ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

クリスマスと布教の自由問題

1.ネパールのクリスマス広告
ネパールのクリスマス広告は、一時よりは控え目となったが、それでも新聞には大きな広告が出ているし、ヒンドゥー教徒の友人からもクリスマスカードが多数送られてくる。キリスト教は、商売先行だが、着実に勢力を拡大しつつある。

121224a ■Republica, Dec24

 121224b ■YES KANTIPUR, Dec24

2.布教活動の活発化
アジアニュース(カトリック系)によると、今年は、ヒンドゥー原理主義者の脅はなく、被昇天大聖堂教会では、ヒンドゥー教徒も仏教徒も参加し、安心してクリスマスを祝うことができる。これは、クリスマスが国家祭日として公認されたことが大きいという。

“2006年のヒンドゥー王制崩壊後、政府は、観光促進のためクリスマスを国家祭日とした。これによりキリスト教徒は、聖像などを店内でも、教会や自宅の外でも飾ることができるようになった。現在、カトリック教徒は1万人。これは、2006年の世俗国家移行時よりも4千人の増加である。

宗教の自由が拡大したことにより、信仰を公にするカトリック教徒の数が増えた。教会は、クリスマス行事を行い、庭には十字架やツリーや花環を飾っている。もはや装甲車は必要ない。

このように表に出て活動できるようになったおかげで、多くの人がカトリックに関心を持ち始めた。カトマンズのある小さな教会では、クリスマス・ミサで24人が洗礼を受ける。ほとんどがヒンドゥー教徒だ。

大聖堂教区ロビン・ライ神父は、人類のためにイエスが生まれたことの本当の意味の証となるよう、信者に呼びかけた。「すべての人が信仰告白により信仰を強化し、キリストのお告げを全国にあまねく広げていってほしい。」

ネパールでは、近年、たいていはヒンドゥー過激派によるものだが、少数派宗教への攻撃が続き、殺害もあった。最悪の事件は、2009年5月23日のカトリック大聖堂攻撃であり、このときは2人が殺され、13人が負傷した。

2011年からは、保守諸政党の提案する改宗禁止法の施行もまた、議論されるようになった。しかしながら、この刑法改正への動きは、新憲法制定問題のため、いまのところは議会で止まっている。”(Asianews.it, 2012-12-20)

3.カトリックの柔軟さと強さ
カトリック教会は、形式主義でありながら、いや形式主義だからこそ、きわめて柔軟であり、それがプロテスタントにない強みとなっている。とにかく、利用できるものは何であれ、布教に利用する。

前掲記事では、「観光促進のためクリスマスを国家祭日とした」と皮肉・嫌味をいいながら、ちゃっかりそれを布教に利用している。キリスト教団体幹部のKB・ロカヤ氏は、クリスマスはヒンドゥー教徒のビジネス・チャンスになっていると皮肉りつつも、「その盛り上がりにより、少数派キリスト教徒の境遇は改善された」と歓迎している。

あるいは、アジアニューズの別の記事(12月10日)は、在ネパール国連人権担当官ロバート・パイパー氏がクリスマス慈善フェアに出席し開会を宣言したことを特筆し、「大部分の慈善用商品はキリスト教徒、ヒンドゥー教徒、仏教徒がつくったクリスマス関連商品であり」、フェアの成功はこれらの人々の「勝利」であると高く評価した。ここでもカトリック教会は、信仰の純粋さなど問題にせず、とにかく利用できるものは利用し、キリスト教受容の下地をつくり出すことに努力している。理屈のプロテスタントにはない、カトリックの幅の広さと強さである。

4.布教禁止規定の存続
先の記事にあるように、キリスト教にとって最大の法的障害は、憲法の改宗強制(布教)禁止規定である。これは世界最先端の超進歩的暫定憲法にも、以前の憲法からそのまま継承され、残っている。

「何人も、他の人を別の宗教に改宗させることはできない。」(第23条1)

これはもちろん改宗強制の禁止規定だが、布教は改宗勧誘に他ならず、容易にこの規定により禁止できる。そして、事実、この規定により布教は事実上禁止されるか、あるいは厳しく制限されてきた。

この改宗強制禁止規定が、西洋諸国の強い反対にもかかわらず、暫定憲法に残されたのは、まさに布教問題こそが、ネパールのヒンドゥー教社会の死命を制すると見られてきたからである。布教禁止規定の正否・善悪は別として、この状況認識そのものは、正確に問題の核心を突いていると言ってよいだろう。

現在、正式憲法の制定が焦眉の課題となり、そこでは連邦制に議論が集中しているが、ネパールの国家社会にとっては、それよりもむしろ、この布教禁止規定ををどうするかの方が、長期的には重要な問題だといっても決して言いすぎではあるまい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/24 @ 17:43