法律により制限される。
 ・公益を損なう行為
 ・支邦またはカースト,民族,宗教もしくは社会集団の間の調和的関係を損なう行為
 ・暴力または攻撃,およびそれらの行為を惹起する行為

[6]どのような職業に就き,またはどのような産業および商業でも雇用される自由(23条(2)f)
この職業の自由は,以下の場合,法律により制限される。
 ・支邦間の調和的関係を損なう行為
 ・公衆衛生,公序良俗に反する行為
 ・特定の産業または事業を国営とする場合
 ・産業,交易もしくは職務への従事に国家が条件を付す場合

職業選択にまで連邦制の維持を考慮しなければならない。しかし,これは具体的にはどのようなことなのか? 産業の州間競争を制限するということだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/23 at 20:03

カテゴリー: マオイスト, 憲法, 人権

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原発報道,朝日とネパリタイムズ

1.朝日社説と空母同乗レポート
朝日社説はたいてい読むに耐えないが,3月23日の「放射性降下物 長い闘いを覚悟しつつ」は珍しく出来がよい。

これまで政府,東電,いわゆる「専門家」たちは,この程度の放射能では「直ちに健康には影響はない」と耳にタコができるほど繰り返してきた。が,そんなことは国民誰もが知っている。そんなことを心配している国民は,一人もいない。問題は,被曝による長期的影響,あるいはセシウム137のような長く残存する放射性物質による被曝の影響だ。誰も心配していない被曝の直接的健康被害について「安全だ」と繰り返せば繰り返すほど,政府,東電,「専門家」への信頼が失われていく。

これに対し朝日社説は,「放射能の影響は長い目でとらえる必要がある」と,当たり前のことを,勇気をもって指摘している。

「がんを起こす可能性は数年から10年以上の時間尺度で考えなくてはならない」。

要するに確率ないし蓋然性の問題。そして,これこそが,人々すべてが本当に心配していること。国民の誰一人として,ホーレン草を食べてすぐ被曝障害が出るとか,ガンになって死ぬといったバカなことを心配してはいない。朝日新聞は,国民の抱く常識的な疑問に常識的に答えた。さすが,保守本流の朝日新聞だけのことはある。

もう一つ,今日の朝日記事で出色だったのは,加藤編集委員の米空母同乗レポート。テレビ報道で,米空母が被曝を避けるため沖合に退避したといっていたが,それ以上の報道はなかった。まさか,と思っていたが,加藤レポートで本当だということが分かった。

レポートによると,空母ロナルド・レーガンは,福島原発から125カイリ(232km)の位置に退避している。ここまでが空母の接近限界。船も航空機も一切入れない「立ち入り禁止区域」は50カイリ(93km)。しかも,防護服で身を固め,ヘリに乗るときはヨウ素剤を飲む。

米軍の場合,核戦争訓練の要素もあるのだろうが,放射能に対する警戒は日本政府の比ではない。空母ですら入れない232kmとは,陸地ではどこまでなのか? 米軍将兵に比べると,日本国民は丸裸同然だ。それが世界唯一の被爆国日本の政府の被曝対策なのだ。

朝日社説と空母同乗レポートは,保守本流朝日新聞の常識(common sense)と良識(bon sens)を示している。さすが,朝日だ。当分,東電からの広告はないだろうが。

2.ネパリタイムズの被災体験レポート
ネパリタイムズ(#545, 18 Mar 2011)には,八戸在住のジェミナ・シェルパさんが被災体験レポートを寄せている。

レポートでは,大震災にもかかわらず冷静に行動する日本人の礼儀正しさや,災害準備の用意周到さが称賛されている。そして,その上で,こうコメントする。

「50基以上の他の原発を日本経済復興のために使い続けたいので,政府は[福島原発の]危険性を過小評価しているのではないか,と疑われている。」

「地震・津波・放射能の三重脅威と,2010年ハイチ地震における貧困・脆弱建築・災害無対策とを比較して,どちらがより恐ろしいとも言い難い。」

「最悪事態に備えること,そして[人災原因を創り出す]消費を抑制すること,これが必要なことを日本はわれわれネパール人に教えてくれた。」

著者のことはまったく存じ上げないが,バランスのとれた良いレポートだ。鋭く指摘されているように,これは天災であると同時に,近代都市文明の生み出した人災でもある。原発をつくるなら,東京湾岸,大阪湾岸につくるべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/23 at 16:23

