ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 5月 2012

連邦制とネパールの国家再構築

1年半前に書いた論文の結論部分です。ご参考までに。

・・・・このようにみてくると,連邦制には問題が多く,単一制を改めて見直し,改革・改良の可能性をさぐる努力もあってよいことがわかる。連邦制が支邦内も含めた分権・自治には必ずしもならないのと同じく,単一制も必ずしも中央集権制となるとは限らない。イギリスは単一制の立憲君主国だが,分権・自治は高度に進んでいる。日本も単一制の象徴天皇制国家だが,Anderson(2008, p.6)も指摘するように,相当程度地方自治が認められているし,また 2009年9月の民主党への政権交代で地方分権がさらに進む状況になってきた。

ネパールではいま,前述のような様々な連邦制案が示すように,支邦の線引きをめぐって民族対立や地域対立が激化している。ネパールの政治的・社会的・経済的現実を無視した,西洋迎合の観念的・情緒的連邦制論は,混乱と対立を激化させるだけである。

もしそうだとするなら,現在の単一制の大枠を維持しつつ,分権化による地方自治の強化や,比例制,クオータ制などによる民族・社会諸集団の権力参加促進を図る政策を採る方が,ネパールにとっては政治的にはより賢明である。多民族多文化混在,低開発,経済格差,印中間の内陸小国――この基本的条件を考えると,地味で面白味には欠けるが,単一制国家の地方自治改革・権力参加促進を図る方がより現実的であろう。

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連邦制とネパールの国家再構築(2010.9)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/31 at 16:33

カテゴリー: 憲法, 民族, 民主主義

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集団の権利のための闘争と,その限界

構造的暴力の見本のようなネパールにおいては,長年にわたって差別・抑圧されてきた人々が,「国家」や「国民」よりも自分たち自身の「集団の権利」を掲げ,体制側と闘うのは当然だ。なぜなら,「国家」や「国民」は,自分たちのものではなく,少数の特権身分がそれらの名,それらの正義により彼らを支配し搾取するためのイデオロギーに過ぎないからである。

たとえば,天皇が「朕」というと,それは「国民」を代表しているから,人民はすべからく「朕」の命令に絶対服従すべし,とされた。しかし「朕」は「朕」であり,人民ではない。あるいは,国王が「われわれ」というとき,それは人民のことではなく,実際には国王自身のことである。

このカラクリに気づかず,やれ「国家」の品格だの「国民」の統一だのと,お題目を唱えるのは,あまりにも純朴であり,おめでたい。被抑圧人民は,そんなものは無視し,自分自身の「非国民的」特殊利益を主張してよいし,主張すべきである。

いまも忘れないが,中学で英語を習い始めた頃,”man”は「人間」という意味ですよ,と例文を使い繰り返し教え込まれた。当時,教師は大変な権威をもっていたから,「そうか,先進国英米では”man”は人間なんだ,人間は”man”なんだ」と,男生徒も女生徒も大いに納得させられたものだ。

しかし,これはもちろん,女は男によって代表されるから,男=man=人間(人類)なのだ,という女性差別思想に基づいている。したがって,こうした「人間」概念のイデオロギー性に気づかず,「人権(rights of man)」を主張するのは,あまりにもおめでたい。女性は,「人間」の権利など無視し,「女」の権利を主張してよいし,主張すべきなのだ。(各地の「女性センター」がつぎつぎと「人権センター」に衣替えさせられたのは,もちろん「男」の陰謀であり,女が「女」の権利を主張しないかったから。)

だから,天皇が「朕は」といい,国王が「われわれは」といっても,それはあんたのことでしょ,と冷たくシカトすればよい。あるいは,バフンやチェットリや有力ネワールが,「国家」とか「国民」といっても,それはあなたたち特権カーストのことでしょ,と相手にせず,まずは自分自身の,あるいは自分の集団の「非国家的」「非国民的」個別利益を主張してよいし,主張すべきなのだ。

この単純明快な真理を最もうまく代弁したのが,マオイストだ。マオイストは,「国家」「国民」のイデオロギー性を余すところなく暴露し,被差別カーストや被差別諸民族に向かって,あなたたち自身の「集団の権利」を主張してよいし,主張すべきだ,と呼びかけた。

これは難しい理屈ではなく,単純明快な真理だから,勇気をもって語りかけられると,すぐにその正しさが理解され,被差別・被抑圧諸集団はこぞってマオイスト支持に回り,国王や支配カーストの「国家」や「国民」を粉砕してしまったのである。

