ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

原発報道,朝日とネパリタイムズ

1.朝日社説と空母同乗レポート
朝日社説はたいてい読むに耐えないが,3月23日の「放射性降下物 長い闘いを覚悟しつつ」は珍しく出来がよい。

これまで政府,東電,いわゆる「専門家」たちは,この程度の放射能では「直ちに健康には影響はない」と耳にタコができるほど繰り返してきた。が,そんなことは国民誰もが知っている。そんなことを心配している国民は,一人もいない。問題は,被曝による長期的影響,あるいはセシウム137のような長く残存する放射性物質による被曝の影響だ。誰も心配していない被曝の直接的健康被害について「安全だ」と繰り返せば繰り返すほど,政府,東電,「専門家」への信頼が失われていく。

これに対し朝日社説は,「放射能の影響は長い目でとらえる必要がある」と,当たり前のことを,勇気をもって指摘している。

「がんを起こす可能性は数年から10年以上の時間尺度で考えなくてはならない」。

要するに確率ないし蓋然性の問題。そして,これこそが,人々すべてが本当に心配していること。国民の誰一人として,ホーレン草を食べてすぐ被曝障害が出るとか,ガンになって死ぬといったバカなことを心配してはいない。朝日新聞は,国民の抱く常識的な疑問に常識的に答えた。さすが,保守本流の朝日新聞だけのことはある。

もう一つ,今日の朝日記事で出色だったのは,加藤編集委員の米空母同乗レポート。テレビ報道で,米空母が被曝を避けるため沖合に退避したといっていたが,それ以上の報道はなかった。まさか,と思っていたが,加藤レポートで本当だということが分かった。

レポートによると,空母ロナルド・レーガンは,福島原発から125カイリ(232km)の位置に退避している。ここまでが空母の接近限界。船も航空機も一切入れない「立ち入り禁止区域」は50カイリ(93km)。しかも,防護服で身を固め,ヘリに乗るときはヨウ素剤を飲む。

米軍の場合,核戦争訓練の要素もあるのだろうが,放射能に対する警戒は日本政府の比ではない。空母ですら入れない232kmとは,陸地ではどこまでなのか? 米軍将兵に比べると,日本国民は丸裸同然だ。それが世界唯一の被爆国日本の政府の被曝対策なのだ。

朝日社説と空母同乗レポートは,保守本流朝日新聞の常識(common sense)と良識(bon sens)を示している。さすが,朝日だ。当分,東電からの広告はないだろうが。

2.ネパリタイムズの被災体験レポート
ネパリタイムズ(#545, 18 Mar 2011)には,八戸在住のジェミナ・シェルパさんが被災体験レポートを寄せている。

レポートでは,大震災にもかかわらず冷静に行動する日本人の礼儀正しさや,災害準備の用意周到さが称賛されている。そして,その上で,こうコメントする。

「50基以上の他の原発を日本経済復興のために使い続けたいので,政府は[福島原発の]危険性を過小評価しているのではないか,と疑われている。」

「地震・津波・放射能の三重脅威と,2010年ハイチ地震における貧困・脆弱建築・災害無対策とを比較して,どちらがより恐ろしいとも言い難い。」

「最悪事態に備えること,そして[人災原因を創り出す]消費を抑制すること,これが必要なことを日本はわれわれネパール人に教えてくれた。」

著者のことはまったく存じ上げないが,バランスのとれた良いレポートだ。鋭く指摘されているように,これは天災であると同時に,近代都市文明の生み出した人災でもある。原発をつくるなら,東京湾岸,大阪湾岸につくるべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/23 @ 16:23

カテゴリー: 社会, 経済

Tagged with , , ,