ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 2月 2012

爆破テロの恐怖

ネパール石油公社(NOC)が2月27日午後1時頃,高性能爆薬で爆破され,3人死亡,7人負傷の大惨事となった。

NOCビルの隣のカトマンズ郡裁判所には,商売柄,よく行く。前の路上の屋台で,お茶をすすりながら,あれこれ観察する。そのすぐそばのNOCビルが爆破され,外壁が崩れ,犠牲者の身体がバラバラになって飛んできたというから,恐ろしい。もし訪ネ中だったら,犠牲者の1人になっていたかもしれない。

爆破声明を「統一民族解放戦線」が出しているが,本当かどうか,まだ分からない。人民戦争中,爆発物やその製造方法が国中に広まり,その気になれば,容易に爆破テロは実行できる。

このような状況で,失業や物価上昇が拡大していくと,危険なことになる。今回の石油値上げは,国際価格が急騰しネパール政府の手に余る事態とはいえ,一般庶民にはそのメカニズムはよく分からず,非難は目の前の石油公社に向かいがちである。

それでも政党系団体や学生組合などの抗議ストは,まだしも統制がとれているが,庶民の不満がこのまま拡大・深化していくと,今回のような爆破テロ,さらには社会不安の拡大そのもの,社会秩序の破壊そのものを目的とした無差別テロさえ惹起しかねない。

不況下の物価上昇は,日本のような先進国よりもむしろネパールのような途上国にとって,より深刻な事態をもたらすだろう。


 ■ネパール石油公社(下),カトマンズ郡裁判所(上)  [Google]

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/28 at 15:24

カテゴリー: 経済, 政治

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外務審議官訪ネ:地味報道と誤解

別所外務審議官(ネパール報道ではDeputy Foreign Minister)が22-23日,ネパールを公式訪問され,バブラム首相らとも会見されたが,メディアの扱いは小さかった。

別所審議官は,ネパール平和構築支援や青年50人への危機管理訓練などを約束され,日本援助のカトマンズ=バクタプル道路の視察もされたらしい。

これに対し,ネパール各紙がその小さな記事の中で特に言及したのは,バブラム首相らが別所審議官に対し,「ルンビニ観光年2012」に日本人仏教徒観光客を多数送り込んで欲しい,と要請したということ。

あれあれ! ルンビニ開発は,韓国のプランで,中国資本が手がけるのではなかったかな? 115m大仏に,プール付五星高級ホテル。残念ながら,韓国援助の新国際空港も中国援助のルンビニ鉄道も間に合いそうにないが,それでも中国・韓国による巨大開発が始まっているであろうルンビニに,清貧を旨とする日本人仏教徒を招くという。

ネパールは,日本を誤解している。政府系ライジングネパールは,別所審議官訪ネ記事を「経済記事」に分類し,バブラム首相やプラチャンダ議長らも日本のフトコロを当てにしている。完全な誤解。日本は,もはや中国や韓国のようなお金持ちではないのだ。

落日ニッポンの姿は,政府開発援助(ODA)削減をみれば,明らかだ。

目も当てられない惨めさ。ODAは今後も大幅削減を免れない。金持ちの清貧ではない。本当に,お金が無いのだ。

しかも,ネパール援助は,日本にとって見返りがほとんど無かった。費用対効果が極端に悪い。「国益のための援助」に方向転換した日本政府が,「無駄な援助」をバッサリ切る可能性は十分にある。

金の切れ目が縁の切れ目となるかどうか? そうさせないのが外交の役目だが,さて,どうなるやら。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/25 at 11:05

カテゴリー: 経済, 外交

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JICAのCOMCAP支援事業

ネパールメディアが,JICAの地域社会調停能力向上(COMCAP)支援事業の紹介をしている。
 ■A win-win situation, Naoko Kitadate in Mahottari,Nepali Times, #591, 10-16 Feb.
 ■Local people resolving disputes on their own, ekantipur, 2011-12-29.

