ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

カナル首相辞任,暫定首相へ

カナル首相が14日夜,ヤダブ大統領に辞表を提出した。首相は,13日までに挙国政府合意が出来なければ辞任すると明言していた。結局,挙国政府合意は出来ず,期限の1日後,辞任することになった。制憲議会での辞任表明は15日の予定。

1.マオイスト票で首相当選
カナル首相は,統一共産党(UML)議長だが,首相選出は,マオイストの支持による。

2月4日の首相選の得票は,カナル365,ポウデル(NC)122,ガチャダル(MJF)67で,カナルの圧勝。しかし,その365票の内訳は,マオイスト237,UML106,他25であり,マオイスト票で首相に当選したことは明白。困難は当初から予想されていたことであり,その割には,よく頑張ったと言ってよい。

2.次期首相とマオイスト
次の首相は,誰か? これは極言すれば,マオイストが誰を次の首相として認めるか,ということである。制憲議会議席の40%弱を握っているのだから,当然だ。

プラチャンダ議長 議会制民主主義の常識から言えば,マオイスト党首が首相となるべきである。しかし,プラチャンダ議長の場合,すでに一度首相(2008.8-2009.5)となっており,しかも宿敵の国軍=インドの強力な介入で挫折し,2009年5月政権を放り投げた前歴がある。

プラチャンダ議長は,抜群のカリスマ性があり,NC,UML,軍,そしてインドも警戒している。したがって,いまはプラチャンダ議長の首相選出は難しいであろう。

バタライ副議長 マオイスト内の最有力首相候補は,バブラム・バタライ副議長である。マオイスト内穏健派であり,反マオイスト派にも受けはよい。

しかし,その反面,マオイスト急進派からは,親インドとか,ブルジョア的とか,批判されている。マオイストの実力部隊は急進派が握っており,急進派を無視してバタライ副議長を首相とすることも難しい。

マオイスト中間派・NC・UML とすると,マオイストは,プラチャンダ議長やバタライ副議長のような大物ではなく,もう少し抵抗のない穏健中間派を首相とするか,さもなければNCかUMLの誰かを首相とすることになる。

マオイストと既得権益 いずれにせよ,制憲議会の4割弱を握るマオイストにとって,焦る必要はない。何もせず,じっとしていても,権益はマオイストに流れ込む。

ただし,あまり露骨にやると,駐屯地(cantonment)で不自由な生活を強いられている人民解放軍や,米帝ネオ・リベによる生活苦にあえぐ農民・労働者の反発を招く。彼らこそが,マオイストの実力部隊であり,急進派の支持基盤だ。したがって,既得権益維持路線も,いつまでも維持しきれない。やはり,首相選出への努力姿勢を見せ,いつかは首相を選ばなければならない。

3.押しつけ暫定憲法
首相選出難航は,現行暫定憲法の欠陥によるところも大きい。現在の2007年暫定憲法体制は,包摂参加民主主義を原則としている。西洋先進諸国の観念理論家たちが,自国でも実現不可能なようなピカピカの最新憲法理論や民主主義理論をネパールに押しつけ,2007年暫定憲法をつくらせた。押しつけ憲法だ。

西洋諸国の観念理論家たちは,国連諸機関とグルになり,ネパールを新理論の実験台として利用している。面白いであろう。しかし,何も決められない観念的包摂参加民主主義を押しつけられた後発開発途上国ネパールは,たまったものではない。

悪いのは,ネパール人民でも政治家でも政党でもない。偉そうにお節介介入し,ネパール国家を生体実験している西洋先進国である。

4.暫定首相
とにかく,現行2007年暫定憲法では,重要なことは超民主主義的な方法で決めることになっており,つまり何も決められない。次期首相も,前回以上にいつまでたっても決められない恐れがある。

前首相のMK・ネパール氏は,2010年6月辞任から2011年2月まで,暫定首相を務めた。その間,新首相選出選挙を17回(世界新記録)もやり,ようやくカナル氏を選出し,暫定首相を辞任したのだ。

同じことが,カナル首相にも起こるかもしれない。最大政党マオイストは,べつに急いで新首相を選出しなくてもかまわないのだから。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/15 @ 13:29