ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

日ネ首相の権力欲

ネパールのカナル首相と日本の菅首相が,ますますあい似通い,政治家らしくなってきた。

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カナル首相(UML)は,党内基盤が弱く,最大政党マオイストの要求を丸呑みして支持を取り付け首相に選出された。当初は,マオイストの操り人形と酷評され,短命と見られていた。5月28日の制憲議会(CA)任期切れに際しても,「挙国政府のめどがついたら」辞任すると約束し,かろうじて任期を3ヶ月延長することが出来たにすぎない。

カナル政権はもともと弱体であり,辞任まで約束したので,与党UMLも野党コングレス党(NC)もカナルはすぐ辞めるだろうと期待していた。ところが,どっこい,カナル首相は「挙国政府のめど」を口実に,いつまでも辞めない。どうして彼は権力をいつまでも維持し続けることが出来るのか?

一つには,カナル首相がマオイストの本音を鋭く見抜いているということ。CA解散・選挙になれば,マオイストは,現有議席からの大幅減は避けられない。苦しい人民戦争を戦い,ようやく手にした議員の地位と諸特権がすべて失われてしまう――これがマオイスト議員たちの偽らざる本音であろう。

カナル首相は,マオイスト議員たちのこの保身心理を見透かし,マオイストに対する自分の立場を徐々に強化しつつあるように思われる。もはや,操り人形とはいえない。

また他方では,最大野党のNCも,口だけは勇ましいが,実際には党内派閥抗争で政権打倒どころではない。抜きんでた有力な首相候補も見あたらない。

カナル首相は,与野党のこのような実情を見抜き,巧妙に政権を維持し強化してきた。なかなか,したたか。政治家らしくなってきた。

[2]

このカナル首相とよく似てきたのが,菅首相。こちらも,辞任をほのめかしながら,一向に辞めようとはしない。

菅首相は,民主党が解散を何よりも怖れていることをよく知っている。解散・総選挙になれば,民主党議員の相当数が再選されず,おいしい議員諸特権を失ってしまう。保身が先に立ち,解散が怖くて,菅首相を辞めさせられないのだ。

一方,野党自民党も内輪もめばかりで,これといった有力首相候補はいない。ちまたでは,小泉純一郎氏か,小泉ジュニアかなどといったジョーク半分,本気半分の床屋政談が流布する有様だ。

菅首相は,民主党や自民党のこの内実を見抜き,政権維持を図っている。

しかも,菅首相には,脱原発の風が吹き始めた。この風をうまくとらえることが出来れば,政権は再浮上,菅首相の人気もうなぎ登りとなり,21世紀初期の名宰相として歴史に名を残すことさえ夢ではなくなってきた。

[3]

政治家にとって,権力欲は本性だ。菅首相が本物の政治家なら,「政権に恋々」とか「権力にしがみつく」とかいって攻撃されても,蛙の面に水,まったくこたえないだろう。いやそれどころか,むしろ内心では「よくぞいってくれた」と奮い立ち,さらに権力欲を募らせることにさえなるだろう。

政治家にとって権力欲は本性だから,菅首相が権力に恋々としようが,政権にしがみつこうが,それは問題ではない。われわれ人民にとって,いま冷静に考えるべきは,菅首相を辞めさせれば,それは原発維持を願う政財界体制派の思うつぼ,決して現在および未来の人民の利益にはならないということである。

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要するに,いまの「世論」は人々の自然な意見ではないということ。実際には,政財官学エスタブリッシュメントがメディアを総動員して世論をねつ造し,菅おろしを図っているのだ。玄海原発やらせメール事件では,「九電が組織ぐるみで世論を操作していた実態」が明らかになった(毎日7月15日)。しかし,これはあまりにも稚拙,小規模だったため発覚したにすぎない。菅おろし世論はスケールがちがう。いまの「菅おろし」世論は,日本中の政官財学があうんの呼吸で一体となってメディアを使い,合唱させ,巧妙に創り上げたものである。人民は,その空気の中にいてその空気を吸っているので,それが人為的・意図的に創られたものであることに気づかないのだ。

われわれ人民は,たとえば仮にドイツの空気の中に立ってみて,自分たちがいまどのような空気を吸っているかを反省してみるべきだ。そうすれば,いま菅首相を辞めさせるよりも,むしろ菅首相をおだて,もっともっと「政権にしがみつかせ」,その権力欲を利用して,脱原発の大事業を達成させてやるほうが,人民の利益になることが分かるであろう。

そして,もしめでたく脱原発への方向転換が実現されたあかつきには,菅首相には大勲位の名誉を授与する。政治家のもう一つの本性は名誉欲だから。大勲位が始めた原発に,大勲位が幕を引く。これこそ,歴史の弁証法的発展である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/15 @ 12:56

カテゴリー: 政治

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