記事によると,COMCAP(平和的調和的社会のための地域社会調停能力向上)事業とは,次のようなものらしい。

1.紛争解決メカニズムの機能不全
紛争はどの社会にもつきものであり,したがってそこには必ず紛争解決メカニズムがある。伝統的社会であれば長老,権威的社会であれば権威者(君主,英雄,独裁者など),そして近代社会であれば合理的司法制度により,紛争は調停あるいは裁定され,解決される。

ところが,記事によると,現在のネパールでは,正式の司法制度は特に貧困者や少数派には利用困難であり,また伝統的紛争解決メカニズムは地域社会の有力者により支配されている。さらに,もし第三者に依頼すると,勝敗を決め,当事者の一方を処罰することになりがちで,これでは地域社会に新たな紛争のタネを播くことになってしまう。

そこで,従来のものとは別の,両当事者にとって納得のいく紛争解決方法として,地域社会調停が求められ,JICAがその能力向上支援を行ってきたというわけである。

2.COMCAP支援事業
JICAは,2年前から,地方開発省と協力し,マホタリとシンズリでCOMCAP事業支援を実施してきた。

各村落開発区で,27人(女性1/3以上)のボランティア調停員を選び,紛争解決能力訓練を行う。

紛争が発生すると,調停員は,両当事者の言い分をよく聞き,論点を整理し,可能な選択肢を探り,当事者自身で双方とも納得できる,win-winの解決策を発見できるように支援していく。これにより,紛争は解決され,両当事者の人間関係も修復される。

3.調停解決事例
▼ヒンドゥー対ムスリム
マホタリで,ヒンドゥーとムスリムが,同じ場所で同時に宗教儀式を行うことを主張し,対立していた。

そこに,調停員が調停に入り,話しをよく聞いたところ,ヒンドゥー儀式は別の日でもよいが,ムスリム儀式はその日でなければならないことが分かった。そこで,ヒンドゥー側が後日開催することとし,紛争は解決され,両宗教の友好関係も促進された。

▼財産分与
シンズリで,父親の財産をめぐり,3人の兄弟が争っていた。

そこに調停員が入り,話しをよく聞くと,父母はきちんと扶養されるなら財産を3人の息子に譲る意思があることが分かった。そこで,父親と3人の息子は,財産分与と3人の両親扶養分担を取り決め,合意書に署名した。

こうして,父親と3人の息子の財産紛争は解決され,家族の絆は再建強化された。

4.移行期の応急的支援事業
記事だけでは詳しいことは分からないが,これはガルトゥングの提唱するトランセンド法に近い紛争解決法のように思われる。

先述のように,どのような社会にも,その社会に適した紛争解決メカニズムがある。ネパールにも,そうしたものがあったはずなのに,わざわざ外部支援を受け和解調停能力向上を図らなければならないのは,地域社会が分解し始めたからであろう。

伝統的紛争解決メカニズムが機能不全に陥る一方,それに代わる近代的紛争解決方法もまだ出来ていない。そんな状況では,外部の権威をバックにした調停和解システムの構築は,たしかに必要であり有効であろう。

しかし,ボランティア調停員は,やはり本質的に応急的なものであって,利害の厳しい対立や複雑な紛争には対応できない。上掲事例のヒンドゥーとムスリムの対立は,通常の人間関係があれば自主解決できるものだし,父親と息子の財産分与も家族内問題か相続法問題である。

ボランティア調停は社会移行期には応急的に必要だが,新しい社会秩序が整い始めたら,新しい社会規範による自己規律・紛争防止と,それを超える問題については公権力による司法的解決に移行せざるをえない。

応急的なボランティア調停能力の向上を図る一方,費用対効果,解決の客観性と安定性を考えるなら,公権力の確立による合理的な「法の支配」への移行を支援し促進すべきであろう。

【参照】
■正義か平和か:トランセンド法の可能性
■ガルトゥング「ネパールの危機」
■ヤコブセン「ネパール平和構築・紛争転換ツールキット」
■ヤコブセン「ネパール平和構築・紛争転換: 包括的戦略のために」
■ガルトゥング提案と包摂民主制の空回り
■仏教の政治的利用:ガルトゥング批判

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/22 at 11:58

ネパール流お化粧直し,ekantipur

ネパールの代表的メディア,ekantipurがホームページの化粧直しをしている。バックが白,文字は黒,リンク付きは青と,すっきりしている。日本からのアクセスには,ちゃんと日本企業の宣伝もでる。

