ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

PLA&CAの解体とマオイストの分裂

マオイスト自身にとって,人民戦争の二大成果は,強大な人民解放軍(PLA)と制憲議会(CA)議席であった。

PLAは,最盛期4-5万人ともいわれ,国軍とほぼ拮抗する強大な軍隊であった。人民戦争勝利後,国連仲介のもと,資格審査により2万人弱まで削減されたものの,公式にその存在が認められ,全国の駐屯地に分駐,実力部隊としてマオイストの政治力を担保していた。

ところが,そのPLAは,先進資本主義国の政治的経済的介入により進められた国軍統合・社会復帰プログラムにより,結局は,除隊給付金と見返りに解体されてしまった。 これにより,マオイストは,その政治力の軍事的基盤を失ってしまったのである。

制憲議会(CA)についてみると,マオイストは2008年選挙で229議席(38%)もの議席を獲得,これにより中上層リーダーの貢献に報いると同時に,それをマオイスト政治力の合法的基盤としてきた。

ところが,このCAも,キラン派にいわせれば「外国の介入」により5月27日消滅し,マオイスト議員たちは特権を失い,ただの人に戻ってしまった。

このPLAとCAの消滅は,マオイストにとっては大打撃であり,党の再編は避けられない事態となった。

PLAとCAで経済的・社会的・政治的に十分な報酬を確保し生活基盤をほぼ固めた「勝ち組」は,ここで革命を降り,体制の安定化に向かうであろう。これに対し,十分な報酬を確保できなかった「負け組」は,再度,マオイスト運動の原点に立ち戻り,人民戦争再開を狙うであろう。革命後のこうした運動の分裂は,どの革命でも見られることであり,ネパール・マオイストに特殊なことではない。

■マオイスト指導体制

報道でも,マオイストの分裂は,もはや避けられないとみられている。主流派は,プラチャンダ議長,バブラム・バタライ副議長(首相)ら。古参幹部16名のうち,6名が主流派に残りそうだ。これに対し,分離を狙う反主流派は,キラン(バイダ)副議長を中心に,バダル(RB.タパ)書記長,A.シャルマ中執委員,M.パスワン中執委員ら10名の古参幹部により構成される。

ここで気になるのが,キラン派マオイストによる人民解放軍再建がなるか否かだ。PLA除隊者は,たしかに50-80万ルピーの給付金を受けたが,こんな金などすぐなくなる。また,ゲリラ活動をしてきた彼らには,仕事の知識も経験もなく,村に帰っても生活はできない。一方,中上層リーダーたちも,CA解散で失業し,これまた先の見通しは暗い。キラン派マオイストは,これら行き場のない元兵士・元議員らが戻ってくることを期待しているのではないだろうか。

しかし,もしかりにキラン派マオイストが分離独立し新人民解放軍の結成に成功したとしても,かつてのような戦いはもはや難しいであろう。

先の人民戦争により,半封建的差別・抑圧体制のかなりの部分が破壊され,人権と自由が相当程度実現されているからだ。また人々はすでに人民戦争を見ており,同じことを繰り返すとは思えない。もし繰り返すなら,「二度目は喜劇」となる。ここが,キラン派マオイストの闘いの難しいところだ。

一方,プラチャンダ=バタライ主流派は,革命成果の食い逃げを図るだろう。金と地位と,そしてできれば名誉と。プラチャンダもバブラム・バタライも百戦錬磨であり,逃げどきを見逃すことはあるまい。

卑怯とも見えるが,権力に恋々とし,粛正や大躍進で何千万人もの死者・犠牲者を出したとされるスターリンや毛沢東よりははるかにましだ。ネパールの政治家の偉さは,ほどほどで押さえ,極端に突き進まないところ。これは見習うべきだ。

以上は,もちろん現状からの予測に過ぎない。今後どう展開するか,外国のことながら,大変気になるところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/02 @ 21:25

カテゴリー: マオイスト, 人民戦争

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