ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 5月 2011

エベレストに赤旗,プラチャンダ議長ご令息

ネパール共産党マオイストは,エベレスト(サガルマータ)に赤旗を立てることを,党目標の一つとしてきた。パンフレットのタイトルにもなっている。

マオイストはいまや政権与党だ。首相は統一共産党(UML)のカナル氏だが,実質的にはプラチャンダ議長が政権をコントロールしている。制憲議会3ヶ月延長のための5項目合意についても,カナル首相の即時辞任を求めるコングレス党(NC)に対し,プラチャンダ議長は,挙国政府合意が出来るまで,つまり当分の間,辞めなくてもよいよ,とカナル首相を全面的に支援している。

プラチャンダ議長は,カリスマ的指導者であり,人民に恐れられつつ愛されている。私も大好きだ。

そのプラチャンダ議長が,権力掌握の次に狙うのは,どうやらプラチャンダ王朝の創始らしい。エベレストに赤旗を立てるという名誉ある任務を息子のプラカシ(サカール)同志に託したのだ。もちろん赤軍(人民解放軍)が支援する。

プラカシ同志が赤軍を率い,世界最高峰エベレストを征服し,赤旗を頂上に立てることに成功すれば,象徴的にはネパール・マオイストが世界を征服したことを意味し,それを達成したプラカシ同志の権威は比類なきものとなる。権力は父から息子へ継承され,プラチャンダ王朝が始まる。

プラチャンダ議長が人民に愛されるのは,このようなあっけらかんとした天真爛漫さにある。陰湿に野心を隠そうとはしない。首相になれば,巨大ベッドを買う。集会では,国連に人民解放軍4万とふっかけ,2万人も認めさせた,本当は8千人なのに,と自慢話をする。そして,今度は息子に赤旗を持たせエベレスト征服に向かわせる。下心見え見えだが,とにかく万事ネアカで,憎めない。

やはり,ネパールを統治しうるだけの器量を持つ政治家は,プラチャンダ議長しかいないのではないだろうか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/31 at 11:13

制憲議会3ヶ月延長,第9次改正成立

制憲議会(CA)が,第9次憲法改正により,3ヶ月延長された。制憲議会は28日任期満了。改正案成立は29日午前4時半過ぎ。厳密には時間切れだが,時効停止で延長は有効らしい。延長議会は合法性も正統性もかなり怪しい。

今回の制憲議会延長は,三大政党である統一共産党(UML),マオイスト(M),コングレス(NC)の5項目合意を受けたもの。

  (1)CA3ヶ月延長
  (2)平和プロセスの基本合意を3ヶ月以内に作成。
  (3)憲法草案を3ヶ月以内に作成。
  (4)カナル首相は挙国政府形成のため辞任。
  (5)国軍はマデシ系を採用し包摂的とする。

しかし,この5項目合意は玉虫色で,当初から解釈が分かれている。つまり,カナル首相は,いつ辞任するのか?

  * プラチャンダ議長(M):国民合意成立後,辞任。
  * カナル首相(UML):挙国統一政府形成に諸政党が合意したあと,辞任。
  * ポウデル議員会長(NC):直ちに辞任,そのあと平和プロセス開始。
  * ガチャダル(MJF):1週間以内に,辞任。

玉虫色は,かつては日本の専売特許だったが,いまやネパールが本家となった。カナル首相は,いつ辞任するのか?

はっきりしているのは,怪しい手続きで制憲議会が3ヶ月延長されたということだけ。そして,議員たちにとっては,本当はそれでよいのだ。601人巨大議会は,それ自体が既得権益であり,議会任期延長には全員の暗黙の了解があったからである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/30 at 20:02

カテゴリー: 議会, 憲法

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人民解放軍統合,与党3党首合意

カナル首相(UML)が,マオイスト,マデシ人権フォーラム(MPRF)両党首と,平和構築への最大課題である人民解放軍(PLA)の処遇について,ほぼ合意した(Republica,2011-05-22)。実行できるかどうか微妙だが,なかなか大胆な提案だ。

PLAについては,すでに国軍(NA)が,NA指揮下に新たな部隊をつくり,そこにPLA戦闘員と政府治安要員(NAなど)を組み込む,という提案をしていた。3与党合意は,このNA提案を受け入れ,人員についてはPLAからは6~8千人とした。

PLAの本来のハードコア戦闘員は,もともと4~8千人と見られており,これはプラチャンダ議長もオフレコでは認めていた。したがって,6~8千人統合は妥当な数字といってよいだろう。

