ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

マオイストの憲法案(27)

第4編 国家の指導原則と政策および責任(2)

第54条 国家の指導原則と政策
国家は,以下の指導原則と政策に従う。

(1)参加人民共和国の建設。全包摂的,比例的および直接的民主主義。自決権と自治権。社会主義志向(socialism-oriented)社会。多党競争制民主主義。

(2)社会主義志向経済。半封建的・半植民地的搾取の除去。全人民による各種資源平等利用。国内産業優遇。国民経済の独立。外国資本の規制。

(3)カースト制,父権制および他のあらゆる形の差別・憎悪・不寛容の除去。

(4)自然資源の農民・労働者による私的所有と共同体所有。封建的生産関係の廃止,科学的生産関係の確立。

(5)生産,通商,分配および消費における漸進的な機械化・自動化。地区・地域・国家の持続可能な調和的開発。ヒマラヤ山麓の生態系保護。

(6)外国の資本や技術は国民の必要により導入。国内の労働,資源,知識,技術および市場の優先。国際法および人権を尊重しつつ社会主義志向生産関係を発展させる。

(7)革命的土地改革。「土地を耕作者に」

(8)水資源,水力発電および他のクリーン・エネルギーへの内外資本の競争的投資。河川利用における沿岸諸国との協力およびネパールの優先権。水資源や水力発電は国内市場優先。

(9)教育,健康,雇用,食料主権および住居に対する人民の基本的諸権利の確立。

(10)心身障害者,孤立者,老人,周縁的少数民族などへの社会保障。

(11)水資源,水力発電,通信,交通,産業および農業への外国資本投資については,国内資本過半とし,中央・地域・地区の人々に決定の優先権を与える。

(12)外交の原則は,非同盟・中立・世界平和。

(13)通商および商品通過の自由保障。

(14)国家遺産・世界遺産の保護。

(15)経営参加は労働者の基本的権利。

(16)すべての自然資源は国家所有。

(17)製品,交換,分配および消費に関するすべての資源は,国家,集団,協同組合または個人が所有。

(18)機械化・自動化のための専門技術教育。

(19)国家の独立維持,豊かな社会の建設,および速やかな社会・経済改革のための青年動員。

第55条 国家の責任
(1)基本的諸権利,国家の指導原則と政策,および本憲法の他の諸規定の速やかな実行。

(2)国内・国外の差別,搾取および抑圧の除去のため法的・政治的・司法的対策を講じる。

(3)真実和解委員会の設立。紛争犠牲者とその関係者のための救済,補償,治療およびリハビリ。加害者の処罰。

(4)人権規定および労働関係条約の施行のため,立法・行政・司法その他において必要な施策を実施し,そのための予算を割り当てる。

(5)国家と人民のため,必要な条約の見直し,および新条約の締結を行う。重要条約については,国民投票。

第56条 報告書の提出
国家元首は,本編の実施状況を報告。

第57条 監査
本編の実施状況に関する監査委員会を設置。

第58条 法廷質問
(1)すべての市民,組織および関係共同体・地域・地区は,本編に関する訴えを裁判所に提起する権利を有する。

(2)本編に関する最終審は最高裁。

――政治,社会,経済に関する包括的な原則規定であり,特に,弱者保護と「社会主義志向」が目を引く。これらはマオイストの一貫した基本政策である。

一方,詰めの甘さも見られる。たとえば,真実和解を唱えながら,加害責任者の厳罰を要求しているが,処罰は真実和解と原理的に相容れない。

また,この第4編の諸規定についても,裁判所に提訴できると明記されている。しかし,もしそのようなことをすれば,裁判所は議会とほとんど変わらないものとなってしまう。人民から直接選ばれてはいない裁判官が,抽象的な憲法規定に基づき,政治的事柄を含む広範な諸問題について審理し判決をくだす。そのようなことが,本当に可能であり,また民主的なのであろうか?

全体として,この第4編は,たしかに意欲的ではあるが,実効性の点では疑問が多いといわざるをえない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/02 @ 15:17

カテゴリー: マオイスト, 憲法

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