ネパール人民は,根は仏様のように優しいから,ソ連や中国などのようなすさまじい暴力革命にはならなかったが,マオイスト人民戦争の前と後とでは,ネパール社会は文字通り「革命的に」変化した。これはマオイストの偉大な功績である。

しかし,である。マオイストは,マルクス=レーニン=毛沢東主義であり,本来なら,「プロレタリアート」あるいは「労働者・農民」という普遍的な階級の利益を第一の目標とすべきはずの政党である。「万国の労働者よ,団結せよ」とまではいわなくても,少なくとも「ネパールの労働者・農民よ,団結せよ」とは,訴えるべきであろう。

むろん,マオイストも,繰り返し「ネパールの労働者・農民」とは唱えてきたが,それはお題目であり,実際には個別カーストや諸民族の集団としての特殊利益に火をつけ,党勢拡大に利用することしかやってこなかった。典型的な二重基準,二枚舌であり,安易な闘い方である。

個別は個別だけでは成立しない。何らかの形で普遍と関係することによって初めて,個別は成立する。あるいは,難しい議論もあろうが,やはり権利は何らかの義務なしには成立しない。たとえ自然権(natural rights)といえども,それは自然法(natural law)と対応しているとみるのが妥当だろう。

とすると,被差別カースト・被差別諸民族の「集団の権利」の主張それ自体は正しいが,その権利主張は,その権利をどう成立させるか,その権利を尊重する義務(法)を担う社会ないし国家をどう構築するか,という問題と不可分の関係にあるといってよい。各個人,各集団は,自分の個別的権利を主張してもよいが,それだけでは権利は享受できないということである。

マオイストは,「国家」や「国民」のイデオロギー性を暴露し,その破壊には成功したが,それらに代わる新しい法共同体の構築には,少なくともこれまでは真摯に向き合ってはこなかった。破壊して戦果を幹部で山分けし,後は野となれでは,あまりにも無責任である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/30 at 15:26

マオイスト親政,平和革命への序曲か?

制憲議会が,大方の予想に反し,何もきめられないまま,5月27日をもって任期満了・解散となった。暫定憲法も予想しない,異常事態である。

任期満了の1時間前(午後11時頃),バブラム・バタライ首相は閣議を開き,ポカレル副首相(UML),カプン大臣(RPP)など非マオイスト大臣の反対で同意が得られないのを押し切り,一方的に,11月22日に新しい制憲議会構成のための選挙を実施することを決定した。

この決定には,NC,UML,マデシ権利フォーラムなど,マオイスト以外のほぼすべての政党が反対している。いや,そればかりか,マオイスト内急進派のバイダ派ですら,反対声明を出した。いまや政府与党は,プラチャンダ=バブラム主流派マオイストだけである。

制憲議会が任期満了で自然消滅した場合,統治はどうなるのか?

■憲法
現行「暫定憲法2007」は,新憲法が制定されるまで効力を有する(前文)。したがって,憲法自身,予想していなかった事態とはいえ,無法状態にはならない。
■大統領
新憲法が公布施行されるまで在職する(第36条)。
■司法(最高裁)
最高裁長官任期は6年だが,大統領任命であり,当面,存続に支障はない。
■首相
一般に,議会解散の場合,次の議会で新首相が選任されるまで,現首相が任務を継続する。が,今回は異例であり,そうした憲政の常道に当てはまるかどうか微妙。
 ・暫定憲法はこのような形での制憲議会再選挙をまったく予想していない。
 ・マオイスト主流派単独で,一方的に,11月22日選挙を決定した。

以上のことを考え合わせると,現状では,最も正統性があるのが司法(最高裁),次に大統領であり,首相には正統性はほとんどない。この状態でバタライ首相が統治し続けるなら,それは「マオイスト親政」と考えてよいであろう。

このマオイスト親政に対し,NC,UML,マデシなどは,より正統な権力である司法(最高裁)と大統領をつかって抵抗を試みるであろう。最高裁に11月22日選挙実施決定を違憲と訴え,大統領には法令認証署名拒否を働きかける。あるいは,暫定的な大統領統治を要請するかもしれない。

いずれにせよ,議会という民主的正統性の根源が消滅したのだから,よほどうまくやらないと,大混乱は免れない。マオイスト親政は国王親政よりもましかどうか? NC,UMLは,マオイストの力を借りて国王親政を打倒したが,では,マオイスト親政になった場合,南の誰かの力を借りることなく,この新たな親政を打倒できるか否か?