NA統合戦闘員以外の宿営所(cantonment)収用戦闘員は,除隊・社会復帰となる。宿営所収用戦闘員は約2万人(19,602人)だから,1万2千人~1万4千人が社会復帰。これら社会復帰戦闘員には,1人あたり50~100万ルピーが支払われる。かなりの額だ。

しかし,この提案については,マオイスト急進派が猛反対している。たとえば,モハン・バイダ(キラン)副議長は,これはパルンタール党大会決定違反だとして,反対意見を常任委員会に提出した(Republica,2011-05-22)。

しかしながら,このところマオイスト党内では,バイダ副議長らの急進派は劣勢となっている。バブラム・バタライ派(穏健派)とバイダ派(急進派)を両天秤にかけ,操縦していくプラチャンダ議長の政治的手腕は,たいしたものだ。このままいけば,PLAは二分され,6~8千人の中核部分がNAに吸収され,和平成立となる。

しかし,それで社会復帰を迫られる他の1万2~6千人が納得するか? また,毛沢東が言うように,「人民解放軍なくして人民なし」 を体験的に思い知らされてきたマオイスト支持「人民」大衆が,人民解放軍の解体を受け入れるか?

人民解放軍の国軍統合による和平実現,新憲法の制定となるかどうか? 難しいところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/24 at 11:22

ブッダ平和賞における政治と宗教

[1]

仏陀(釈迦)が非暴力平和(不殺生)を説いたことは周知の事実であり,ルンビニでも「五戒(パンチャシーラ)」碑を前に平和を祈念する人の列が絶えない(前記事写真参照)。仏陀は平和を説いたのであり,したがって田上長崎市長と秋葉前広島市長へのブッダ国際平和賞授与はたいへん名誉なことであり,世界平和とっても大きな意義があることはいうまでもない。
(平和賞HP)

[2]

しかし,ネパール内政の観点から見ると,ブッダ平和賞はかなり生臭い,政治的な賞=ショーであることもまた事実である。

ネパールでは,宗教が日常生活と密接不可分の関係にある。宗教と無縁の生活はありえず,従って政治も宗教と何らかの形で関係せざるをえない。2006年革命成功で世俗共和国になったが,新国是の世俗主義(secularism)は,国家(政治)と宗教の切断・分離は意味しない。

ネパールの世俗主義は,国家(政治)は宗教と関係を持ってもよいが,特定の宗教・宗派の優遇はしない,ということである。日常生活が宗教と密接不可分である以上,そうせざるをえないであろう。

[3]

では,この意味での世俗主義を、いまの革命共和国は遵守しているであろうか? 世俗共和国の大統領,首相,大臣,官庁などは、様々な宗教を公平に扱っているであろうか?

どうも,そのようには見えない。もっとも甚だしいのが,仏教の優遇である。いまのネパールでは,仏教は,新体制派の体制イデオロギーとして,いたるところで便利に利用されているのである。無節操とすらいってもよい。

これは政教分離にはもちろん,諸宗教公平としての世俗主義の原則にも反している。

(平和賞HP)

[4]

私が,田上長崎市長と秋葉前広島市長のブッダ平和賞受賞を喜びつつも,どこか釈然としないのは,この賞があまりにも宗教的だからである。

ブッダ平和賞授賞式の会場がどこであったかは,報道だけではよく分からない。リパブリカ記事(5月18日)によれば,マヤデビ寺院の境内かその隣接地のようだ。
マヤデビ寺院(Google)

授賞式は,大きな仏陀画の前で挙行され(下図中央),金属製の仏像が授与された(同右)。この平和賞は,ネパール政府が授与する賞だが,どう見ても仏前授与式であり,宗教儀式である。
(平和賞HP)

[5]

ブッダ平和賞は,革命共和国の世俗主義と両立するのか? 平和賞授与式は,仏陀生誕を祝う仏教儀式の一環ではないのか?

ネパールでは,宗教と無縁の生活は考えられない。政治もそうであろう。しかし,それでは世俗主義とは,いったい何なのか? 

