ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 8月 2012

青森沖セシウム汚染魚の報道姿勢

朝日新聞(8月29日)によれば,青森沖で8月9日に獲れたマダラ(真鱈)から133ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された。6月にも116ベクレル汚染魚が獲れていた。このセシウム汚染魚について,朝日は例のごとく,もっぱら「風評被害」の観点から記事を構成し,報道している。

記事見出しが「基準超すセシウム 突然の検出」「広い遊泳 影響か」であり,記者の状況説明記事に続き,某国立大教授が「消費者は冷静に」の見出しで,次のようなコメントを寄せている。

遊泳力のある魚の場合、海の中を泳いでいるのを捕まえてたまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメとみなすのは合理的とは言えない。出荷自粛や停止の範囲は限定的にすることを考えないと漁業への影響が大きすぎる。現在の規制は年間で1ミリシーベルト以下に内部被曝を抑えることが目的で、実際の被曝量ははるかに低い調査結果が出ている。消費者には冷静に見てほしい。」(朝日2012.8.29)

この記事構成は変ではないか? 常識で考えれば,はるか離れた青森沖であるにもかかわらず,基準値を超えるセシウム汚染魚が獲れた,確率は低いが皆さん用心しましょう,となるはずだ。ところが,コメントは逆。「たまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメと見なすのは合理的とは言えない」という。しかし,某教授にいわれるまでもなく,国民は誰一人として,そんなバカなことは考えてもいない。

国民は、セシウム汚染魚が獲れた以上,確率は低いかもしれないが,いま箸をつけようとしているその魚が汚染されている可能性は否定できない,汚染の有無をどのようにして知ればよいのか,そう考え,心配するのだ。

この心配は極めて合理的であり,それが分かるまでは,三陸沖方面の魚を食べるのは控えよう,というのも極めて合理的な判断だ。この国民の合理的な態度を,朝日と某教授は,「消費者は冷静に」と呼びかけることによって,放棄させ,政府追従の不合理きわまりない態度をとらせようとしているのだ。

いま朝日は,政府=財界=土建業と手を組み,「南海トラフ震災死32万人」とセンセーショナルに危険を煽り立てているが,もし三陸沖セシウム汚染魚への心配が不合理なら,この「南海トラフ震災」への心配は,その何百・何千倍も不合理だ。福島原発事故は現在進行中であり,魚は毎日のように食べる。危険の切迫度,確率は,南海トラフの比ではない。

南海トラフ震災キャンペーンは,政府=財界=学界=マスコミの共同謀議による「福島原発事故かくし」あるいは「福島原発事故そらし」といってよいだろう。

29日付朝日記事は,3.11以後,繰り返された政府発表「直ちに危険はない」「直ちに影響はない」とうり二つだ。

そのときも指摘したが,国民はそんなことは百も承知だ。大多数の国民は,中・低度被曝の中・長期的影響を心配していたし,いまも心配している。当時の政府発表は,国民をバカにし,国民の合理的心配にまったく答えようとしなかった。だから,政府も政府系専門家も完全に信用を失ってしまった。もはや,政府や政府系専門家が何を言おうと,国民はまったく信じてはいない。そして,いまや,信じない方が合理的で賢明なのだ。

29日付朝日記事は,国民をバカにし,国民の合理的かつ賢明な心配にまったく答えようとはしていない。政府=財界はまだよい。わかった上でやっている確信犯だから。問題は朝日新聞。なぜ,こんな無反省,無批判な記事を垂れ流し続けるのだろう。まったくもって不可解だ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/30 at 20:52

カテゴリー: 社会, 情報 IT

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停電20時間:省エネ超先進国ネパール

ネパールは,現在,停電7時間/日。地区割りし,スケジュール表を作り,ちゃんと停電を実施している。多少不便だが,特にどうということはない。庶民は冷静に対応している。

政府発表では,乾期になると,停電は20時間/日になる予定。やはりスケジュール表を作り,粛々と実施し変わりなく暮らす。

ネパールはヒマラヤの国であり,水力発電が中心。ダム計画はいくつもあるが,かつては環境保護団体(電力浪費三昧先進国NGO)の妨害により,次にマオイスト紛争により,そして現在は紛争後混乱により,ほとんどが頓挫,電力需要急増に追いつかない。目下期待は西セティ(750MW)の中国と,上部トリスリ(250MW)の韓国。日本はお呼びじゃないようだ。

