ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ルンビニ開発とプラチャンダと中印米権力政治

1.ルンビニ開発委員会
マオイスト=マデシ連立政府は10月17日,プラチャンダ議長を委員長とする「ルンビニ開発国家指導委員会」の設立と,「ルンビニ観光年2012」を決定した。委員会には,ルンビニ開発計画の作成,外国援助の獲得等の権限が与えられた。

プラチャンダは,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長の1人。APECFは,ルンビニ開発に30億ドル拠出するとの協定を国連工業開発機構(UNIDO)との間で締結したと発表し,議論を呼んでいる。(UNIDOは締結否定)

 タライの工場群,ルンビニ2008.9.12

2.アジア太平洋交流協力基金
(1)組織と活動
プラチャンダが共同議長を務めるAPECFは,北京に執行本部を置き,香港を拠点とするNGOだが,その正体はよく分からない。

執行本部:北京
事務所:香港,台湾,広州
活動目的
 ・アジア太平洋地域の開発援助,相互理解促進,新しいアジア型開発モデルの研究など。
 ・香港を拠点に,アジア太平洋地域に貢献。
活動方法
 ・国連,各国政府,他のNGOとの協力。
 ・宗教間の平和的関係強化。
 ・情報技術の活用。
共同議長
 ・S.C. Rockefeller=米ロックフェラー財閥
 ・ J.Rosen=米ユダヤ会議会長
 ・C.H. Charney=米元中東特使
 ・プラチャンダ=ネパール・マオイスト議長
 ・(パラス=ネパール元皇太子。現在は名簿掲載なし。
 ・他に,タイ元副首相,SDCグループ会長,マレーシア常青集団会長
執行共同議長
 ・Xiao Wunan=国連宗教協力機構議長,中国社会経済文化交流協会副議長

(2)執行共同議長
APECFの活動拠点は香港だが,執行共同議長は北京にいる。こうした組織の場合,実権は執行役員が握っているので,この組織はXiao氏または彼を使っている組織が動かしているとみてよいだろう。

Xiao氏は,「世界仏教平和基金」副会長であり,中国共産党幹部である(はっきりした地位不明)。もしそうであるなら,氏の下にあるAPECFは中国政府系の国際NGOということになる。

(3)活動目的
APECFホームページによると,その活動目的は「新しいアジア型開発モデル」による開発であり,そのために「新しいアジア太平洋シンクタンク」をつくり,「宗教間の平和的関係強化」も促進するという。なにやらきな臭い。

「新しい」を「中国型」と置き換えられないだろうか? また,Xiao氏は「世界仏教平和基金」副会長。この基金がどのような「仏教」の立場に立つのか分からないが,もしかして「宗教間の平和的関係強化」もチベットがらみなのではないだろうか? よく分からない。

さらに不思議なのは,中国政府系なのに,米英の財閥系や政府系の要人が共同議長に名を連ねていること。中国や米英のしたたかさ,懐の深さがうかがえるが,その意図がどこにあるのか,やはりよく分からない。

(4)パラス元皇太子とプラチャンダ議長
そして,ネパールにとって摩訶不思議なのが,なんと,あのパラス元皇太子が共同議長(設立メンバーとして?)に名を連ねていたこと。

現在の名簿にはパラス元皇太子の名はないが,その代わりに(パラス元皇太子の後任として?)われらが英雄プラチャンダ議長が共同議長となっている。ネパール・マオイストは,米テロリスト・リストに載せられている。そのテロリストの親玉を共同議長の1人とし,そこには米英資本主義の親玉が名を連ねている。

これは不思議? ロックフェラー家,米ユダヤ会議,米政府元高官,華僑資本――これらが,ネパールとどのような関係にあるのか?

3.プラチャンダの目論見
(1)利権と政治的計算
APECFルンビニ開発は,黄金色の生臭い話しだが,清濁併せのむ豪傑,プラチャンダのやりそうなことだ。もしこれが政府決定通り実行されれば,おそらく巨大な直接的・間接的利権がプラチャンダ議長側に転がり込むだろう。これは明々白々。

そして,プラチャンダの凄さは,その明々白々なことを,白昼堂々とやってしまうところ。巨大ベッドを公邸に搬入したのと同じ天真爛漫さ。愛嬌があり,憎めない。

しかし,ルンビニ開発は,プラチャンダの政治的リアリズムに裏打ちされた,よく計算された現実的政策でもあることを見逃してはならない。

(2)仏教の政治的利用
プラチャンダは毛沢東主義者であり,かつての国教,ヒンドゥー教とは意識的に距離を取ってきた。ネパールでは,反国王民主化運動は,宗教的には反ヒンドゥー,親仏教で闘われてきた。ヒンドゥー教は,ビシュヌ化身たる国王支配のイデオロギーとして,またカースト支配を正当化する封建制イデオロギーとして,厳しく批判された。

これに対し,仏教は,平和学教祖ガルトゥングが唱えるような平和の宗教として,また反カースト差別の人権宗教・民主主義宗教として,褒め称えられ,いまやネパールの準国教とされている。高カーストの政治家や知識人ですら,口を開けば,仏教万歳であり,国家諸機関も仏画・仏像をお守りとして,いたるところで利用している。

プラチャンダ議長が,ルンビニ開発に目をつけたのは,さすがである。プラチャンダは,仏教など屁とも思っていないだろうが,ネアカ現実主義者として,仏教は政治的に十分利用できると計算したのだ。

(3)政治的現実主義者
さらに注目すべきは,プラチャンダが共同議長として中国系NGOを引き込んだこと,ルンビニ開発が,中国をバックとしたパワーポリティックスの側面をもつことは明白である。しかも,米英政財界の保険も掛けてある。

インドの目の前,国境沿いに,ヒンドゥー教と敵対する仏教の巨大センターが,インドと敵対する中国の支援で,建設される。これは,生々しいパワーポリティックスであり,プラチャンダは,リアリストとして,そこにネパール国益を掛けようとしているのだ。

また,これはマオイスト政権を支えるマデシ対策の側面もある。ルンビニ開発が始まれば,様々な利権が生まれ,それらをタライ有力勢力にばらまくことができる。マデシは一般に親インドだが,開発と利権によりマオイスト支持に向かわせることができるかもしれない。マオイスト=マデシ連合で,NC,UMLを干上がらせてしまうのだ。

4.プラチャンダの現実主義的ナショナリズム
プラチャンダは,やはり大物だ。ネアカのくせに,底知れぬリアリズムの不気味さがある。

ルンビニ開発は,中・印・米の権力闘争の場であり,ヒンドゥーと仏教の宗教闘争の場であり,開発利権をめぐる中国資本と米英資本の競争の場であり,そしてネパール・ナショナリズムのための現実主義者プラチャンダの闘いの場でもある。ちょっと,褒めすぎかな? が,そう見た方が,プラチャンダの私利私欲とみる,下種の勘繰りのような見方よりも,断然面白い。

今後,タライがネパールの政治・経済の中心になることは,間違いない。ルンビニ開発は,その文化的先兵であろう。プラチャンダは,そのネパール文化革命の旗手たらんとしているのではないか? 具体的には何の根拠もないが,そんな気がしてならない。

* http://www.apecf.org/english/index.html
* ekantipur, Oct17; Himalayan, Oct17.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/19 @ 15:00