そして,いかにもネパール式と感心するのが,まだ未完成で正常に表示できない部分が多々あるのに,平気で新デザインに切り替えてしまうところ。もし日本でこんなことをやったら,新聞社や大手サイトはむろんのこと,大学や高校でも,非難囂々,担当者は減給か左遷だろう。

ネパールでは,あれこれやっている舞台裏を平気で見せ,少しずつ手直しをしていく。みる方も慣れているから,あぁやっているな,そのうち直るだろう,と寛容だ。

 ekantipur, 2012-02-20

完璧主義――よい子ちゃん――の日本式と,このネパール式を比較すると,どちらがよいか? それぞれ一長一短があるが,グローバル化で変化が速く大規模な現在では,断然,ネパール式の方が強い。柔軟であり,費用も安上がり。

日本式完璧主義は,ダメ。特に教育において。たとえば,入試。センター試験など,常軌を逸している。公平を金科玉条に,徹底的に人間性を否定し,軍隊的官僚主義に徹している。受験生も,試験実施担当の教職員も,まるで自動機械,指定された手順を少しでも外れようものなら,マスコミなどがよってたかって,まるで極悪非道の犯罪人のように糾弾する。異常だ。奇問珍問なぜ悪い。試験時間が1分短かろうが長かろうが,それがどうした。そんなことにも対応できないようなマニュアル人間を,大金をかけて,大量生産してどうなる? そもそも,費用対効果からして,まったく割に合わない。

同じようなことが,政治についてもいえる。日本からみると,ネパール政治は出鱈目のように見えるが,少し長い目で見ると,なかなかうまくやっているともいえる。人民戦争は確かに悲惨だったが,近代ブルジョア革命や現代社会主義革命,あるいは他の途上国の紛争に比べ,ネパールは,比較的少ない犠牲で,前近代的半封建的社会から現代社会へと,一気に転換しつつある。

日本は,ITと同様,政治についても,ネパールから学ぶべきことが少なくない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/20 at 10:56

カテゴリー: 情報 IT, 政治, 文化

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ブロックされる左翼サイト

Red Starが,またMcAfeeにブロックされ始めた。最近の紙面は精彩を欠き,人民戦争17周年記念記事も,地味で短く,ぱっとしない。危なそうに思えないのに,なぜか?

 ブロック画面(2012-02-18)

ITのことは全く分からないが,ひょっとして,この「赤星」に接続すると,テロリスト候補者名簿にでも自動的に登録されてしまうのかな? なんか釈然としない。本当に,ネット版言論統制ではないのでしょうね?

こんな画面が危険なのかな?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/18 at 19:12

カテゴリー: マオイスト, 情報 IT, 民主主義

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非領域州は外国の謀略:マオイスト政治局員

国家再構築委員会(SRC)が非領域ダリット州の設置を含む連邦制案を提出したが,この革命的な連邦制案に対し,超革命的マオイスト急進派が猛反対している。ekantipur(Feb2)がインタビューしたのは,カドガバハドール・ビシュワカルマ議員(カリコット選出)。ダリット指導者であり,急進派のマオイスト政治局員。

ビシュワカルマ議員によると,州区分は地理によるべきであり,自決権・分離権も認められるべきだ――

1.民主主義の核心は分離権
「連邦制ネパールは,自決権を認めるべきだ。分離権(離脱権)の理論的承認こそ,民主主義の核心だ。国家が州に認めるべきは自治であり,これが認められてはじめて,プリトビナラヤン・シャハの征服に始まる周縁化された人々・少数派の抑圧を廃止できる。これこそ,新国家の果たすべき任務だ。もしこれが達成できたら,われわれは世界を政治的・イデオロギー的に指導することが出来るだろう。そして,自治さえあれば,実際には,諸州は分離する必要などなくなるはずだ。」

2.非領域州は外国の謀略
「党の政策によれば,ダリットには,新しい連邦共和国において特別の諸権利が保障される。非領域的な州は,突拍子もないもので,到底認められない。非領域州は,ブルジョアのスローガンでもなければ,修正主義者や革命派のスローガンでもない。修正主義者のスローガンは保留推進であり,革命派の要求は特別の諸権利の保障だ。議論されているのは,これらの問題だ。非領域州は,ダリット運動に関わる誰の要求でもない。ダリットは,いままさに諸権利を獲得しようとしている。非領域州は,そのダリットに対する,外から持ち込まれた謀略である。」