(Nepali Times,24-30 Aug)

いずれにせよ,電力はまったく足りないので,急場しのぎにインドからの電力輸入とディーゼル発電機稼働の予定だが,焼け石に水,どうにもならない。かくて,20時間/日の革命的停電が実施されるわけだ。

この窮状を見て,このところ冴えているネパリタイムズが,社説でこんな皮肉をかましている。

首相の党にとって,パワーは銃口から生まれる。とすれば,次は発電水車からパワーを生みだすべきだろう。(Nepali Times,24-30 Aug)

ネパリタイムズの立腹はよく分かるが,それはそれとして,20時間/日停電は革命的にすごい。強いられた省エネであるにせよ,それに耐えられる社会は強靱であり,真の意味で健全である。

日本だって,敗戦後しばらくは,裸電球のほの明かりの下で夕食,一家団欒を楽しんでいた。停電は常識,TVもグルメもなかったが,時間と会話と近隣交際はふんだんにあった。

このような形で「省エネ超先進国ネパール」を紹介すると,現場第一主義者からは,安全圏からの無責任放言と非難されるかもしれないが,厳密に言えば,本人以外は多かれ少なかれ部外者,そんなことをいわれたら歴史研究も外国研究も,一切できなくなってしまう。

実感主義,クソ実証主義は,決して「事実」を見ることにはならない。20時間/日停電が「超先進的」であることこともまた,もう一つの「事実」なのである。

風力発電も原発もイヤだな
停電16時間の革命的意義
電力神話からの脱却,ネパールから学べ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/27 at 17:31

カテゴリー: 社会, 経済, 文化

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ゴルカパトラ/ライジングネパールはどうなっているのか?

ゴルカパトラ/ライジングネパールが,やはり変だ。先述のように(ゴルカパトラ、ただいま改装中2012/07/30),このところ,まったく更新されていない。7月13日ないし14日が最後。

Gorkha Patra / Rising Nepal: Recent News
“Nation faces disaster if PM quits without consensus” 2012-07-13 20:48:08
Society must preserve art, culture: Bhattarai 2012-07-13 20:47:14
CA poll best option: Gachchhadar 2012-07-13 20:46:34
………

たんなる「ネパール流」か,それとも何かあるのか? ネット版だけなのか,それとも新聞紙印刷版もそうなのか? 日本ではよく分からない。いったいどうなっているのだろう?

Written by Tanigawa

2012/08/24 at 10:33

カテゴリー: 情報 IT, 文化

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権力監視下のネット社会:原子力安全規制情報

ツイッターに教えられ,「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業報告書」を覗いてみた。経産省資源エネルギー庁の事業報告なのに,報告書表紙にはなぜか事業主の名はなく,「株式会社アサツーディ・ケイ」が前面に出ている。本文中にも,「経産省」や「資源エネルギー庁」はほとんど出てこない。これだけで,十分に怪しい。

事業目的は,要するに「風評被害」防止。

「(2) 事業の目的 インターネット上に掲載される原子力や放射線等に関する情報を調査し、そこから国民の不安や疑問がどのようなところにあるのかを分析して質問(以下Q)を作成した。そのQをもとに回答(以下A)を作成し、そのQ&Aを活用することで、風評被害を防止することを目的とした。」(1-2頁)

この報告書は,「科学的な根拠に基づく、客観的な視点でAを作成すること」(2頁)をさかんに強調しているが,人々はもはやその「(原発関連)科学」を信じていない。その基本事実を見ることなく,旧態依然たる「科学信仰」で「国民の不安や疑問」を取り除くことなど不可能なのだ。

いまでは,原発科学者の「科学」よりも庶民の原発「風評」の方が,基本的には従って安全であることを国民は知ってしまっている。したがって,税金によるこんな調査や広報が何の役にも立たないことは明白である。しかし,それはそれ,ここでいいたいのは,別のこと。

この「報告書」は,国家権力によるネット監視の具体例としては,なかなか面白い。全体のフロー図はこうなっている。

(3頁)

そして,ここでは「隠語」がキーワードとして有効とされている。身に覚えがある人も少なくなかろう。

(4頁)

