ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

高貴マオイスト首相と猥雑資本主義とエゴ印中

1.国産公用車採用の政治的センス
バタライ首相は,やはり繊細なセンスを持っている。ネパール各紙が賞賛しているように,就任早々,首相公用車にネパール国産のムスタン・ジープを採用したのだ。

ムスタン車にはエアコンも電動窓もない。価格は120~200万ルピー。日欧高級外車だと1000万ルピーだと言うから,はるかに安い。しかも新車ではなく,内務省公用車だったものだ。(これは暫定で,首相公用ムスタン車は別に調達されるらしい。)

貧困な労働者・農民の代表には,高級外車よりも国産ジープがよく似合う。さすがインテリ政治家バタライ首相,人民の心情の機微をよく心得ている。このムスタン車で制憲議会に乗り付ければ,ピカピカ高級外車にふんぞり返って乗ってくる他の大臣や他党有力者たちは,面目を失うにちがいない。

特にバタライ首相にお願いしたいのは,ムスタン車で,制憲議会のお隣や国内各所にある国連関連施設やNGO事務所を足繁く訪問すること。国連諸機関や少なからぬNGOが,ピカピカの高級外車を乗り回し,いたるところで人民の顰蹙を買っている。外人観光客の1人にすぎない私ですら,庶民を蹴散らし我が物顔に走り回る国連やNGOのピカピカ四駆に怒り心頭に発し,石でも投げつけてやろうと思ったほどだ。

もっとも,私個人としては,首相になったとたん豪華巨大ベッドを搬入させたプラチャンダ議長,UNMINに人民解放軍3万とふっかけ認めさせた,凄いだろう,と自慢したプラチャンダ議長の方が好きだが。

2.矮小猥雑な資本主義
この高貴マオイスト首相に対し,資本主義はなんたる矮小,猥雑なことか! この写真をご覧いただきたい。愛国マオイスト首相の国産ムスタン車の下に,資本主義はエロっぽい下着広告を出している。

もちろん,アクセス連動広告で,ネパールだけでなくインドでもどこでも,日本からアクセスすると、この種の広告が出る。また,下着広告がイケナイとか,色事はケシカランというわけではない。要はTPO,広告を出す場が問題なのだ。

資本主義打倒,共産主義革命を唱え,選挙で第一党となり,いま首相となった人物を褒め称える記事の下に,資本主義は下着広告しか出せない。資本主義は,要するに,政治よりも性治(性事),理念よりもエロ,正義よりもカネなのだ。

こんなバカなことをやっていると,マオイストの思うつぼ,資本主義はエロもろとも高貴な共産主義に打倒されてしまうだろう。

3.インドは大歓迎
その高貴バタライ首相は,パワーポリティックス(権力政治)の観点からも,特にインドにより歓迎されている。昨日は,当てずっぽうに、インドがバタライを支援したのではないか,と書いたが,インドのネパール学の権威,SD・ムニ教授も次のように語っている。

「インドは,マデシ諸グループをバタライ支持に回らせ,バタライを当選させた。これは賢明な判断だった。」(ekantipur, Aug29)

また,インド「テレグラフ」(Aug29)も,バタライ首相は連立相手のマデシ(タライ)諸政党に有力ポストをいくつか割り振ることは間違いないから,彼らを通して印ネ関係が緊密化するだろう,と分析している。事実,すでに副首相・内務大臣には,マデシ人権フォーラム民主派(MJF-D)議長のBK・ガッチャダルが指名され就任宣誓をした。

もちろん,バタライ首相は、インドにとってはベストではなくベターな選択にすぎない。「テレグラフ」記事でも,インドはマオイスト政権の左傾化,とくに人民解放軍(PLA)の国軍統合を強く警戒している。マオイストの思い通りPLAを統合すれば,共産主義思想教育を受け,米印支援の国軍と10年間も戦い抜き勝利した彼らが,国軍を乗っ取ってしまう。これをインドはなによりも恐れているのである。

4.印中の狭間のバタライ首相
バタライ首相は,インドにとってはベターな選択にすぎないにせよ,とりあえずはインドの支援を期待できる。

しかし,ここがネパール政治の難しいところで,バタライ首相がインドに接近すれば,王党派,UMLばかりかマオイスト内急進派(バイダ副議長)や中間派(プラチャンダ議長)も,インドの手先(Agent),インドの傀儡として,首相攻撃を仕掛ける。

そして,そこに中国が応援団として介入し,巧妙に反印感情を煽る。バタライが訪印すれば,プラチャンダは訪中する。インドが銃砲を売り込めば,中国は「特車」を援助するだろう。

ネパール政治は,つねに印中の権力闘争の中で翻弄されており,安定化はきわめて難しい。民主主義による統治は不可能とさえ思われるほどだ。もし政権短命が続き,結局,王族か軍によるクーデターとなるなら,その責任の大半は,ネパールの政治家というよりは,むしろ印中の大国主義エゴイズムにあると言ってよいだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/30 @ 13:23