ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

大統領の政治化助長

コングレス,統一共産党などが,ヤダブ大統領に対し,11月22日総選挙経費70億ルピーを認めるべきではない,と圧力をかけている。これは,予算の当否よりも,そのような要求の仕方そのものの方が問題である。

暫定憲法は,議院内閣制であり,「行政権は内閣にある」(第37条)。大統領は議会により任免され,内閣または議会議長等の助言により,憲法で定められた儀式的・形式的行為のみを行う。大統領は,国政に関する実質的な決定権限は一切持たない。大統領は,1990年憲法の定める国王の儀式的・形式的行為を継承しているのである。

ところが,その大統領に対し,NCやUMLは,首相や内閣の予算に関する助言を拒否せよ,と要求している。憲法で認められていない政治的権限を行使せよと迫っているのだ。

これは,実は,諸政党が1990年以降,国王に対して繰り返し行ってきたことだ。1990年憲法は日本国憲法よりはるかによくできた憲法であった。ビレンドラ国王も,少なくとも1990年以降は,憲法を遵守し行動しようと努力していた。

ところが,民主化により権力を得た諸政党は十分な統治能力をもたず,自党に都合が悪くなると,すぐ国王に直訴し国王介入により政治を有利に動かそうとした。国民民主党だけでなく,コングレス党も共産党も,みな同じこと,何かあると王宮に参内し,「ご聖断」を仰いだ。

それでも,ビレンドラ国王は最大限憲法を遵守し国王介入を抑制したが,ギャネンドラ国王になると,そのような抑制は一気に取り払われ,国王親政へと一気に突き進んだ。ギャネンドラ専制は,国王というよりは,国王の政治的利用を繰り返してきた諸政党の責任である。

それと同じことを,またNC,UMLなど諸政党が大統領を使ってやり始めた。暫定憲法で儀式的大統領を決めておきながら,その大統領の「ご聖断」を仰ぎ,政治介入を要求する。民主国家の政党にあるまじき,幼児的行為だ。専制は権限を越えた権力行使。それを,諸政党が大統領にやらせようとしているのだ。

大統領の民主専制は,国王専制よりもはるかに恐ろしいことを忘れてはならないだろう。

【参照】ネパール王制と天皇制:苅部直「新・皇室制度論」をめぐって

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/13 @ 14:47