この仏陀生誕日のニュース映像を見ていいただきたい。平和賞は完全に仏教儀式のなかに組み込まれ,利用されている。
 ▼平和賞授与式ニュース(nepalnews, May 17)

宗教は生死の意味を問うものであり,政治的には本質的に危険なものである。仏教も例外ではない。革命共和国が世俗主義をとるのなら,宗教的にもう少し慎み深くあるべきではないだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/21 at 12:19

カテゴリー: 宗教, 政治

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ブッダ平和賞の二面性

ブッダ(仏陀)国際平和賞受賞の田上長崎市長と秋葉前広島市長が,16日,トリブバン空港に到着した。被爆者2名も同行。

授賞式は,仏陀生誕地ルンビニおいて,仏陀生誕日(Buddha Jayanti,バイサクの満月,2011年5月17日)に挙行される。

授賞式では,ヤダブ大統領が,受賞者2氏に金メダルと賞状と賞金5万ドル(各2.5万ドルの現金)を授与する。
トリブバン空港着の受賞者(Republica 2011-5-17)

田上,秋葉両氏への仏陀平和賞授与は,オバマ大統領の核廃絶宣言や福島原発事故で世界世論が反核に大きく転回し始めたいま,時宜を得た決定である。

トリブバン大学(キルティプル,カトマンズ)では,長崎原爆展(5月18-21日)も開催され,ここには駐ネパール大使も来賓として出席され,日本政府・日本国民代表として開会挨拶をされる。

以前であれば,外国での原爆展に日本大使が出席し反核を訴える、といったことは考えられないことであった。核をめぐる世論は,劇的に変化した。これは喜ばしいことであり,高く評価される。

しかし,その一方,「仏陀」は仏教開祖であり,仏教徒の信仰対象である。通俗的には,キリスト教における「イエス」と同じ。

ネパール政治においては,仏教(仏陀)は,1996年人民戦争開始以来,伝統的なヒンドゥー教王国(高カースト支配体制)打倒のための革命イデオロギーの一つとして利用され,2006年春の王制打倒成功後は,革命共和国の正当化イデオロギーとして政府・新体制派により利用されてきた。

あえていうならば,仏教はネパール共和国(与党は統一共産党と毛沢東派共産党)の準国教なのである。

われわれは,田上長崎市長・秋葉前広島市長の仏陀平和賞受賞を祝福し,その世界的意義を高く評価しつつも,仏陀が仏教の「神」であり,仏教がネパール共和国の準国教である,という事実をも忘れてはならない。

ルンビニでの平和賞授賞式は,おそらく仏教の寺院か関連施設で挙行される。もしそうであれば,授賞式は「仏前授賞式」となるであろう。
ブッダ生誕地(2008-9)

ルンビニ(2008-9)

ルンビニの五戒碑(2008.9)

上記碑文(2008.9)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/17 at 12:08

制憲議会延長案提出

制憲議会の任期を1年延長するための法案が,5月12日,議会に提出された。暫定憲法第64条を改正し,2008年5月28日から4年間の任期とする。

憲法改正には,議員現員数の2/3,つまり396人の賛成が必要だ。これは,かなりハードルが高いが,何回か指摘したように,(1)巨大制憲議会そのものが既得権となっている,(2)第1党のマオイストは議席減の可能性の高い解散再選挙を望んではいない,といった理由で,議会延長案はおそらく可決されるだろう。

しかし,2/3多数決が高いハードルであることは確かだ。与党が割れるかもしれない。UMLとマオイスト,あるいはUML内,マオイスト内それぞれいたるところに分裂の火種を抱えている。分裂すれば,制憲議会延長は出来ない。

もし制憲議会延長に失敗すれば,ネパール政治は再び大混乱に陥るであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/15 at 20:59

カテゴリー: 議会, 憲法

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日本女性紹介・ブッダ平和賞・孔子学院

ネパール・メディアは,記事内容はいまいちだが,あっけらかん儲け主義に徹していて,合理的だ。このヒマラヤン紙面を見よ。アクセス連動広告だろうが,実にクール,美事だ。
The Himalayan, May 13

上段で,下心丸見えの日本女性紹介ハデハデ広告。ネパール男性向けの「女性」商品の宣伝だ。一等地に広告を出すのだから,よく売れているのだろう。

中段は,田上長崎市長・秋葉前広島市長への仏陀平和賞授与記事。これは,日本人の名誉心をくすぐりつつ,内政における仏教の政治的利用を図るという高等戦術。ネパール政治家の政治能力は、日本の政治家より上だ。

そして下段は,孔子学院の広告。上段との落差,コントラストが絶妙だ。片や「性」商品を売り,片や「文化」を売る。

ニッポン惨敗。これは日本蔑視ではない。日本なんて,中国四千年の歴史文化の前では,せいぜいこの程度のものなのだ。

中国は孔子(文化)を宣伝し売り込む。日本は,女性(性)を宣伝し売り込む。勝負あり。文化で負け,政治で負け,経済で負け,そしていずれ性でも負けるだろう。

ニッポン頑張れ!

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/14 at 22:00

カテゴリー: 社会, 政治, 文化, 中国

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