ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

クリスマスと墓地問題

1.ユニセフのキリスト教支援
ネパールでは、世俗国家宣言後、クリスマスも国家祭日となり、キリスト教にとって状況は大きく好転した。たとえば、これはユニセフのフェイスブック。ネパールの子供たちに「クリスマスおめでとう!」と言わせ、世界に向け、ユニセフの権威をもってキリスト教を宣伝している。

121225a ■ユニセフ・フェイスブック(2012-12-25)

むろん、クリスマスはすでに「国家祭日」として公認され、また宗教行事と言うよりは習俗だから、ユニセフがネパールの子供たちに「メリークリスマス」と言わせても問題はない、という意見もあろう。

しかし、これは、英語は世界共通語だから英語を話して当然、という英語帝国主義と同じ論法である。こんな論理を認めると、世界共通語ではない言語は二流、三流言語となり、いずれ抹殺されてしまう。

同じことが、キリスト教についてもいえる。キリスト教は大宗教であり、世界中に普及しているから、ユニセフがネパールの(異教徒であろう)子供たちに「メリークリスマス」と言わせてもよいということになれば、他の少数派宗教はどうなるのか? ユニセフが、様々な小宗教の祭日に、同じことをするはずがない。ユニセフが世俗機関なら、特にネパールのような国では、無邪気な子供を利用して特定の宗教の宣伝をするようなことはすべきではない。

基本的人権は、子供にも少数派にも当然認められている。いや、守られなければならないのは、まさに彼らのような弱者の人権である。このユニセフ写真の子供の基本的人権は守られているのか? ネパールの他の宗教の人々の人権への配慮はなされているのか?

2.キリスト教墓地問題
クリスマスは、また懸案の墓地問題をも再浮上させた。(以下、参照:Anjali Subedi, “Christians don’t get secular-state feel,” Republica, Dec25)

キリスト教徒は、イエスの下での死後の復活を信じている。復活には身体も必要だから、遺体は墓地で保存されなければならない。キリスト教徒にとって、墓地は必要不可欠のものなのである。

旧体制の下では、キリスト教徒は、暗黙の了解の下に、たとえばパシュパティナートの森の墓地を利用してきた。ところが、「人民運動Ⅱ」以後のアイデンティティ政治の激化により、宗教アイデンティティの明確化が進み、パシュパティナートの利用はヒンドゥー教側に拒否された。

こうしてキリスト教墓地が、世俗国家ネパールの早急に解決すべき大問題となって急浮上した。キリスト教会側は、「全ネパール・キリスト教連盟(FNCN)」が中心となって政府と交渉し、この5月、「6項目合意」を取り付けた。「合意」によれば、政府は「キリスト教委員会」を設置し、クリスマス以外のキリスト教祭日(イースターなど)も「国家祭日」として公認し、墓地については墓地問題特別委員会を設置して問題解決に当たることになった。

「連盟」側の説明によれば、「合意」において政府はゴティケルに2000ロパニ(100ヘクタール)の墓地を用意する約束をした。そして、この2000ロパニについては、現地の住民もラリトプル郡当局もすでに同意している。ところが、政府の承認がないため、墓地はいまだに棚上げにされたままだという。

これに対し、墓地問題特別委員会によれば、政府は、すべての宗教共同体に対し墓地を分配することはできないが、それぞれの宗教共同体が墓地を購入することは認めるし、墓地使用の安全も保障するという。

「連盟」と政府との交渉の詳細は分からないが、ゴティケルにキリスト教墓地がまだ設置されていないのは事実である。ただ、国家と宗教共同体との関係から言えば、国家が直接墓地を宗教共同体に供与するよりも、特別委員会の勧告のような間接的な関与の方が望ましいことはいうまでもない。

121225b ■ゴティケル(google)

3.墓地闘争の強化
いずれにせよ、キリスト教墓地はまだ実現しておらず、「連盟」はクリスマス闘争に引き続き、墓地闘争を強化すると宣言している。

「連盟」によれば、この11月発表の2011年人口調査では、キリスト教徒は30万人とされているが、実際には、教会は8500あり、登録信者だけでも250万人にのぼる。事実とすれば、全国民の10%弱に相当する。すでに大勢力である。

こうした勢力拡大を背景に、キリスト教徒は、クリスマス・イブにカトマンズでバイク行進を敢行した。そして、25日には、バブラム首相を招いてアカデミーホールでキリスト教大集会を開催する。

「われわれは、深夜までクリスマスを祝い、主イエス・キリストの全人類への愛と犠牲を広く宣べ伝えていきたい。」(FNCNカボ副会長)

「全ネパール・キリスト教連盟」は、クリスマス後、墓地問題をはじめとする諸要求の実現のため、抗議活動をさらに強化していくという。

4.政教分離のあり方
キリスト教は、ネパール社会では少数派であり、行使が認められるべき自由や権利を国家に対して要求するのは当然である。しかし、その一方、他の少数派とは異なり、ネパールのキリスト教徒の背後には圧倒的に強大な世界のキリスト教社会が控えている。

ユニセフですら、キリスト教を応援している。他の宗教が、同等の支援をユニセフに求めても、はなから相手にされないであろう。キリスト教は、世界社会ではそのような特権的な位置にいる。

このことは、ネパールのキリスト教会もよくよく考えて、行動すべきだろう。たとえば、墓地を政府に要求し造らせるのは、欧米諸国民の応援もあり、たしかに手っ取り早いであろうが、これは政教一致であり、極めて危険である。ヒンドゥー教国家が認められないなら、キリスト教国家も認められるべきではない。迂遠かもしれないが、やはり政教分離の原則に則り運動し、宗教集団に当然認められるべき諸権利の実現を目指すべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/25 @ 18:51