3.「民族」の泥沼
このビシュワカルマ議員の議論は,いまのネパールの連邦制論を純化したもので,劇画的にわかりやすく,面白い。

そもそもマルクス主義は,生産関係に基づく「階級」を前提にしており,「民族」本質主義とは相容れない。特に労働者は,普遍階級として国境を越えて連帯し,「万国の労働者」となるはずだ。

それなのに,ネパール・マオイストは,被抑圧カースト・民族を利用し革命に動員したがため,非科学的な「民族」の泥沼にはまってしまった。「民族」本質主義,「民族」原理主義だ。

まず第一に,分離権付与の論理。ビシュワカルマ議員によると,被抑圧カースト・民族の解放には分離権を認める連邦制が必要だが,各州は分離権を認められても,自治権があるので実際には分離はしないだろうという。

しかし,これは何の根拠もない単なる希望的観測であり,現にタライなどでは,つねに分離が策謀されている。そういう状況で,もし分離権が認められたら,議会決議や住民投票で分離する州が出るだろうし,たとえそこまで行かないにしても,分離運動が激化し大混乱になることは避けられない。分離権などという劇薬は,そう安易に処方されてはならない。

第二に,もっと面白いのが,非領域州否定の論理。ビシュワカルマ議員によれば,ダリット共同体はダリットとしての特権の要求でよく,非領域州は不必要だという。しかし,全国のダリットが,一つの社会共同体として諸特権を要求し享受するのは,そのダリット共同体を非領域州(ダリット州)として認めるのと,どこがどう違うのか? 議員は,いったい何を怖れているのか?

それはいうまでもあるまい。もしダリットを非領域的なカースト州として認めたら,全国に散在する他の民族集団,宗教集団,文化集団などが次々と非領域的な州としての自治を要求することになるからだ。たとえば,ムスリム州,チェットリ州等々。そうなれば,元の木阿弥,ダリットの特権も消滅する。

ビシュワカルマ議員は,一方で,ダリット以外の諸民族を領域州の州境の中に囲い込み,他方で,ダリットには州境を超えた被抑圧カーストとしての諸特権を認めさせようとしている。

これは劇画的に面白い議論だ。そして,この面白い論理を,マオイスト主流派もさかんに利用している。マオイスト幹部らは,被抑圧カースト・民族を人民戦争に動員し,勝利後,彼らを地理的に分割し,州に安堵する。他方,マオイスト幹部ら自身は,普遍的プロレタリアートの前衛として,州分割された諸民族を,一段高い国家(連邦)の高見から分割統治するわけだ。

しかし,本当にそんな面白いことが実行できるだろうか? 歴史を見ると,「民族」を利用したものは,例外なく非合理な民族情念の泥沼にはまりこみ,破滅することになるのだが。

■6州案・11州案答申,国家再構築委員会

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/17 at 14:39

UMLの連邦制案

統一共産党(UML)が,8州案と12州案をカナル党首に提出した。審議後,党の案を正式採択の予定。

■州区分
 8州案: タライ3州,丘陵・山地5州
 12州案:タライ4州,丘陵・山地8州

■階層
 連邦――州――地域

■自治政府
 自治都市政府:10
 町政府:150
 村政府:900
 特別自治区:5(シェルパ・サガルマタ,チェパン,スヌワル,ダヌワル,西ヒマリ)

■自治体内の多数派集団の優先権:認めない

■連邦からの分離権(離脱権):認めない

まぁ,はっきり言って,どうでもよい案である。他の連邦制案も同じこと。こんなくだらないことで,カネ(税金)と時間を浪費することは,全くの無駄。ばかげている。単一国家の地方自治の拡大・充実の方が,はるかに安上がりで建設的だ。

諸悪の根源は,いうまでもなく欧米,とくに西欧の連邦制原理主義者にある。民族社会主義をはじめ,アイデンティティ政治で殺し合い,地獄を見てきた自分たちの悲惨な過去を,都合よくけろりと忘れ,ネパールに民族アイデンティティ政治を強引に持ち込んでいる。ネパールのことより,EU分裂の心配の方が先ではないか?

* Republica, Feb15.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/15 at 14:57

カテゴリー: 憲法

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