ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

米軍「部隊」ムスタン派遣と「蓮の葉」作戦

1.米軍「部隊」ムスタン派遣の報道
にわかには信じがたい話だが,報道によると,9月中旬,米軍「部隊」がカトマンズに入り,ムスタン方面のチベット国境沿いに展開,活動を始めたという。またゴルカでは,「蓮の葉」作戦開始。事実なら,ネパールは大国介入の泥沼紛争に引き込まれる恐れがある。情報源は,スジャータ・コイララ(コングレス党幹部)とA.シュリバスタバ。

▼ “US Soldiers sneak into Mustang in civilian dress, Sujata reveals,” Telegraph Nepal,n.d.(accessed 2012-10-01).

▼Arun Shrivastava, “US Soldiers in Nepal on China’s Tibet Border, On a Reconnaissance ‘Humanitarian Mission’,” Global Research, September 22, 2012.

以下,詳細なシュリバスタバ記事を中心に,紹介する。ただし,同記事の裏付けはまだとれていない。

2.米軍「人道ミッション」部隊
9月第3週初,65人の米兵がカトマンズに入り,カスキ郡ディクルポカリに移動した。その後,「部隊」はムスタン郡やマナン郡のチベット国境沿いを移動し活動している。65人といえば相当数であり,「部隊」といってよいだろう。(Dhikurpokhari:カスキ郡の千数百戸(約7千人)の町。プラチャンダUCPN-M議長出身地。)

米軍「部隊」の派遣目的は,地域住民の保健衛生の調査であり,「人道ミッション」ということになっている。しかし,もしそうなら,軍人ではなく,文民の保健医療専門家のチームを派遣すべきであろう。

3.先遣偵察隊か?
シュリバスタバによれば「人道ミッション」は偽装であり,米軍「部隊」は,チベット国境沿いの敏感地帯で,地形や補給路,そして住民の動向などを調査することが本当の目的のようである。先遣偵察隊というわけだ。

ネパールのチベット国境沿い付近では,以前から,CIA要員が諜報活動をしているといわれてきた。何人かは,退役後,諜報活動をしたと自ら語っている。

このところ,僧侶の焼身抗議などでチベット情勢が緊張してきている。また,国境付近は,ジャナジャーティ(少数諸民族)運動によりネパール政府の監視も行き届かなくなっている。米軍「部隊」派遣は,そうした状況を捉えての偵察作戦といってよいであろう。

4.欧米の途上国援助の目的
シュリバスタバによれば,もともと欧米の諸機関やNGOなどの途上国援助は,欧米にとって不都合な指導者たちを排除し,混乱を引き起こし,欧米に好都合な体制を作ることを暗黙の目的にしている。

ネパールについても,ジャナジャーティに関するあらゆるデータが,それらの援助機関やNGOあるいはキリスト教会などにより収集され,すべてCIAなどに引き渡されているという。米国は,そうした援助やデータを利用して混乱を引き起こし,介入し,ネパールに地歩を築こうとしているという。

5.「蓮の葉」作戦
この目的のため,米国はゴルカに「蓮の葉」を設置したか,あるいはこれから設置する。はっきりしないが,おそらく,すでに設置されているのだろう。「蓮の葉(lily pad)」とは何か?

▼ David Vine,”Expanding US Empire of Bases: The Lily-Pad Strategy: How the Pentagon Is Quietly Transforming Its Overseas Base Empire and Creating a Dangerous New Way of War,” Frontlines of Revolutionary Struggle, July 15, 2012.

バインのこの記事によれば,「Lily Pad」とは,蛙が獲物を狙って潜んでいる池の水面上にポツリポツリと浮かぶ「蓮の葉」のような,小さな軍事基地のことである。武器・弾薬を備え,ごく限られたスタッフのみが関与する秘密基地。

米軍は,冷戦型大規模基地を縮小し,この21世紀型「蓮の葉」基地の世界ネットワークを拡大している。2000年以降,すでに50カ所に設置されたという。

「蓮の葉」は,秘密裏に展開され,柔軟かつ迅速に事態に対応できる。しかも,単に軍事行動だけでなく,地域の政治や経済に介入し,親米の環境をつくり出していく。

バインによると,このような「蓮の葉」作戦は,特に途上国にとって危険だという。第一に,小規模秘密基地というが,いったん設置されると,ビヒモス(怪獣)となる。第二に,民主化といいつつも,実際には地域の専制や腐敗を助長する。第三に,紛争の平和的解決への意欲をそぎ,世界を軍事化する。

たしかに,バインのいうように,「蓮の葉」作戦は危険である。アメリカが途上国に「蓮の葉」をつくれば,当然,ロシアや中国もそれぞれの「蓮の葉」をつくる。こんなことになれば,草の根からの世界の軍事化は避けられない。

しかも,グローバル化時代の「新しい戦争」に対応するため,「蓮の葉」は地域の政治や経済にも介入する。軍民分離の大原則は否定され,軍民協力による地域の軍事化が止めどもなく進行する。

ネパールにとって,この米軍「蓮の葉」作戦が極めて危険なのは,もし米軍が「蓮の葉」をネパールのあちこちに浮かせるなら,当然,中国も同じことをして対抗するからである。

米国「部隊」が,ムスタン郡やマナン郡で「人道ミッション」として活動し,またゴルカ郡に「蓮の葉」を浮かべたのは,いうまでもなく中国・チベットの動向をにらんでのことである。

そして,もし米国がチベット国境沿いで地域のジャナジャーティ(少数諸民族)に働きかけ親米化しようとするなら,当然,中国も彼らに働きかけ反米・親中としようとするであろう。国内のジャナジャーティ紛争のはずが,そこに米中が介入すると,紛争を激化させ,ついには自分たちでは解決できないほど事態を悪化させ泥沼化させる恐れが多分にある。

ところが,バブラム・バタライ首相は,米国「部隊」の入国・移動・活動を黙認し,また国軍高官を同行させたりしているという。シュリバスタバはこう糾弾する。

「現在の指導者たちや民族連邦主義NGOが安定した民主的政府を実現してくれると期待し黙って待っているのは,ネパール国家国民の自殺だ。欧米諸機関を信用し援助を期待するのは,それ以上に愚かなことだ。」

6.ネパール政治の混乱と外国介入
それにしても,これはいったい全体,どういうことなのであろうか? 偶然の一致というには,できすぎている――

■米国が「蓮の葉」秘密基地を設置したゴルカは,バブラム・バタライ首相の地元。
■米軍「部隊」のカトマンズからの移動先のディクルポカリは,プラチャンダUCPN-M議長の出身地。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/10/03 @ 10:42