ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

キリスト教墓地要求,ハンストへ

1.復活のための遺体
墓は,キリスト教にとって,おそらく他のどの宗教におけるよりも大切だろう。自分の身体(骨)を残さねば,唯一独自の存在たる自分が復活し,永遠の命をえることができなくなるからだ。したがって,本来なら,火葬は許されず,ましてや海への散骨など,もってのほかということになる。

2.国家世俗化による社会宗教化
ネパールがヒンドゥー教国家であった頃は,キリスト教は抑圧され,埋葬などの権利を表立って主張できなかった反面,地域社会もパシュパティ森への埋葬を黙認するなど,キリスト教を諸宗教の1つとして事実上容認してきた。

ところが,2006年革命により,ネパールが世俗国家となり,各民族・各宗教の固有の「権利」が公認されると,キリスト教も当然ながら自己のアイデンティティを明確化させ,信者各個人の永遠のアイデンティティの地上における拠点たる墓を要求し始めた。

直接の引き金は,「パシュパティ地域開発トラスト(PADT)」によるパシュパティ森キリスト教徒埋葬拒否宣言だが,国家がアイデンティティ政治を公認し推進し始めたのだから,ヒンドゥー教側も自己のアイデンティティの明確化に乗り出し,そうした宗教紛争を引き起こすのは当然といえよう。

3.墓地要求ハンスト
こうした流れを背景に,キリスト教会は,10月31日までに,カトマンズ地区にキリスト教墓地が確保されるめどがつかなければ,全国ハンストに入ると宣言した。「キリスト教墓地全国闘争委員会」によれば,政府は文化省内に5人委員会を設置したものの,今のところ何の進展もないという。

闘争委員会は,パタンの南方のゴティケルに2000ロパニの墓地を直ちに提供せよ,と政府に要求している。

4.コミュナル紛争へ?
国家世俗化が社会宗教化を促し,コミュナル(宗教社会間)紛争を激化させる。これは,予想されたこととはいえ,やっかいな事態だ。

9月26日には,カトマンズのど真ん中,ジャメ・マスジット前で,イスラム青年指導者が,白昼,暗殺された。ムスリムは激怒し,徹底捜査を要求しているが,全く進展がない。犯人のめどはついているのだろうが,おそらく恐ろしくて手が出せないのだろう。

一方,唯物論マオイスト政権は,いたるところで仏教を政治的に利用し,たとえばルンビニ大開発を進めようとしている。政府がこのようにして仏教を「国教化」すれば,いずれヒンドゥー教やイスラム教,あるいはキリスト教が反発し,反仏教闘争が始まるだろう。

難しい状況だ。キリスト教墓地問題は,こじらせると,大変なことになる。

キリスト教墓地問題
* ekantipur, Oct29

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/30 @ 11:30

カテゴリー: 宗教, 人権

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