ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

プラチャンダのルンビニ開発とバブラムのBIPPA,または中印覇権競争

1.ネパールと中印の相関図
ネパール政治は,重要なことであればあるほど,情報不足で確かなことはいいにくいが,現在の大状況を大胆に図式化すると,こうなる。

2.プラチャンダ議長と中国のルンビニ開発
プラチャンダ議長は,前述のように,「ルンビニ開発国家指導委員会」の委員長に選出される一方,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長となっている。ネパール政府が公式にAPECFのルンビニ開発計画を承認したのかどうか,そこは例のごとく,よく分からないが,政府がプラチャンダ議長を政府の「ルンビニ開発委員会」委員長に任命し,内外援助獲得の権限を与えたのだから,APECFルンビニ開発にも暗黙のゴーサインを出したとみてよいだろう。(力関係で逆転され,取り消されることもあるが。)

これは,われらが王様の「人民評論」によれば,「中国外交の大勝利」であり,これにより「中国はタライに足場をえた」ことになる。

ルンビニは仏教の聖地。インドは,自国では仏教をほぼ絶滅させておきながら,お釈迦様の生誕地はもともとインド領だと主張し,取り戻そうとあれこれ画策してきた。

その「領土紛争の地」ルンビニは,観光地としても産業立地としても有望な,きわめて豊かな土地である。そのルンビニに,中国がAPECFを介して本格的に入ってくる。しかも,インドの獅子心中の虫,印マオイストの友党の親分プラチャンダ議長の手引きで。

もちろんプラチャンダ議長自身は百戦錬磨の強者であり,そう簡単に中国の傀儡になったりはしない。数日前から,プラチャンダは,泣く子も黙る印情報局RAWのエージェントだというリーク情報がさかんに流されている。プラチャンダ議長が中国をバックにルンビニ開発を進めようとしているのは確からしいが,もしそうだとしたら,この時期になぜRAWエージェント情報が流されるのか? 複雑怪奇,平和ぼけ日本にいては,皆目見当もつかない。

しかし,そうした複雑怪奇な事柄はとりあえず括弧に入れ,表面的な流れだけから見ると,プラチャンダ議長が,中国をバックに,政治的・経済的にインドと対抗しようとしていることは,明らかである。われらが王様――王様は親中国であった――の「人民評論」がいっているのだから,間違いない。

2.バブラム首相とインドのBIPPA
そのプラチャンダ議長に対抗するのが,バブラム首相=インド連合だ。バブラム首相は訪印し,10月21日,インドとの間で「二国間投資促進保護協定(BIPPA)」をはじめとする経済協力協定をいくつか締結した。こちらは,インドのための出血大サービス。

インド大使館の公式説明によると,インド資本はネパール資本と同等の扱いを受け,もし紛争や国有化などで損害が生じたらネパール政府がそれを補償する。

インドが狙っているのは,経済的にはネパールにおけるインド資本の自由と安全,特にダム(水利・発電),道路,鉄道などの建設や,知的財産権の保護であり,政治的にはマオイスト抑圧や中国のタライ進出阻止だ。

これをマオイスト首相が呑んだ。マオイスト首相が,党綱領の大黒柱の1つ,国内産業保護を否定し,マオイスト人民解放闘争の抑圧を受け容れ,しかもあろうことか,マオイスト運動によりインド資本に損害が発生したら,ネパール政府が損害賠償をするという。

3.バイダ派の反撃
バブラム首相のこのBIPPA締結は,当然ながら,マオイスト内急進派の激しい怒りを買った。そりゃそうだ。国内産業保護をやめ,印大国主義資本のネパール侵出を認め,さらにマオイスト急進派の弾圧も約束してきた,と受け取られたからである。

バイダ副議長ら急進派は,BIPPAは「反国家的」で党綱領違反だ,こんな売国的協定は直ちに破棄せよ,さもなければ街頭反対運動に立ち上がる,と激しく政府を攻撃し始めた。

4.プラチャンダのステーツマンシップ
ここに登場するのが,プラチャンダ議長。彼自身,ルンビニ開発の当事者でありながら,バブラム首相とバイダ副議長一派との間に入り,BIPPAについては,要検討としながらも,バブラム首相の解任には反対している。

絶妙の立ち位置だ。RAWエージェントとのリーク情報も,ワサビのように利いている。

5.NC,UMLの日和見
情けないのが,中間派のNCとUML。NCのRS・マハト議員は,BIPPAを評価し,マオイストにインドの水力発電事業攻撃をやめよと要求しつつも,いまいそいでBIPPAを締結する必要はなかったなどと,よく分からないような批判をしている。

UMLも似たり寄ったり。落ち目で日和り,日和ってまた落ちる。

6.欲望渦巻く釈尊の地ルンビニ
釈尊は,悟りを開き,金・色から解脱し,仏陀となった。その仏陀の生誕地が,いまや印中二大国の経済的・政治的覇権争いの最前線となりつつある。バチ当たりなことだ。

プラチャンダは偉大であり,印中対立をさえ巧みに利用して動いているように見えるが,何せRAW,CIA,ISIや,各派テロリストらがうごめくネパールのこと,これから先どうなるか,全く分からない。

タライは豊饒の地。ここが,最下等の人間活動たる金儲け(経済競争)の地となり果てたら,いかなお釈迦様であってもお手上げ,ネパールは混沌に陥り,収拾がつかなくなるだろう。そして,マオイストは割れ,第二次人民戦争が始まるにちがいない。

* ekantipur, Oct26; Nepali Times, Oct25; Himalayan Times, Oct24&25; People’s Review, Oct21; PTI, Oct22; Times of India, Oct22; Embassey of India Quait, HP, Oct21.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/26 @ 19:29

カテゴリー: インド, マオイスト, 経済, 外交, 中国

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