ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

選挙実施理由提示命令と判事暗殺

1.選挙実施理由提示命令
最高裁(TA.アンサリ判事)は,S.バスネット弁護士からの公益訴訟を審理し,5月30日,バブラム・バタライ内閣に対し,制憲議会選挙の11月22日実施を決定した理由を,文書で,10日以内に提示するように命令した。ただし,選挙実施の停止命令は,認めなかった。

最高裁が選挙実施決定の理由説明を命じたのは,首相,内閣府,選挙管理委員会に対してだけであり,大統領と大統領府は回答の義務なし,とした。

先日も述べたように(マオイスト親政,平和革命への序曲か?),制憲議会=立法議会が後のことを何も決めないまま消滅してしまった現在,最も大きな正統性を有するのが最高裁,次が大統領であるのに対し,首相には法的合法性も政治的正統性もほとんどない。

もし最高裁が,30日の決定に従い,KR.レグミ最高裁長官を裁判長とする特別法廷で11月22日選挙実施決定の合憲性を審理すると,違憲と判定される可能性が高い。たとえ違憲と判定されなくても,バタライ内閣の非正統性が露わとなり,政府はほぼ完全に死に体となってしまうであろう。

■最高裁判事15名。赤印がバム判事。

2.バム判事暗殺
この危機状況の最中の5月31日,最高裁RB.バム判事が暗殺された。覆面をしたバイクの2人組が,午前11時頃,ラリトプールで車内のバム判事を銃撃,判事はすぐノルビック病院に運ばれたものの,助からなかった。

これはもちろんプロの仕業。数発の銃弾は正確に急所に命中しており,確実な殺害が目的だ。昨年9月26日のイスラム青年指導者暗殺のときと,まったく同じ手口(イスラム協会書記長,暗殺される)。ネパールには,このようなプロの暗殺者がいて暗躍していることは明白である。

難しいのは,どの勢力がこの暗殺を依頼したかである。バム判事は,収賄容疑で弾劾裁判を受けており,職務停止中。暗殺がこの収賄容疑事件に絡むものである可能性は否定できないが,しかし報道を見る限り,暗殺しなければならないほどの理由は見当たらない。やはり政治的な暗殺とみるべきだろう。

現場からは,”Nepalbad NJSSR Party”のパンフレットが見つかったという。正体不明の団体で,カモフラージュの可能性が高い。

とすると,現在のところ最も大きな正統性を持つ,したがって政治的影響力の強い最高裁をねらった,と見るべきだろう。しかも,弾劾裁判で職務停止中のバム判事が標的となった。誰かが,誰かに対して,政治的な警告を発したのではないか。

むろん私怨かもしれないし,真相は分からない。ネパールでは,ビレンドラ国王暗殺(王族殺害事件)も闇の中,イスラム青年指導者暗殺も闇の中。しかし,中枢にいる権力者・有力者には,誰が,あるいはどの方面の力が暗殺に動き,何を警告しているかは,ほぼ見当がついているはずだ。バム判事暗殺も,同じ構図であろう。

こうした暗殺事件が庶民にとっても無縁でないと思われるのは,もっと矮小であれ,同じような手口が身の回りでも使われているのではないかという疑念がぬぐいきれないこと。紛争が泥沼化すると,手っ取り早く暗殺や謀殺で始末してしまう。関係者には何となく見当がつくが,確かなことは分からず,結局うやむやになるという図式だ。

暗殺,謀殺という漆黒の暗闇。不気味この上ない。仏陀の国には,このような暗黒の側面もあることを,決して忘れてはならないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/01 @ 10:18

カテゴリー: 政治, 民主主義

Tagged with , ,