収集先は,ツイッターが多いが,他にも掲示板や検索エンジンからも情報収集されている。

(9頁)

むろん,この程度のことは,ネット素人の私でも時間さえあれば可能だが,問題はこれはほんの序の口で,実際にはもっと高度なネット監視が権力によって行われているのではないかということ。たとえば,個人メール。企業が従業員のメールを監視していることは常識だが,同じことを国家も国民のメールについてやっているのではないか? これからは,メールも含め電子情報はすべて監視され,検閲されていると考えて,行動すべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/23 at 20:27

カテゴリー: 情報 IT, 人権

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赤色と桃色の競艶

おなじみの『赤星』。今日はトップにミスワールド写真を大きく掲載している。今年の世界大会は,中国内モンゴル自治区で開催され,中国女性が「ミスワールド2012」に選ばれた。

開催国,開催地,報道国,報道メディア――ぜ~んぶ,興味深い。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/21 at 20:30

カテゴリー: 社会, 文化

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大統領の専制化:選挙関連2法署名拒否

ヤダブ大統領(コングレス党)が,バブラム内閣提出の制憲議会選挙関連2法への署名・公布を拒否した(Republica, 18 Aug)。根拠は,暫定憲法第88条(1)。

暫定憲法第88条 (1)立法議会開会中を除き,大統領は,緊急対応が必要と考える場合は,この憲法の諸規定に反しない限りにおいて,内閣の助言に基づき,必要な法令(ordinance)を公布することができる。

あれあれ?! 憲法では、大統領は内閣の助言に基づき行為するはずなのに,ヤダブ大統領は,その憲法規定を根拠として,バブラム内閣提出の法律(ordinance)への署名を拒否した。議院内閣制において,そんなことがあり得るのか?

ヤダブ大統領の署名拒否理由は,11月22日予定の制憲議会選挙は事実上困難であり,また諸政党の合意もなく,大統領として「satisfy」できないから。つまり,署名・公布の諸条件が整っていないということだろう。

しかし,バブラム首相は,第88条(1)に定める「助言」をしたのであり,にもかかわらず大統領はそれに「満足」しないという。いったい,これはどういうことか? ヤダブ大統領にそのような権限があるのだろうか?

これは,日本の天皇に置き換えてみるとよく分かる。もし天皇が,内閣の「助言と承認」に満足(satisfy)せず,法律への署名・押印(御名御璽)を拒否したら,どうなるか? もし天皇がそんなことをしたら,日本の国制は根底から転覆する。天皇には,内閣の「助言と承認」に反する自由はない。何を助言されようが,たとえ天皇制廃止法であれ,機械的に署名・押印するのみだ。

ネパール大統領は日本天皇とは異なり,相当程度の政治的権限を認められている。しかし,法令署名・公布権(88条)をはじめ,非常事態権限(143条),国軍指揮権(144条),憲法施行障害除去権(158条)など,実質的な国政に関することについてはすべて「内閣の助言に基づき」権限を行使することが明記されている。それにもかかわらず,内閣の助言を無視し,選挙関連2法への署名を拒否するとは,いったい全体,この国の法治主義はどうなっているのだろう。リーガルマインドはあるのか?

このように大統領が内閣の助言を無視して行動し始めると,それは国王専制よりもはるかに危険な事態になる恐れがある。王制は歴史的に成熟した制度であり,国王には「伝統」の枠があるのに対し,大統領には,現実の力関係を別にすれば,法以外にその手を縛るものはない。その大統領が,もし法を無視し権力行使を始めたら,歯止めがきかなくなってしまう。

すでにヤダブ大統領は,制憲議会選挙には全国民的合意が必要であり,バブラム首相には選挙実施は不可能だ,と発言した。あるいは,統一共産党のオーリ元副首相によれば,ヤダブ大統領はすでにバブラム首相を暫定(caretaker)首相と認定しており,したがって大統領はバブラム首相を罷免できるし,また罷免すべきであるという。

首相(内閣)の助言に基づき行為するはずの大統領が,「満足(satisfy)」できないという理由で,首相を罷免する。そんなことがあってよいのだろうか? もし天皇が,「あいつは気にくわない」といって,野田首相を罷免したら,いったいどうなるのか?