あるいは,マオイストは,巧まずして転がり込んできた絶好のチャンスを利用し,人民民主主義=マオイスト独裁を達成できるか否か?

マオイスト登山隊がエベレストに立てた赤旗は,あるいはマオイスト平和革命開始の世界へ向けての宣言であったのかもしれない。

▼ 2012/05/27 エベレストに赤旗,マオイストの快挙

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/28 at 19:05

エベレストに赤旗,マオイストの快挙

エベレストを征服し,赤旗を立て,世界最高峰の高みから世界マオイスト革命を指導する,というのがネパール毛沢東主義派の立党以来の目標だった。その念願が,5月26日,ついに達成された。

英雄プラチャンダ議長の名代,プラチャンダJr(プラカシ・ダハール)を中心とする総勢15人のマオイスト登山隊が,「ルンビニ=エベレスト平和行進2012」を掲げ,エベレスト登頂に成功したのだ。

マオイスト登山隊は,「ルンビニの土」とネパール国旗・マオイスト党旗をもって登頂した。ブルジョア反動メディアは報道していないが,おそらく山頂で国旗と赤旗(党旗)を掲げ,「ルンビニの土」つまり「仏舎利」を奉納したのではないだろうか。国家と党と仏陀! さすがマオイストは偉大だ。

少々残念なのは,時期がいささか悪かったこと。本来なら,マオイスト主導下に新憲法が制定され,ルンビニでは国連事務総長をはじめ世界の著名指導者多数を招き「仏前平和祭典」が賑々しく開催されているはずであった。ところが,無念なことに,反動勢力に妨害され,いずれも水泡に帰し,ネパールは目下,大混乱,戒厳令か国家解体かの瀬戸際にある。せっかくの登頂が,台無しにされてしまった。

しかし,そこはマオイスト,この逆境だからこそ,エベレスト登頂の意義もあろうというもの。世界最高峰に党旗をたて,マオイスト革命を訴えかける。さすがイデオロギー政党,健気なものだ。こうした不屈の信念があったからこそ,王制打倒,封建制解体,カースト・ジャナジャーティ差別撤廃,女性蔑視禁止などの偉大な目標が多数達成されたのだ。

マオイスト設立の頃,エベレストに赤旗を立てることを党是に組み込んだのが誰であったかは定かではないが,こうした無邪気な,しかしそれだけに人心を巧みに捉えることができるスローガンを思いついたのは,おそらくプラチャンダであろう。

自分の息子に「赤旗」と「仏舎利(ルンビニの土)」を持たせ,エベレスト山頂から「マオイスト革命」と「平和」を世界に向かって訴えかけさせる。こんな奇想天外な,愉快な大事業をやれるのは,われらが英雄プラチャンダ以外にはありえない。

プラチャンダの道(Prachanda Path)」は,エベレストの高みに達した。プラチャンダ議長,万歳!

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/27 at 19:39

カテゴリー: マオイスト

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制憲議会延長停止命令,首相・法相には出廷命令

2011年11月25日の制憲議会延長禁止判決を無視され,頭にきた最高裁は,25日,政府に対し制憲議会任期延長のための改憲手続きの停止を命令し,また「法廷侮辱」で訴えられたバブラム首相とシタウラ副首相兼法務大臣に対しては出廷を命令した。議会審議を停止させ,現職の首相と副首相兼法務大臣を法廷で裁くというのだから,これまた大胆な。最高裁(法曹カースト)には,南方の強力な応援団か何かがついているのだろうか。

この最高裁命令により制憲議会任期延長は困難となり,残された選択肢は,(1)27日までに骨格憲法制定,(2)国民投票,(3)選挙,(4)非常事態宣言,のいずれかとなった。

(2)と(3)は難しいとすると,やはり(1)の可能性が大だ。肉なしの要綱骨格憲法,インド骨がらみ憲法の制定だ。あるいは,非常事態宣言により大統領か誰かの委任独裁に移る可能性もあるにはあるが,これは危険すぎる。おそらく,これから2日間で骨格だけの簡略な憲法を制定し,これにより最低限の法的・政治的正統性をぎりぎり確保し,問題解決を先送りする方法が採られるだろう。

それにしても,マオイストは,少々早まったと内心忸怩たる思いではないだろうか。人民解放軍を残しておけば,現状は,権力を奪取し,人民民主主義=人民独裁=マオイスト支配を確立する絶好のチャンスだったはずなのに。

