ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 7月 2011

マオイストの憲法案(22)

4(16)女性の権利,子供の権利

マオイスト憲法案第44,45条は女性と子供の権利を保障している。なお,日本社会の全体主義的検閲により「子供」は「子ども」と表記させられているが,「子ども」は分かち書きで見難く醜いので,「子供」と表記する。

第44条 女性の権利
 (1)相続への女性の平等な権利
 (2)あらゆる形の女性差別禁止
 (3)生殖に関する女性の決定権
 (4)宗教,伝統,文化,慣習または他の理由により身体的,精神的,性的,心理的または他の形の暴力を女性に加えてはならない。違反は処罰され,被害女性は賠償を受ける権利を有する。
 (5)比例および包摂原則により国家のあらゆる機関に参加し代表される女性の権利
 (6)積極的格差是正原則により、教育,保健,雇用および社会保障において女性が優遇される権利

――ここでは,あらゆる国家機関への女性の比例参加・代表権が保障されている。実行されるなら,あらゆる国家機関で原則として男女同数となる。人民解放軍兵士の40%が女性となっているマオイストらしい規定である。また,女性のための積極的格差是正措置も明記されている。

第45条 子供の権利
 (1)本人のアイデンティティおよび出生登録に基づき,自分の名前を尊重される子供の権利
 (2)家族および国家により保障されるべき教育,保健,養育,スポーツ,娯楽への子供の権利
 (3)適切な保育・成長への子供の権利
 (4)母語で教育を受ける権利
 (5)工場,鉱山または他の危険な職場での子供雇用の禁止
 (6)子供婚(幼児婚),違法な子供売買,子供の拉致または監禁の禁止
 (7)軍,警察,武力紛争または武装集団での子供使用禁止,いかなる場所でも,またいかなる文化または宗教を理由としても子供を虐待または無視することの禁止,身体的,精神的,性的または他の形の子供搾取または不適切な子供処遇の禁止
 (8)家庭,学校または他のいかなる場所でも,身体的,精神的またはいかなる形でも,子供を虐待することの禁止
 (9)子供のための裁判への子供の権利
 (10)放置児童,孤児,心身障害児,紛争被害児,放浪児または危機にある子供は,国家から特別保護を受ける権利を有する。
 (11) (5)(6)(7)(8)の規定違反は,処罰され,被害児は加害者から賠償を受ける権利を有する。

――子供の権利も,手厚く保障されている。子供の姓名権は,もっともな保障だが,これを憲法に規定せざるを得ない社会的背景については,よくわからない。大人の都合での改名が日常化しているのだろうか?

(6)(7)の規定は,マオイストらしい規定だ。内戦期に,多くの子供を学校などから強制拉致し,拘束し,洗脳し,人民解放軍兵士としたり,物資輸送などで使役したのは,マオイスト自身である。これは国際的非難を浴びた。好意的に解釈すれば,その反省のもとに,これらの規定が憲法案に取り入れられた,ということであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/05 at 14:00

カテゴリー: マオイスト, 憲法, 人権

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マオイストの憲法案(21)

4(15)労働権,労働者の権利,健康権,食料権,住居権

マオイスト憲法案第39~43条は,労働,健康,住居に関する諸権利を規定している。

第39条 労働権
 (1)全市民に被雇用権を保障
 (2)雇用先の選択権
 (3)失業者には手当支給

第40条 労働者の権利
 (1)適切な労働環境への権利,および必要な訓練を受ける権利
 (2)尊厳ある生活に必要な賃金,設備,社会保障への権利
 (3)労働組合結成権,団体交渉権,ストライキ権
 (4)各レベルの労働裁判所設置

第41条 健康権
 (1)全市民に無償基礎保健サービスへの権利および救急医療への権利を保障
 (2)生殖保健の権利
 (3)説明同意による保健サービスへの権利
 (4)平等な保健サービスへの権利
 (5)安全な水と衛生への権利

第42条 食料権
 (1)全市民に食料への権利保障
 (2)食糧不足から保護される権利
 (3)食料主権の保障

第43条 住居権
 (1)適切な住居への権利
 (2)法または裁判所命令による場合を除き,住居から退去させられない権利。住居不可侵

――以上の権利保障を見ると,他のところでもそうだったが,マオイストはありとあらゆる権利を思いつくまま列挙したという印象が否めない。

たとえば,労働に関する権利は暫定憲法よりはるかに広範かつ具体的である。マオイストが労働者の権利を手厚く保障しようとするのは当然だが,ここまで細々と憲法に書く必要があるのか,また実効性はあるのか,はなはだ疑問である。

健康に関する権利についても,同じことがいえる。

また,食料への権利については,世界に先駆け「食料主権」を保障しているが,具体的にそれが何を意味しているかは,はっきりしない。

いずれにせよ,憲法に権利を列挙することそれ自体は難しくない。問題は実効性。憲法で保障されている権利が,実際にはほとんど保障されないのであれば,憲法は空文と見なされ,根底から信頼を失い,立憲政治は崩壊してしまうだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/04 at 21:55

Arundhati Roy, Broken Republic

[1]

アルンダティ・ロイの新刊『壊れた国家』を買った。既発表3評論をまとめたもの。
  ・Mr. Chidambaram’s War (Oct.2009)
  ・Walking with the Comrade (Mar.2010)
  ・Trickledown Revolution (Sep.2010)

このうち「同志と歩む」は,発表直後に読み,すでに紹介した。文章中心の取材レポートだったが,この本では,ロイ自身とSanjay Kakによる写真が多数挿入された。いずれも優れた報道写真で,現場の緊迫した状況がさらにリアルに感じ取られるようになっている。

[2]

それにしても,ロイの筆力は凄い。序文(Feb. 2011)は、こう始まる。

大臣は,インドのため人々は村を離れ都市に移るべきだ,という。彼はハーバード卒。スピードを求める。そして,数も。5億人移住のすばらしいビジネスモデルになる,と彼は考えている。

この書き出しだけで,村を追い出された無数の人々の悲惨な運命がありありと思い浮ぶ。

政府・大企業による村民追い出し→都市スラム流入→都市浄化によるスラム流入民追放→帰村(ダム底,鉱山開発,ゲリラ戦争)→都市スラム流入・・・・

ロイは続ける。

大臣は,都市移住民の大半は犯罪者であり,「近代都市では受け入れがたい行動をした」と語った。中流階級は,彼の率直さ,スペードをスペードと呼んだその勇気を讃えた。大臣は,・・・・法と秩序のため警察署を増設する,と語った。・・・・

よい武器を持ち,よい制服を身につけ,よく訓練された新しい警官隊が街をパトロールする。・・・・いたるところにカメラが設置され,すべてが記録されるようになった。・・・・

まだまだ続く。わずか4頁の序文だが。簡潔な文章で,鮮やかなレトリックを駆使し,激しい怒りと告発が繰り出される。

[3]

日本でも,すぐに翻訳され,ベストセラーになるにちがいない。陰湿な検閲がなければ,日本企業も加担しているインド高度成長の裏面が,暴露される。

【参照】
2010/04/23 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(8)
2010/04/22 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(7)
2010/04/21 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(6)
2010/04/19 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(5)
2010/04/18 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(4)
2010/04/16 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(3)
2010/04/14 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(2)
2010/04/11 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/02 at 12:21

カテゴリー: インド, マオイスト,

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