カテゴリー: 社会, 経済

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最高裁,パシュパティ埋葬許可命令

最高裁は3月18日,政府とパシュパティ地域開発トラスト(PADT)に対し,スレスマンタク森への他宗派埋葬許可を命令した。

キリスト教会の新憲法助言委員会は,政府に対し,代替墓地提供と,それまでのパシュパティの森への埋葬継続を要求している。

これに対し,世界ヒンドゥー協会(WHF)は,パシュパティはヒンドゥーの聖地であり,キリスト教会はここを墓地として使用すべきではない,と反論する。キリスト教会は自分で墓地を探すか,政府に探してもらうべきだというのだ。

18日の最高裁命令は,WHFやPADTの言い分と真っ向から対立しており,当然,ヒンドゥー側は最高裁に異議申し立てをすることになる。

これまでにも述べたように,これは、結局,死生観をめぐる争いであり,本来なら、そうしたものを政治の場に持ち出すべきではない。国家世俗化は,皮肉なことに,本来隠されてあるべき非政治的な死後の世界を不用意に暴き,生臭い生者の政治の世界に持ち出してしまった。

死者の祟りは恐ろしい。墓地使用問題を何とか政治化することなく,死後の世界を知る聖職者・聖者の知恵を持ち寄り,解消してもらいたいものだ。

* ekantipur, 2011-03-21

キリスト教会,「宗教省」設置要求
墓地紛争,ヒンドゥー惨敗か?
墓地紛争:キリスト教vsヒンドゥー教
死者をめぐる神仏の争い
神々の自由競争市場へ? 新憲法の課題

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/22 at 08:36

マオイストの憲法案(8)

4(3)自由権(4)

[4]政党結成の自由(23条(2)d)

政党の規定は,「非政党制パンチャヤット制」を原理とする1962年憲法には,無い。

1990年民主化運動後に成立した1990年憲法では,自由権規定の部分にはないが,第17編に政党規定を置き,政党要件を詳細に定めている。政党の権利を制限する「但し書き」は、自由権制限の「但し書き」がそのまま適用され,法文上はこの権利はほとんど空文化されている。

2007年暫定憲法は,自由権の部分に政党結成の自由の規定を置き,そこに「但し書き」を付している。この「但し書き」は,「組合および団体を組織する自由」にもそのまま適用される。つまり,政党も他の組合・団体も制限要件は同じである。

ところが,マオイスト憲法案では,政党規定そのものに「但し書き」がつけられ,しかも他のどの自由の「但し書き」以上に詳細かつ長大な「但し書き」となっている。マオイストが、どの自由を危険視しているかが外見的にも一目瞭然だ。

マオイスト憲法案では,政党結成の自由は,次の場合,法律により制限できる。
 ・公益を損なう行為
 ・国民性,主権および統合を損なう行為
 ・反国家的スパイ行為
 ・国家機密の漏洩
 ・対外的安全を危うくするような形で外国の国家,組織もしくは機関のために行う行為(国家反逆行為)
 ・支邦間の調和的関係を損なう行為
 ・人種もしくは社会集団の憎悪を生む行為
 ・カースト,民族,宗教およびエスニック集団の間の調和的関係を損なう行為
 ・人種,言語,宗教,社会集団もしくはジェンダーを理由にした党員資格禁止行為
 ・市民間の差別をもたらすような政党結成行為
 ・暴力を惹起する行為
 ・公序良俗に反する行為
 ・国家転覆行為
 ・外国の御用機関(agent)としての行為
 ・反国民的陰謀
 ・反動的行為
 ・国家転覆,御用機関的行為,反国民的陰謀および反動的行為を実行するための組織もしくはメカニズムをつくる行為

