ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

民主主義か能力主義か? 火だるまの包摂参加法案

BK.グプタ法務大臣(タライ・マデシ民主党)が閣議に提出した「包摂参加法案(Inclusive Bill)」が,官僚たちの猛攻撃を受け,炎上,3人委員会で再検討されることになった。

提出された「包摂参加法案」によると,すべての公共部門の人員の48%が,ジャナジャーティ,女性,ダリットらの被抑圧諸集団に割り当てられる。残りの52%が公募。国民の29%を占めるブラーマン・チェットリは「その他」に分類され,特権なし。

カースト/民族分類は「制憲議会選挙法」と同じとはいえ,それを公共部門全体に適用するというのは,まさに革命的,超民主的で感動的だ。すごい,これは実にスゴイ!

この超民主的・超革命的「包摂参加法案」にたいして,官僚たちは,もちろん大反対。そんなことをしたら,いまでも問題山積の行政がさらに不効率となり,大混乱,立ち往生してしまう。公務員は,能力主義(meritocracy)により公平に採用し,昇進させるべきだという。人民のための効率的行政を考えたら,この議論にも,たしかに一理ある。

民主主義か能力主義(エリート主義)か? これは根源的な対立であり,こんな原理的議論が,現実政治の中で,このような素朴な形で戦わされている国は,他にはない。ネパールは,民主主義論の生きた学校教材としてもたいへん魅力的である。

実は,私自身にも,この問題をめぐる苦い経験がある。かつて,もっとも民主的な組合の1つとされる労働組合の代議員会にはじめて出席したときのこと。全員が男性だったので,「これはイカン,代議員の半分は女性にすべきだ」と発言したら,某有名国立大学の代議員(教員)に「そんなことをしたら不公平,能力で選出すべきだ」と猛反対され,孤立無援,ボコボコにされ,却下されてしまった。民主的とされる労働組合にして,これ。能力主義(エリート主義)の民主主義攻撃がいかに強力か,骨身にしみて実感させられた次第。

さて,ネパールはどうするか? 包摂参加民主主義は,欧米と国連がネパールに押しつけてきたもの。その本家欧米,特に欧州では,包摂参加民主主義の諸問題がEU危機をきっかけに一気に噴出,もはや破綻寸前となっている。それでも,ネパールは欧米や国連に義理立てし,包摂民主主義を押し進めるか? ネパール民主化は,いま岐路に立たされているといってよいだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/06 @ 20:26

カテゴリー: 民主主義

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