こうしたヤダブ大統領の専制化に対し,マオイストは猛反発している。ディベンドラ・ポウデル首相顧問は,「大統領には署名・公布以外の選択肢はない」のであり,署名拒否は反民主的・反憲法的だと述べ,大統領を非難した。プラチャンダ議長も,署名拒否は混乱をもたらすと述べ,大統領を厳しく批判した。

選挙関連2法をいま成立させることが政治的に賢明か否かは,どちらとも言いがたい。しかし,それは政治判断であり,儀式的大統領の仕事ではない。コングレス党や統一共産党は,大統領の違憲の政治的利用をやめるべきだ。もし選挙関連2法を違憲と考えるのなら,政治闘争により阻止するか,もしくは最高裁に訴え阻止する努力をすべきである。それが法治主義であり,憲政の常道だ。

* Republica,18 Aug; nepalnews.com, 18 Aug; ekantipur, 18-19 Aug; Hindustan Times, 18 Aug.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/20 at 10:33

プラチャンダの政治センス:「連邦民主共和国同盟」結成

プラチャンダは,現在のネパールでは,ダントツの政治センスを持つ本物のカリスマである。

1.カリスマ政治家としてのプラチャンダ
首相就任後,直ちに「王様ベッド」を首相公邸に搬入させたこと,ルンビニ開発で米中要人や国連事務総長を手玉にとったこと,息子にエベレストを征服させ山頂に赤旗を立てさせたこと――これらすべてが,プラチャンダの政治センスの良さ,カリスマとしての資質をよく示している。

人民は,ネアカのプラチャンダを英雄として愛しており,その証拠に,大金・小金を湯水のごとく使おうが,息子が不倫・逃亡しようが,彼に失脚の兆しは無い。

プラチャンダ非難をしているのは,民衆ではなく,ひがみっぽい小物政治家・知識人である。民衆は,英雄が好きなのだ。

2.民族/ジャーティの政治的制御
その政治家プラチャンダは,他の誰よりも,民族/ジャーティのもつ破壊力を熟知している。人民戦争を勝利させ王制を打倒したのは,プロレタリア「階級」ではなく,被抑圧「民族/ジャーティ」である。

しかし,その一方,民族/ジャーティ帰属意識は非合理的なものであり,日常的な合理的制御は困難である。このこともプラチャンダはよく知っている。民族アイデンティティは破壊には使えても建設には使えない――この洞察をふまえ,プラチャンダはその政治的手腕により民族/ジャーティを政治的に巧妙に利用しつつ,マオイスト革命を前進させようとしているのだ。

3.両面作戦の力わざ
最近のプラチャンダの政策は,多民族(多アイデンティティ)州をにおわせることによりコングレス党と統一共産党に制憲議会選挙実施への譲歩を迫り,これが十分功を奏さないとみると,単一民族(単一アイデンティティ)州に比重を移し,両党の被抑圧民族/ジャーティ派に揺さぶりをかけるという両面作戦である。

難しい両面作戦だが,それを力わざで統合できるのが,プラチャンダのカリスマたるゆえんである。

4.戦略としての連邦共和国同盟
プラチャンダが8月13日結成し自ら議長となった「連邦共和国同盟」も,この両面作戦のなかの一戦略である。

この「同盟」結成により最も大きな衝撃を受けているのが統一共産党。ライ副議長は離党し,ジャナジャーティ(少数民族)のための新党結成を予定。他にも,離党を考えている単一民族(単一アイデンティティ)州主義者は少なくない。あるいは,離党ではなく,残留し,単一民族州のための党内闘争を強化していこうと考えている幹部も少なくない。(ekantipur,16-17 Aug)

そうしたなか,最も注目されるのが,バイダCPN-M議長だ。もし彼が「連邦共和国同盟」に参加することになれば,プラチャンダ議長の完勝ということになる。

プラチャンダは,単一民族(アイデンティティ)州など,実現不可能であることをよく知っている。よくわかった上で,その強力なエネルギーを政敵の破壊に利用しようとしているのだ。

こんな恐ろしく危険なことを平然と仕掛けることができるのは,彼が偉大な政治的カリスマだからである。

(参照)Anurag Acharya, “In the name of peace and constitution,” Nepali Times, 16 Aug.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/17 at 14:49