政党を作って活動してよいのは,以上のような厳しい条件をすべてクリアした場合のみである。憲法正文に、こんな「但し書き」を入れるのは,そもそもナンセンスで,バカバカらしくて議論の余地もないが,バカにしていると,本当にこんな憲法ができてしまう。バカバカしいと呆れつつも,それでも相手にせざるをえないのだ。

どれもこれも恐怖の規定だが,もっともマオイストらしい規定は,ここでもやはりスパイ罪,国家機密漏洩罪,国家反逆罪,陰謀罪だ。国家機密は国家(政府)が決めマル秘とするわけだから,政府が隠している情報をもとに政府批判をすれば,たちまちスパイ,機密漏洩,反逆とされ,解党命令を受ける恐れがある。戦前日本の不敬罪よりも恐ろしい。治安維持法(これは法律だが)よりも,権力にとっては使い勝手がよい。

マオイストは,被抑圧人民のために勇敢に戦い,彼らを解放し,多くの自由や権利を獲得した。その功績は絶賛に値する。しかし,その一方,マオイストはプロレタリア独裁を掲げる共産党であり,プロレタリア自身ではなく,彼らの前衛たる共産党,しかもその幹部の独裁へと向かうことは避けがたい。マオイスト憲法案のこの政党規定は,その絶好の根拠となるであろう。

北欧諸国など,国際社会のマオイスト応援団は,このことを忘れないでいただきたい。

マオイストの憲法案(7) (6) (5) (4) (3) (2) (1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/21 at 15:24

マオイストの憲法案(7)

4(3)自由権(3)

[2]平和的に武器を持たずに集会する自由(23条(2)b)

この集会の自由は,次の理由で法律により制限できる。
 ・主権または統合を損なう行為
 ・支邦間の調和的関係または法と秩序を危うくする行為

このような「但し書き」があれば,集会の自由はないも同然だ。真っ先にマオイスト集会が禁止されるだろう。

[3]組合および団体を組織する自由(23条(2)c)

これはいわゆる結社の自由であるが,この自由も次の場合には法律で制限できる。
 ・主権および統合を損なう行為
 ・国民に対するスパイ行為
 ・カースト,民族,宗教または社会集団の間の調和的関係を危うくする行為
 ・暴力扇動行為
 ・公序良俗に反する行為

このような但し書きがついておれば,結社の自由は無いに等しいが,特筆すべきは,なんといっても「国民に対するスパイ行為」。

ネパール語版が手元にないのでネパール語でどう表記されているか分からないが,英訳にはUNDPがかかわっており,ネパール語版と英語版にはそれほど大きな語義の差は無いと見てよい。つまり,マオイストは堂々と,反国民スパイ罪,反国家スパイ罪を憲法に掲げているのだ。

このスパイ罪で,真っ先に投獄されそうなのが,コングレスやマデシの親インド派,そして統一共産党の親インド派(前首相ら)。そして,非マオイスト政権になれば,もちろんマオイスト諸氏がこのスパイ罪で訴追されることになる。

マオイスト諸氏の頭の中には,「法の支配」も「法の下の平等」も,全くないらしい。敵に向けて使うことばかり考えて,憲法案を作っている。もともと法は自分の手を縛るものなのに,そんなことは思いも及ばないらしい。

スパイ罪を明記するような憲法は,最悪。1962年パンチャヤト憲法にすら,スパイ罪の規定はなかった。スパイ罪こそ,マオイスト憲法案の最もマオイストらしい規定といえる。

マオイストの憲法案(6) (5) (4) (3) (2) (1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/20 at 17:05

カテゴリー: マオイスト, 憲法

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