あるいは,逆に言えば,人民解放軍解体により当面の危険が遠のいたので,諸政党に無為無策・無政府状態転落の余裕が生じたといった方が正確かもしれない。

いずれにせよ,苦し紛れの要綱骨格憲法の制定は,その場しのぎで,問題の先送りにしかならないだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/25 at 19:46

カテゴリー: 議会, 司法, 憲法

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議会延長反対急拡大、最高裁提訴&大臣辞任

4党合意により政府が提出した制憲議会(CA)延長のための憲法第64条改正案に対し、各方面から猛反対が起こり、政府は崩壊寸前となった。

たしかに、この第64条改正案(第13次改憲案)はあまりにも強引だ。最高裁は2011年11月25日、次のような判決を出している。

「暫定憲法第64条の制限的規定によれば、先の任期延長が最後と解される。・・・・もし今の任期内に憲法が制定できなければ、それをもって制憲議会は自ずと解散となる。・・・・その場合、第154条の規定により国民投票を実施するか、第63条により選挙を実施するか、あるいは他の適切な方策を実施するものとする。」

政府提出の第13次改憲案がこの最高裁判決の完全無視であることは明白であり、弁護士会など法律家は、あまりにもひどいと、かんかんになって怒っている。改憲案は、憲法第2,13,63(7)、85,116(2)、148条に抵触しているという理由で、責任者のバブラム・バタライ首相とシタウラ副首相兼法務大臣を最高裁に訴え、投獄1年、罰金1万ルピーの刑に処することを要求するそうだ。

さらに弁護士らは、ネムワン議長には改憲案の審議を進めないように要求し、またヤダブ大統領には改憲法案への認証署名をしないように要請した。それでも、もし任期延長改憲法案が成立しそうなら、弁護士会は街頭に出て、全国デモを展開するという。かなり本気だ。

この状況を見て、もうダメだと思ったのか、責任者のシタウラ法務大臣がNC同僚のSM・グルン大臣とともに、24日、辞表を提出してしまった。

ネパールは、いよいよ危なくなってきた。われらがプラチャンダ議長は、どうするつもりなのだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/24 at 20:18

カテゴリー: 議会, 憲法

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暫定憲法第13次改正

日本改憲派にとっては、ネパールは垂涎の的。なんと、暫定憲法第12次改正のわずか3日後、われらのマオイスト政府は敢然と第13次改憲案を提出した。今度は第64条の改正。制憲議会(CA)の任期を3ヶ月延長するという案だ。いやはや、すさまじい。

現行CA任期は、5月27日まで。新憲法制定がその任務だ。ところが、現状では、とても間に合いそうにない。どうするか? 3案が検討された。

(1)合意できている部分だけをまとめ、骨格だけの新憲法を作る。この新憲法により新議会を構成し、各条文を審議し追加していく。

この案は、以前からインド(RAW)が密かに根回ししていたとウワサされていた。インドに骨格を作ってもらい、ネパール議会がそれに肉付けをしていく。名案だが、骨がらみになる恐れあり。

(2)CAの任期延長。これはもちろん任期延長禁止の最高裁判決の無視であり、「法の支配」「立憲主義」「司法の独立」に反する。議会の権限逸脱。マオイスト提案であり、NC,UMLは反対。

(3)留保付きCA任期延長。NCとUMLに譲歩し、いくつかの留保をつけ、任期3ヶ月延長という案。

これら3案が検討され、結局、第3案の留保付き任期3ヶ月延長案の提出となったが、その肝心の「留保」が、報道を見る限りでは、よくわからない。一つは、5月27日までに新憲法が制定できなければという留保らしいが、そうならあまりにもシラジラしい。

もう一つは、3ヶ月延長といっても、全力で取り組み、できるだけ早い時期に新憲法を制定し任期を終了する、という留保らしいが、これまたシラジラしい。

いずれにせよ、この憲法第13次改正案は、おそらく採択されるであろう。600人もの議員団は、ネパール国内の小さな「民族」よりも大きい。アイデンティティ政治の原理に則れば、議員団も、当然、固有のアイデンティティをもつ「集団」であり、したがって「集団としての権利」をもつ。「議員民族」、あるいは古風な言い方をすれば「議員カースト」の自治である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/23 at 21:16

カテゴリー: 議会, 憲法, 政党

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